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語りの森を作った魔女

グリム童話「七羽のカラス」💍

「七羽のカラス」はもうずいぶん昔から語っている話。
あら、1988年の記録があるから、32年前だ(T_T)
思い出した。
お話を始めて2年目。
文庫でお話会を始めたばかりで、子どもたちがなかなか聞いてくれなかった頃。
つぶし屋3年生のガキどもをとらえて放さなかった話。この時初めてお話の持つ力を実感したんだっけ。
そののちも、しょっちゅう語ってるから、エピソードはたっぷりあるよ。
図書館でなぜか女子ばっかり七人相手にやったときは面白かったなあ。
キリスト教系の学校で語るときの、冒頭の緊張感は素晴らしい。

それはさておき。

グリム兄弟は初版を出版してから7回改訂したって、前に書きましたね。
初版の前の手書きのメモも日本語に翻訳されている。
エーレンベルク稿とか手稿とか呼ばれます。

KHM25「七羽のカラス」
エーレンベルク稿では40番「三羽のカラス」となっています。え?三羽?
初版。25番「三羽のカラス」
2版。25番「七羽のカラス」
あと7版までずっと、25番「七羽のカラス」

グリムさん、初版を出した後で変えたんだヾ(•ω•`)o
比較します。

1、カラスの数が3から7に増えてる。

2、なぜカラスになったのか?
エーレンベルク稿・初版:息子たちは、教会で礼拝のときにトランプ遊びをしていた。母親が呪った。
2版以降:妹が生まれ、息子たちはその洗礼に使う水を汲みに行ったが、我先に汲もうとしたので、つぼを泉に落としてしまった。父親が呪った。

3、指輪
エーレンベルク稿・初版:妹が旅をしていると、カラスが一羽とんできて妹に指輪を投げ落とす。それはかつて末の息子に妹がプレゼントしたものだった。ちなみに、妹が旅立つときに持って行ったものは、椅子だけ。
2版以降:妹は旅立つとき、両親の指輪を持って行く。ほかに、パンと、水を入れたつぼと、椅子を持って行く。

違いはこの3つです。
あとはほぼ同じ。

『グリム童話を読む事典』(高木昌史編著/三弥井書店)によると、ヤーコプが1815年に入手したと思われる「ウィーンの物語」のものと、冒頭部分を差し替えたそうです。

もとは、息子たちに、完全に非があったんですね。
のちには、親の誤解で呪われた。息子は被害者。呪いが解けたきっかけが親の指輪だったのもうなずけますね。親の謝罪の意味があるんだ。
なぜ妹がつらい旅をしなくてはならなかったのか、2版以降では、自分の誕生がきっかけだったからですね。献身の意味が納得できます。

ウターさんは、「KHM25は、死と再生の物語である。ここで死は動物の変身によって象徴されている。この昔話においては、呪いと救済が中心テーマである。」と述べています。

ATU451「兄たちを捜す乙女」
女の子が、動物(鳥)に変身させられた12人(7人、3人、6人)の兄を救う」話。おもに3つの型があって、混じり合っているそうです。
グリム童話では、9「十二人兄弟」、49「六羽の白鳥」が類話です。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「七羽のカラス」

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今日のレパートリーの解凍
「七羽のカラス」『昔話絵本を考える』松岡享子著/日本エディタースクール出版部

 

 

 

グリム童話「みつけどり」🍀

なんだか夏みたいに暑いですね(⊙_⊙;)

今日のおはなしひろばは「めうしのブーコラ」。
《外国の昔話》に載せてますが、この話、ほかのテキストでもありますね。

お、今、確認したんだけど、《外国の昔話》に行って「雌牛のブーコラ」をプチっとしたら、ブーコラのテキストが見られて、1年生に語ってる音声が聞けた。
って、どうってことないか(笑)
そこの解説に、《昔話雑学》で呪的逃走を調べろって書いてあって、《昔話雑学》に行ったんだけど、トピックスに「呪的逃走」がない!
で、検索ってとこに「呪的逃走」を入れてプチっとしたら、二つヒットした!
「逃竄譚」と「昔話の起源」
へえ~ヾ(≧▽≦*)o
おもしろいよ、やってごらん。

前置きはこのぐらいにしてO(∩_∩)O
「雌牛のブーコラ」は、「三枚のお札」と同じく呪的逃走の話なのです。
主人公が恐い物から逃げるんだけど、逃げるときに、背後に呪的なものを投げる。お札とか、くしとか。そしたらそれが、山とか森とかの障害物になって、追っ手を阻む。それが呪的逃走の一つのパターン。

もう一つのパターンは、主人公が何かに変身して、追っ手の目をくらます。「みつけどり」は、この目くらましのパターンね。

レーンヒェン(女の子)は、みつけどり(男の子)を連れて、ザンネばあさんから逃げるの。
召使に追いつかれそうになったとき、変身する。
1回目:レ・バラの花、み・バラの木
2回目:レ・シャンデリア、み・教会
3回目:レ・かも、み・池

じつは、わたし、子どものときから時々この類の夢を見る。
追いかけられてる夢で、もう絶対逃げられなくなったときに、立ち止まって、木とか別の人に変身して立ってるの。
これ、こわいよ。
ああ見つけんとって~
ばれませんように~
そんな夢。
みなさん、そんな夢、見ません?

