「グリム童話よもやま」カテゴリーアーカイブ

ろばの子~泉の水🤴

KHM144「ろばの子」は、グリム童話なんだけど、赤ずきんやいばらひめやおおかみと七匹の子ヤギのようには、一般に知られていないです。
グリム兄弟が200話の中から50話を選んで「小さい版」を編集したんだけど、それには載せられてない。だからということもあるのかな。

でも、「ろばの子」はとってもいい話なんですよ。

ひと口でいえば、子どもが成長するためには何が必要かがばっちりわかる。
しかも、子どものない王さまとお妃の間にやっと生まれた子がろばだったっていう、実際あり得ないファンタジーの世界でしょ。つまり、昔話がいかに子どもの育ちや人間存在の本質を語っているかってことがわかるのです。

ろばの子が生まれたとき、おきさきは、川に捨てちゃいましょっていうんだけど、王さまは、ろばだってわが子だっていって、将来王さまになるんだからって、大事に大事に育てるんです。

親の愛を一身に受けてすくすく育つ王子。
明るくて快活ないい子になります。
ところが、あるとき、たまたま散歩していて、泉の水に映った自分の姿を見ます。
ろばやんか!!
ろばの子は、お城を出て広い世界をさまよいます。

自分がろばだってわかったときの王子さまの心は、「悲しくなった」としか描写されません。
昔話は、内面を表さない。これ、昔話の平面性の表れね。
自分を人間だと思い込んでいて、というか、そんなことすら意識しなかった子どもが、じつはろばだったと自覚した。
これ、他人から言われたら、腹を立てたり反発したりするでしょうね。
でも、泉の水は、うそをつかない。
自分を客観的に見た。はじめて客観的に見た。

これは、人間の成長過程で、必ず起こることですよね。
おぼっちゃんが、現実を知る瞬間。
「悲しくなった」ではすみませんよね。でも、昔話は「悲しくなった」としか言わない。
とっても複雑な心のうちは、千万言尽くしても表現し尽くせないもの。
しかも、とってもナーヴァスな問題だから、ひとりひとり思いは違うし、他とは比べることができないし。

そこで、内面描写は思い切って削除して、出来事だけを述べる。
そのおかげで、聞き手は、主人公に起こった出来事を自分のこととしてとらえることができる。
それが、昔話の良さだなって思います。

さてさて。
幼いときに無条件で愛されていたことが、この王子に、ひとりで現実を生きる力をあたえてくれる。
そして、成長過程で出会った、よそのお城の王さまは、何を与えてくれたのか・・・
「ろばの子」、全文を読んでください。感動するから。

昔話の語法勉強会(2/6)では、テキストを詳細に読み解いていきます。
ろばの子にとってお姫さまの存在とかも考えますよ~

お申し込みはこちら⇒語法申し込み

ホレばあさん❄️

久しぶりにグリム童話よもやま話です。
最近「ホレばあさん」を子どもに語る機会がありました。
「ホレばあさん」については以前にも井戸端会議で取り上げています。⇒こちら
昔話雑学でもまとめてあります。⇒こちら
合わせて見てくださいね。

KHM24「ホレばあさん」 「ホレおばさん」とも

エーレンベルク稿では37「モルモット」。似ているけれど違う話です・
初版からは24番です。そののちも内容には大きな変化はありません。

話型は、ATU480「親切な少女と不親切な少女」
まんまですね~笑
類話はたくさんあります。
ロシア「がちょうはくちょう」(『おはなしのろうそく』)
ロシア「十二の月のおくりもの」(『おはなしのろうそく』)
フランス「井戸の底の贈り物」⇒こちら
イギリス「地のはての井戸」⇒こちら
アメリカ「ものをいう卵」⇒こちら

ルース・ポティックハイマー『グリム童話の悪い少女と勇敢な少年』(紀伊国屋書店)によると、グリムの「ホレばあさん」では、美しい娘は、パンを窯から出してあげたりリンゴの木をゆすって実を落としてあげたりして親切ですし、ホレばあさんの言いつけ通りに仕事をする働き者です。だからホレばあさんから贈り物をもらうんですね。醜い娘は不親切で怠け者なので、罰を食らいます。

