「児童文学を読む」カテゴリーアーカイブ

ロンドン・アイの謎

シヴォーン・ダウト著 越前敏弥訳 東京創元社 2022年

ロンドンには、1周30分かかる観覧車がある。ロンドン・アイっていうんだって。
それにサリムという少年が乗り込んだんだけど、30分後、その子は下りてこなかった。
本格ミステリーです。

この謎を解く主人公は、サリムのいとこの12歳の少年テッド。
テッドは本人言うところの「症候群」のせいで、頭脳の働きがほかの人とは違っています。
人の感情を読み取るのが苦手。それで、日々とまどったり、友だちができなかったり、家族とうまくいかなかったりするのですが、ひたすら誠実に、自分に正直に生きています。

テッドは、ものすごいこだわりを持って、この失踪事件を解決しようとします。
彼の頭脳は、びっくりするほど明晰です。
彼を取り巻く人々、姉のカット、両親、サリムの両親の想いや行動が生き生きとリアルに描かれていて、読みごたえがあります。

ラストは、危機一髪でサリムの命が救われます。

いま、その続編の『グッゲンハイムの謎』を読んでます。
読む本があるのは、いそがしいけど、し・あ・わ・せ!

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今日のホームページ更新は《日本の昔話》「山の神と童子」。
日本のはなしにしては15分と、けっこう長いです。
語ってくださいね~

 

死の森の犬たち🐶

アンソニー・マゴーワン作 尾崎愛子訳 岩波書店 2024年

『荒野にヒバリをさがして』でカーネギー賞を受賞したアンソニー・マゴーワンの作品です。⇒こちら

表紙絵の背景に見えているのは、チェルノブイリ原発です。
1986年、ウクライナのチェルノブイリ原発が大事故を起こしたとき、ニュースで聞いて震え上がったことを思い出します。
日本でも雨が降ったら放射能が降ってくるってうわさが駆け巡りました。

『死の森の犬たち』は、ナターシャの7歳の誕生日、真っ白で片目が青色、もう片方の目が茶色の子犬をもらうところから、物語が始まります。
ナターシャは、子犬がほしくてたまらなかったから、プレゼントしてもらって天にも昇る思いでした。
ゾーヤと名づけられたその子犬は、オオカミの血が混じっているということでした。

ちょうどその晩、原子力発電所が事故を起こします。
朝になると、ナターシャの村の人たちは全員、避難することになりました。動物を連れて行くことは禁止されていました。
ナターシャはリュックサックにこっそりゾーヤを入れて避難用のバスに乗り込みますが、兵隊に見つかってしまいました。
走り去るバスを追って、ちいさなゾーヤは走ります。
ナターシャは泣きながら見えなくなるまでその姿を追いました。

じきに村に帰れるはずだった人びとでしたが、放射能汚染は深刻でした。村を離れた人々が帰還することはなく、年月がたっていきます。

物語は、ゾーヤが成犬になり、母親になり、子どもたちを育てるという犬の人生(?)と、原発からの避難者だということでいじめられ差別されるナターシャの人生が、並行してつづられます。

人が住まなくなることで新しく原生林ができ、また、放射能のせいで動物の住めない赤い森ができます。
野生化した犬や家畜たちと、本来野生のおおかみたちとが、大自然の中で生きるために戦います。
まさに、手に汗握る・・・です。

後半は、なみだなくしては読めなたったです。
ふしぎな出会いが重なり、犬たちと人とをつなぎます。愛の物語です。

 

 

闇に願いを🕯️

『闇に願いを』
クリスティーナ・スーントーンヴァット作/こだまともこ・辻村万実訳/静山社/2024年3月

その都市は、大火で燃え尽きて闇が広がった。
そこへ、光を操る男があらわれ、総督となって、都市を復興させた。
総督は、人びとを火災から守るために、火を使うことを禁じた。そして、すべてのエネルギーは、総督の作り出した光の玉から発せられるようになった。
つまり、総督がすべてを支配したのだ。
総督は、法を作り、法のみが正義だと人々に信じさせた。