それで、「みつけどり」が好きなのです。

昨日、TVニュースで、小学生が「おにごっこがしたい」って言ってました。
涙が出そうでした。おにごっこ、好きだものね。
みんなで遊ぶ、一番単純な遊び。道具はいらない、ルールだけがあればいい。

色んなルールがありますね。
すわり鬼:捕まりそうになったらすわる。
いろ鬼:捕まりそうになったら指定された色のものに触る。
たか鬼:高いところに上る。
かげふみも鬼ごっこの一種かな。

みなさんは、どんな鬼ごっこを知っていますか?

でね、呪的逃走の話は、鬼ごっこにとってもよく似ていると思うのです。
だから世界中にあるし、子どもたちも好きなんじゃないかなあ。


『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「みつけどり」

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今日のレパートリーの解凍
「大工と鬼六」『日本の昔話』小澤俊夫再話/福音館書店

 

 

おかゆの岸のつくり方🍚

ロシアの昔話「がちょうはくちょう」『おはなしのろうそく27』東京子ども図書館

うん、きのうは黒パン、今日はおかゆ^3^

あのミルクの川がおかゆの岸の間を流れてるってやつ。
私のイメージでは、おかゆって、やわらかいのね。
トロっとしたおかゆの岸がイメージしにくい。で、硬めのおかゆって、考えてたの。

調べました。

「がちょうはくちょう」の他の人の翻訳。翻訳者のみなさん、おかゆ?
「ババヤガーの白い鳥」『ロシアの昔話』内田莉莎子編訳/福音館書店
⇒ゼリーの岸
「鵞鳥白鳥」『ロシアの民話上』中村喜和編訳/岩波書店
⇒ゼリーの岸
「魔法の白鳥」『ロシアの怪奇民話』金本源之助訳/評論社
⇒ジェリーの岸

あらら。ゼリーなんだ。
おかゆって訳したり、ゼリーって訳したりってことは、私たちの知らないロシア独特の食べ物なんだろうね。

で、きのうの『悪魔には2本蝋燭を立てよ』で確認。
「ロシアの『白米城』」にこうあった。
「ミルクの川が流れ、川岸はキセーリでできていて、野には焼けたシャコがころがっていた、そんな昔のこと・・・」
これ、ロシアの魔法昔話の発端句なんだって。
ミルクとキセーリと焼いた野鳥は、かつてロシア人の食卓になくてはならない物だったそうです。

ロシアの伝統的な食べ物キセーリ。
キセーリって、いまは果物なんかをピュレ状にした飲み物で、ジュースやミルクを入れたくず湯みたいなものなんだって。
やっぱり固形物じゃないね≡(▔﹏▔)≡

ところが、かつては違った!
『ロシア料理物語』(N・I・コヴァリョフ著)につくり方が書いてあって、その訳を引用させてもらうね。

カラスムギのひきわり100グラムに熱湯300グラムを注ぎ、暖かいところに一昼夜置いたものをふるいで濾す。これに塩2グラム、砂糖8グラムを加えてまぜ、バターを塗った深皿に移して涼しい場所に置く。冷めてからそれを切り分ければキセーリの出来上がり。

切り分けるんだから、固形物だ!
レシピからイメージすると、日本の「ういろ」に似ているって。たしかに!

ほら、調べると、イメージがしっかりしてくるでしょ。
ミルクの川が流れているのは、昔のキセーリの岸なんだ。
ういろの岸。
ああすっとした。
ういろにミルクをかけて食べるんだ。可能ですね。味は知らんけど。

伝統的なキセーリはゼリーのようなデザートでも飲み物でもなくって、栄養価の高い滋養に富んだ食べ物、腹持ちのする食べ物だったのです。

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今日のレパートリーの解凍
「ギーギードア」『おはなしはたのしい』たなかやすこ

《ステップアップ》をリニューアルしたので、活用してくださいね~
いつお話会が始まってもいいように、がんばろう(✿◠‿◠)

マーシャと黒パン🍞

今日は日曜日。本読んでたの。
面白いこと発見。
『悪魔には2本蝋燭を立てよ』齋藤君子著/三弥井書店
副題が「ロシアの昔話 俗信 都市伝説」

そのなかに、「パンとパスタ」っていう項があってね。
ロシア人にとって、パンは神聖な食べ物で、豊かさの象徴でもあるんだって。
日本でいえば神棚のようなところに、いつもパンが供えられて、パンは、神様からの贈り物でもあるし、神様そのものでもあるんだって。

