マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第8章謎かけ姫ー策略、諧謔、才智 ラスト
いろいろな謎話を見てきましたね。
本書に出てこなかった謎話もたくさんあります。
きっと、みなさんにも心当たりがおありでしょう。
《日本の昔話》で紹介している「化け物問答」も謎話ですね。
ストーリーそのものが謎だったりします。だから、昔話と謎は本質的に近い関係にあると、リュティさんは言います。
ロートリンゲンとかエーガーラント(どちらもドイツの国境地帯)とかの方言では、昔話と謎が同じ言葉だそうな。
昔話にも謎にも、秘密とか神秘のにおいがするし、同時に晴れやかな遊びにも見えます。どちらも、起源はまだわからないんだけど、存在の秘密をあかそうとする努力と美的な形成の喜びが、両者の成立に深くかかわっているようです。
昔話と謎は、世界中の民族で伝承されています。
昔話の中で謎をかけたり解いたりする人物は、お姫さまや百姓女に限りません。
賢い若者、ぼんくらな若者、王さま、羊飼い・・・
笑い話「ラ・レアールの修道院長」(こちら⇒)を見てください。
王さまの、たちの悪い謎に、羊飼いが天才的な答えを出します。
昔話では、目立たない者や軽んじられているものが、思いがけなく本当はたいへん値打ちがあるものです。うわべと中身が違っているのです。
その意味で、昔話の主人公の多くは、謎の人物です。
これは、社会批判とかではなくて、昔話の語り口、語法なのです。
「灰かぶり(シンデレラ)」は謎を地でいった謎かけ姫です。灰かぶりは、三度の舞踏会で、王子に、言葉ではなくて事実で謎をかけています。王子は、行為で謎を解いています。
創作文学の作者は、昔話に特別な魅力を感じてきたと、リュティさんは言います。
なかでも謎話はとくに愛された。
この章の最初に出てきたシラーだけでなく、たとえば、シェークスピア。
「ベニスの商人」のなかのポーシャ姫の謎、「ペリクリーズ」のなかのアンタイオカス王の謎。
民衆の中に広がっている昔話が、創作文学に影響を及ぼし、豊かにしているという面があるようです。リュティさんは、作家たちが昔話から力と励ましを汲みとっているといいます。
はい、おしまい。
次回は第9章昔話の主人公ー昔話の描く人間像 です。