『チャンス』ユリ・シュルヴィッツ📕

絵本『よあけ』の作者ユリ・シュルヴィッツの自伝がでました。
幼いころから14歳までの暮らしがつづられています。

『チャンス はてしない戦争をのがれて』ユリ・シュルヴィッツ著/原田勝訳/小学館/2022.10.03
児童文学です。

ユリ(本書では元の発音に近いウリ)はユダヤ人で、ポーランドのワルシャワに生まれました。
4歳の時に第二次世界大戦が勃発しました。
副題が「はてしない戦争をのがれて」と訳されていますが、「war」ではなくて「holocaust」です。
ホロコーストとは、ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺のことです。
両親は、幼いユリを連れてソビエト連邦へ脱出します。その危険な逃避行の苦しみは尋常ではありませんでした。

書名の「チャンス」という語には、「好機」「可能性」という意味のほかに「偶然」という意味があります。
ユリと両親が戦争を生き延び、ユリが画家になったことは、「偶然」の重なりによるものという意味です。
どのような「偶然」なのか、ぜひ読んでみてください。
人生って「偶然」の連続でできているのかもしれないと感じます。

本書の随所に、のちのシュルヴィッツを彷彿とさせるエピソードがあります。
ちょっとだけ紹介しますね。

何日も食べるものがなくて飢えに苦しんでいた幼いユリを支えてくれたもの。
ひとつは、お母さんが物語を語ってくれたことでした。
ギリシア神話、おとぎ話、お母さんが見聞きした話、映画のストーリー・・・

(引用)
こうした物語には、ぼくをどこか遠いところへはこび、知らない人たちの人生を味わわせてくれる力があった。おかげで、ぼくの想像力はかきたてられ、今も変わらない物語への愛情と、物語がもつ力への信頼をはぐくむきっかけとなった。(p140)

もうひとつ、ユリに空腹をわすれさせてくれるものが、絵を描くことでした。
食べるものがないくらいだから、まともな絵筆や紙はありません。それで、焦げた木片を使って、木の皮や枯葉に描き、花びらや葉をつぶして絵の具の代わりにしました。地面に棒で絵を描くこともありましたが、空腹で、体力がついていきませんでした。

(引用)
そのうちに、指で空中に絵を描けばつかれずにすむとわかった。通りかかった人には、頭がおかしくなってしまったように見えただろう。でも、ぼくは気にせず、せっせと指を動かした。・・・
それにもつかれると、ぼくは部屋に引っ込んで休んだ。土間に横になっているときは、今度は目をとじ、頭の中で絵を想像した。
それが木の葉の上でも、想像の中だとしても、絵を描くことはただの気晴らしじゃなかった。
ぼくにとっては、いつでも帰れる家のようなものだった。(p146)

引用が長くなりました。
シュルヴィッツのあの美しい輪郭と色が、こんな幼児体験を経て生まれてきたのだと考えると、涙がでます。

戦争が終わって、一家はふるさとのポーランドに帰ってきますが、ユダヤ人であるということで、差別を受けます。ふるさとも安住の地ではなく、親族を頼ってフランスに行きますが、そこでも長くは暮らしませんでした。
そのころ、ユリは14歳。難しい年頃です。
親友が欲しかったのに、得ることができなかったので、それならばと、友を作らず孤立します。そして、彼の真の友となったのは、『三銃士』の作者アレクサンドル・デュマであり、ポール・ファベルでした。どんどん冒険物語にのめりこみます。
そして、決して彼を裏切ることのない忠実な友、それは、絵でした。絵のおかげで、寂しがる暇などありませんでした。

春になったら、シュルヴィッツを読む会をしたいな。
お気に入りの絵本を持ち寄って、語り合いたいと思いました。

 

 

6 thoughts on “『チャンス』ユリ・シュルヴィッツ📕

  1. ご紹介ありがとうございます。
    『夜明け』を初めて知ったのはヤンさんが読んでくれた時でした。
    図書館のお話会だったかと思います。
    美しい絵と文章にびっくりしましたが、小さな子供たちもそれまでとはまたちょっと違う空気になって絵本に集中していたのにも驚きました。
    『チャンス』借ります~(*^。^*)

  2. 『チャンス』やっと読みました!
    この本は、やることやってから読み始めないとダメですね。
    寝る前だと寝られなくなるし、洗濯し始めたら干せなくなります(笑)

  3. おお~、ジミーさん、読まれましたかo(*^@^*)o
    4月の読む会が楽しみですね~

  4. 「チャンス」読みました!
    ジミーさんが書いていらっしゃる通りです。読み出したら一気に読まずにはいられませんね。
    年末にやらねばならない事を全部片付けられたら、いやたとえ終わらなくても、元日は一日中本を読もうと思っていました。

    まず、シュルビッツの絵本を5冊、ゆっくりと絵も楽しんで読んだのですが、「たから」という絵本は私が最近再話したお話の類話でした!なんだか嬉しい〜(≧∀≦)
    子ども時代に壮絶な戦争を体験された作者が、その後の人生でなんとも温かい絵本を残していますね。

    唯一、朝からずっと元日あるあるの満腹すぎる状態で、こたつに足を突っ込んで「チャンス」を読んだので、空腹や寒さに耐えるウリに申し訳ない気持ちになりました。(そしてまた、満腹のままお夕食の時間です…)

    今年も素敵な本やお話にいっぱい出会えますように❤︎

  5. フルーツさん
    コメントありがとうございます。
    わたしはおこたに入って本を読むと、即、寝てしまいますわ(笑)

    まだ出会えてない面白い本がいっぱいあるんやと思うと、わくわくしますo(*^@^*)o

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です