わたしは、パンの焼け時やリンゴの熟し時を知ることができて、ホレばあさんが雪を降らせるのを手伝うことができる娘は、自然と交わることができる力を持っていると感じています。

それはさておき、主人公が地下の世界に行って、そこの住人から宝をもらってくるっていう形、めっちゃなじみがありませんか?
おじいさんが、ねずみあなに入っていって、ねずみから宝物をもらってくるのと同じでしょ?
しかも、欲張りじいさんもいて、同じことをして失敗しますよね。
ドイツの「ホレばあさん」と日本の「おにぎりころころ」が同じ形をしているなんて、不思議ですね~

さてさて、1月17日の昔話の語法の勉強会では、この「ホレばあさん」をとりあげますよ~

 

 

ふたりの兄弟🤴🤴

お彼岸ですね。
手作りおはぎをどうぞ~

きょうはグリム童話を取り上げます。
『昔話の本質と解釈』に、竜退治の話として、なんどもでてくる「ふたりの兄弟」
長いからあんまり読まれることも聞かれることもないと思うんですが、壮大なファンタジーです。とっても面白いし、たいじなモティーフがたくさん出てきます。

きょうのおはなしひろばにUPしたので、聞いてください。
50分かかりますので、覚悟して(笑)
これでも、ページ数にしたら半分に縮小したんですよ~
動物たちの言葉のやり取りなど、笑い話的なところは、涙を呑んでカットしました。ぜひ、元の物を読んでみてくださいね。
でも、大事なモティーフは欠かしていませんよ~o(*°▽°*)o
こちら⇒《おはなしひろば》「ふたりの兄弟」

グリム童話KHM60。「二人兄弟」とも表記されます。
第2版から童話集に入ったそうです。
類話が多く、世界じゅうに古くからあったそうです。伝説や神話にもあります。

発端の、金の鳥の心臓と肝臓を食べると、朝起きたとき、枕の下に金貨があるというモティーフ。好きなんですよ~。じつは朝鬱なので(笑)
これを中心にした、独立した話型にもなっています。
ATU567「魔法の鳥の心臓」。

ストーリーの中心になるのは、竜退治の部分。
ATU300「竜退治」として、たくさんの類話を持つ話型です。
日本でも神話「やまたのおろち」(こちら⇒)や昔話「猿神退治」(「しんぺいとうざ」)があります。

兄弟が分かれ道で木の幹に突き刺しておくナイフ、あのモティーフもおもしろいですね。主人公の安否を知らせるので、「生命の標識」といいます。
生命の標識は、刀だけでなく、鏡や水、木などがあります。古くはエジプトの「二人兄弟」の類話に出てきますよ。紀元前1200年ごろです(★‿★)

それから、「貞節をあらわす抜き身の剣」のモティーフも、古い。
兄が、夜にベッドで、弟のお妃との間に剣を置きますね。あれです。

うさぎが取って来る「命の水」も魅力的ですね。
どんな病気でも傷でもたちどころに治す命の水。
主人公を援助する5匹の動物のうちで、もっとも小さくて弱いうさぎが、決定的な力を持っています。

あれやこれやのモティーフが豊かに組み合わさって、「ふたりの兄弟」は、ATU303「双子または血を分けた兄弟」という話型になっています。

『オットー・ウベローデグリム童話全挿絵集』古今舎刊から、「ふたりの兄弟」の挿絵を貼っておきます。
どの場面か分かりますか~?