光の玉には、序列があって、貧しい人たちは弱い光の玉しか買えない。
だから、いつまでたっても貧しいままだ。

というような背景のもと、法を犯した母親から生まれた少年ポンが、刑務所から脱走するところから、話は始まります。
ファンタジーです。
つぎからつぎへと、手に汗にぎる事件が展開します。

どんなに絶対的な能力があっても、使い方次第で、世の中の役に立ったり世の中を滅ぼしたりする。
善良であれ。

テーマははっきりしていて、気持ちがいいです。
ただ、翻訳のせいかもともと原典がそうなのかわからないけど、言葉がちょっと軽いかな。それが残念。

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きょうのHP更新は、《日本の昔話》「阿波の清左衛門と京の古金屋伝兵衛」
語ってくださいね~

 

 

マディバ・マジック🐰🐒🐘

子ども向けの昔話本の紹介で~す。

ネルソン・マンデラ編 和爾桃子訳 平凡社 2023

ネルソンマンデラさんていったら、南アフリカの元大統領で、ノーベル平和賞を受賞した人。
南アフリカでは、人種差別が激しくて、白人と非白人とに厳しい線がひかれてて、非白人には人としての権利がなかった時代が長く続いたのね。もともと自分たちの土地で、白人は後から入ってきたのにね。
それで、人種隔離(アパルトヘイト)をなくそうという運動がまきおこって、そのときの中心となったのが、マンデラさん。

そのマンデラさんが、たくさん残っているアフリカの昔話の中から、子どもたちに伝えたい話を選んだのが、この『マディバ・マジック』です。
書名は、マディバさんの魔法という意味です。マディバさんは、マンデラさんの愛称ね。

マンデラさんは、南アフリカのテンブ人マディバ族の族長の家に生まれました。愛称「マディバ」は出身部族の名前でもあります。テンブ人は1800年も前からアフリカ全土に広がって栄えたバントゥー民族の末裔にあたります。バントゥー人には文字がないので、自分たちの歴史やいろんなできごとをすべて語り伝えてきました。マンデラさんも小さなころからそうしたお話を何度も聞いて育ったのです。
ーーアフリカのみんなのお話 訳者あとがきより

ぜんぶで33のお話が載っててね、どれもおもしろいの。
おすすめは、「ヘビの族長」っていう異類婚姻譚。
「ライオンとウサギとハイエナ」っていう知恵比べのお話も、めっちゃおもしろい。

巻末には語った人の名前も載せてある。

読むための文章だし、訳もそうなってるから、ちょっとこのままでは語るのは、わたしには難しいかな。
でも、トライしてもいいかも。その値打ちは大いにある(*^▽^*)

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今日の更新は、《外国の昔話》「山んば」。
《おはなしひろば》は、春休み新美南吉特集のラスト、「1ねんせいたちとひよめ」です。

八月の御所グラウンド📖

児童文学じゃないんだけど、若い人の心もつかむかなと思って紹介します。

『八月の御所グラウンド』万城目学/文藝春秋 2023年

「十二月の都大路上下(カケ)ル」は、京都で行われる高校女子駅伝のひとコマ。短編です。
主人公はどうしようもない方向音痴で、しかもいきなりピンチヒッターで走ることになる。
なぜか途中から新選組の一団がいっしょに走る。時間の重層は、万城目学の真骨頂ですね。

それは、「八月の御所グラウンド」で顕著で、こちらではそれがストーリーと関わって、ミステリアスに読者を引っ張っていきます。

どちらの作品も京都市内が舞台なので、よく知っている土地ばかり出てきます。8月の京都の地獄のような暑さの描写もめっちゃリアリティがあります。

「八月の御所グラウンド」は、謎解きを、笑いながら楽しんでいるうちに、ラスト、もう泣けてきてどうしようもなかった。

どうでもいい話をたくさんしよう。

ネタバレになるから書けないけど、ほんと、読みやすいし、感動的だし、読んでみて!

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きょうは、《奈良の民話》はおやすみで、《おはなしひろば》の更新。
「福の神はくさったさくらんぼの中に」
夢の話です。