たいへん遅くなりましたが、ききみみずきんより、11月18日「おはなし入門講座」第3回のご報告です。
今回は、「どうやっておぼえるの?」
おはなしの覚え方と語り方がテーマでした。
講座の内容に入る前に、前回の宿題、受講者それぞれが選んだおはなしのテキストのコピーを提出しました。そのお話を選んだ理由も聞かせていただきましたが、皆さん思い入れや魅力を語ってくださり、今から来月の発表が楽しみになりました。
さて、講座第三回はヤンさんの語り「三びきの子ブタ」から始まりました。石井桃子訳『イギリスとアイルランドの昔話』(福音館書店)のテキストです。最初と二番目の子ブタがオオカミに食べられてしまったり、三番目の子ブタがオオカミを食べてしまう結末など、みんなが知っているお話との違いを話し合いましたが、これがイギリスに伝わるオリジナルの昔話であることを聞きました。昔話の一見残酷に思えるストーリーが実はそれこそが子どもに必要なものであることなど、昔話の魅力の一端に触れて、いよいよ覚え方に入っていきます。
まず最初にすることは、ストーリーをおぼえる。
①全体を声に出して何回か読む
この時、ただ文字を追うのではなく、場面をイメージしながら読みます。物語が映画を見ているかのように脳裏に再現できるまで読みましょう。この時に築いたイメージが、覚えるときにも、そして何より、語るときに重要なカギになってきます。おろそかにしてはいけないと改めて思いました。
②あらすじを書く
元のテキストを見ないで書き出してみましょう。テキストと照らし合わせて、抜けている部分や思い違いをしている部分をチェックします。
③意味段落に分ける
小学校の国語の授業でやった、あれです。意味段落の目安として、
1.場面が変わったとき
2.時間が経過したとき
3.登場人物の出入りがあるとき
があげられます。みんなで「三びきの子ブタ」の段落分けをやってみました。エピソードがきちんと三回繰り返され、出てくるモチーフの順序も定まっていて、形の整ったおはなしだということがよくわかりました。
さて、いよいよ覚えていきます。
一日に一段落ごとおぼえる
段落をさらに一度に覚えられる長さで数行ずつに分けて、しっかり大きな声を出して繰り返し読みましょう。自分の声を耳から聞くことで覚えられますし、大切にしたいのは言葉のリズムを感じ取ること。よいおはなしは心地よいリズムを持っているのです。
イメージしながらおぼえる
細かいイメージを深めながら覚えていきます。実際に見たり、体験したことをイメージするのもよいでしょう。語り手のイメージがそっくりそのまま聴き手に伝わるわけではありませんが、語り手の発する言葉にリアリティを与えます。これは、私はストーリーテリングに出会ってから実感するようになりましたが、お芝居でも、スピーチでも、国会答弁でも、話す人が言葉にどれだけの思いを込めているか、伝わり方が全く違います。イメージすること、これがストーリーテリングの肝といっていいと思います。
一つの段落を完全におぼえてから、次の段落に移る
意味段落で覚えることで、自然に語りの間も生まれます。そして、大事なポイントが、次の日は前の日に覚えた段落を復習しないこと。それを繰り返すと、初めに覚えた段落の練習ばかり重なり、後に覚えた分と練習量が変わることで、イメージの深み、ひいては語りの厚みに差が出てしまいます。結末が尻すぼみになってしまっては、どんなハッピーエンドも台無しです。これはその後いくら長く続けてもその蓄積は変わることがありませんから、おはなしのバランスは永遠に失われてしまいます。こわいですね!
すべての段落をおぼえたら、初めて最初から最後まで語ってみる
すると、当然ですがたくさん忘れているところがあります。そこはテキストを見て修正し、必要に応じて重点的に練習します。
最初から最後まで覚えたら、以降は日常的に語って練習します。家事や散歩をしながらでも、ぶつぶつぶつぶつ語って、自分の口に耳に、お話をなじませてしまうのです。ヤンさんはよく「寝ていても語れるように」とおっしゃるのですが、そこまでいけば、もうそのおはなしは、あなたのものです。
もっと早く覚える方法はないのか?と思いますが、時間をかけて、じっくりお話を付き合うことが大事です。そして、聞かせたい人に語って、反応が得られれば、おはなしは立体化します。
物語を耳から聞いて想像して楽しみたいという普遍的な欲求があるのではとヤンさんはいいます。古代エジプトの昔話に、現代にも伝わる昔話の類話があるとか。スマホ全盛の時代ですが、子どもは今も昔も変わっていません。子どもたちはおはなしが好きです。その想像力も、純粋さも、正義感も失われてはいません。子どもたちに、よいおはなしを届けて、よりよい未来につなげていきたいと思います。
最後に語り方のポイントを。
上手に語ろうとしない
話しなれない口調や声色を使ったり、大げさに演技したりせずに、気取らず、自然体で語りましょう。聴き手は語り手を見に来ているのではなく、おはなしを楽しみに来ています。語り手は前面に出すぎてはいけません。聴き手に、物語を手渡すのみです。
最後まで語る
語り始めたら、忘れようとも間違おうとも、とにかく結末まで語ること。語りは、聴き手への「おもてなし」です。責任をもって、お話を終わらせてください。言葉が出てこないときは、自分のイメージから言葉を絞り出して、先に進む。ここでもイメージが助けてくれます。おはなしの力を信じることです。結末に向かって、主人公が連れて行ってくれると信じて、語りましょう。
今回も主催側である私たちにとっても有意義な講座となりました。
受講生の皆さまには、会場の変更によるご不便をおかけしましたこと、また資料配布に不手際がありましたことお詫び申し上げます。
次回12月16日はいよいよ最終回、実際に語る発表会です。
楽しいおはなし会になると思います!どうぞ皆さん、かぜなどおめしになりませんように!