 

 

ハンス針ねずみ坊や🦔

おはなし選びは難しいねえ。
ずいぶん昔にグリム童話「ハンス針ねずみ坊や」を覚えて勉強会で聞いてもらったことがあった。
今勉強している典型的なけもの息子の話ですよ。

主人公は、下半身は人間で上半身はハリネズミ。かわいくないの。
両親は疎ましがって、ハンスを追い出してしまう。
ハンスは、自分を認めないお姫さまを、針でチクチクさしてけがをさせるのね。かわいくないの(笑)

その勉強会で、「どうしてこんな話を選んだのか?」と批判された(;´д`)ゞ
「なぜその話を選ぶのか」って考えることはとっても大事だけど、それを否定的に批判するのは、その話に対しても語り手に対しても失礼やね(笑)

その後リュティの『昔話の解釈』を読んで確信できたんだけど、その時はうまく説明できなかった。
人はだれでも獣であったときがある、そこから人間になるには、苦しみもがかないといけない。本来の自分に成長するための苦しみね。それは必ずしも美しい戦いではない。
それを説明できなかった。

説明できなかった自分が情けなくて、それからはもう語っていません。
もし批判されなかったら、説明できなくても、子どもたちに語っているうちに、きっとこの話の本質を子どもたちから教わったと思う。
もったいないことしたなあ(笑)

だから、みなさん、だれかに「なんでそんな話を選ぶ?」って批判されても、無視してください。
そして、だれにもそんな批判をしないでください。もし聞いて違和感があれば、それがなぜなのかを自分の問題として考えましょう。相手を批判せずに。そうすれば自分が成長できます。
たいていのことは、相手を批判しても成長できない ̄へ ̄

うん、そんなことを、一昨日のブログ書いてて思いだしたの~

KHM108「ハンス針ねずみ坊や」は、ドロティア・フィーマンっていうおばさんが、グリム兄弟に語った話。
グリム兄弟は、フィーマンおばさんの話を高く評価していてね。グリム童話は初版の後7版まで改訂していて、再話の文章に手を入れているんだけど、フィーマンおばさんの話だけは、一貫して手を入れていないのです。
そんなことも、「ハンス針ねずみ坊や」を語ってみようと思った理由のひとつだった。
「がちょう番の娘」「かしこい百姓娘」「ものしり博士」「鉄のストーブ」なんかもフィーマンおばさんがグリム兄弟に提供しています。

さて、今日おはなしひろばにUPしたのは、「いのししの王子」
このいのししは、あの針ねずみとちがって、かわいいのよ(笑)
お相手の娘もとってもかわいいの。

「ろばの子」は高学年にぴったりだけど、「いのししの王子」は中学年向きかな。

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「手のシミが気になりませんか」
化粧品会社の広告があった。
え?
手のシミ?
あらためて、じっと手を見る(笑)
思い出した。これは、なつかしい祖母の手だ。亡き母の手だ。
こうやって人は、時を越えてつながっていくのだ。
シミができるまで生きてこられて、ほんとによかった。
このシミを消してなるものか!(笑)

グリム童話「きつねとがちょう」🦊

あんまり語られることのないグリムだと思う。
短くて軽いおはなし。
わたしは、けっこう好きで、以前はおまけの話でよく語っていました。
でも、がちょうのお経が、あんまりいつまでもつづくので、のどが痛くなってしまうので、最近は語らない(*^-^*)

初版から入ってるんですよ。
KHM86「きつねとがちょう」
ほら、「ブレーメンの音楽隊」や「金のがちょう」を伝えたおうち、パーダーボルンのハクストハウゼン家の伝承です。

ハクストハウゼン家、興味ありますねえ(❁´◡`❁)
グリム兄弟に50話以上提供しているらしいです。
ざっと数えたら、37話がグリム童話に入っていますね。
「熊の皮を着た男」もそうです。

グリム兄弟は、ゲッティンゲンで、ハクストハウゼン男爵と知り合いになって、お家に招待されるんですって。そこに、10歳のアンナがいて、アンナたちから聞いた昔話を記録したそうです。
お年寄りからではなくて、少女から昔話を聞いたんですね。ちょっと意外。

さて「きつねとがちょう」
ATU227
話型名は「がちょうが祈りのための一時を請う」
おもにヨーロッパに分布しているようです。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「きつねとがちょうたち」

はい、おしまい。

今日は図書館で借りた本を、ボ~っと読んで過ごしています。
暑くって、元気が出ない(;´д`)ゞ