パンを切り分けるのは一家の主人、パンをこねて焼くのは主婦の仕事。
パンを焼くのにペーチカの中に入れるときはしゃべらない。床をはいてもいけない。
タブーが色々あるそうです。

タブーを守って焼き上げたパンは、お守りになるから、新生児のゆりかごに入れたり、旅に持って行ったり、引っ越しに持って行ったり。

その神聖なるパンが、黒パンなんだって。
ライムギや大麦で作る。
19世紀になってやっと、ロシアの南部に小麦栽培が増えてきて、小麦のパン,つまり白パンが食べられるようになった。それもぜいたく品だったわけ。
ロシア中部北部では、ほとんど黒パン。
大麦しか取れない地域の黒パンは、翌日になると斧でたたき割らなければならないほど固くなってしまうそうです。

ロシアの昔話「がちょうはくちょう」『おはなしのろうそく』で、マーシャとペーチカのやり取りのところ。
マーシャは黒パンは嫌、うちには柔らかなふわふわした白パンがあるっていうでしょ。
たしかにここはマーシャが我儘でぜいたくだってわかるところだけど、そんな食糧事情もあったのね。
そしてそれだけじゃなくて、宗教的にも意味があったんだ。
神さまの贈り物に対する不敬。
それを戒める目的が、このモティーフにはあった。

背景を知ると、話が深まるね~ φ(* ̄0 ̄)

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今日のレパートリーの解凍
「さんびきのこぶた」『イギリスとアイルランドの昔話』石井桃子編訳

おはなしひろばはお休みですm(__)m

 

 

 

 

グリム童話「おおかみと七匹の子やぎ」🐐

きょう2回目の投稿。
いや、別に、ヒマなんじゃないんですよ。
おはなし会がないので。
あ、ひまか(^人^)

KHM5「おおかみと七匹の子やぎ」
私のレパートリーとしては、けっこう新しい。
既存のテキストで、ちょっと気になるというか、嫌いな個所があったので、覚える気にならなかったの。
『語るためのグリム童話』(小澤俊夫編訳/小峰書店)が出て、ああ、そうだったのか~って、納得できたから、覚えました。第1巻です。でも、これもちょっと整理して語っていますけど。
おはなしひろばにあります。

そのあたりについて書きますね。

ATU123「オオカミと子ヤギたち」
この話型は、起源がとっても古くて、12世紀、14世紀の文献にあるんだって。
今では、ヨーロッパが中心だけど、世界中に類話があります。
ラスト、おおかみは池に落ちるんじゃなくて、母ヤギが戦いを挑んで勝つとか母ヤギが家に誘い込んで炭火の中におおかみを落っことすとかのバージョンがあるそうです。
子ヤギたちが母ヤギの言うことをきいて、最後までおおかみを家に入れなかったっていうのも。

テキストの問題。
グリム兄弟は、1812年に初版を出してから、1857年の7版まで改訂してますね。45年間テキストが変わり続けている。
7版が決定版として、岩波文庫とかあちこちから翻訳出版されています。おはなしのろうそくやこぐま社の子どもに語るシリーズも、7版ね。

小澤俊夫編訳の『語るためのグリム童話』シリーズは、2版をもとに7版の良いところをとって、再話してある。

ここで、2版と7版を比べてみます。(2版は小澤俊夫訳、7版は高橋健二訳)
初版は短かすぎるのでここでは使いません。
ざっとです。


2版:無し
7版:(冒頭の段落)人間のお母さんが自分の子供をかわいがるのと同じように、
これ、嫌だったんです。ストーリーにすっと入っていきたい。


2版:おおかみは、悪い計略を考え付きました。
7版:無し
石灰を買ってくる直前ね。計略なんて、いわずもがな。不要。グリムさん、消去したんですね。


2版:無し
7版:ほんと、人間ってそんなものです。
粉屋がおおかみの足を白くしてやるところ。
これも、嫌だったんです。いきなストーリーからはずれて現実に戻ってしまう。


2版:なんて悲しいことでしょう。狼が来て、かわいい子どもたちを食べてしまったのです。「まあ、わたしの七匹の子ヤギたちは、みんなしんでしまったわー」と、お母さんヤギは、すっかり悲しくなってさけびました。
7版:つぎつぎと名前を呼びましたが、だれも返事をしません。
家が荒らされているのを見たお母さん、2版は短絡的ですね。筋の運びに無理があります。7版は、「名前を呼ぶ」という具体的な行動を示しています。イメージしやすい。


2版:(子ヤギは母ヤギに)どんなに悲しいことが起きたか、話してきかせました。
7版:(子ヤギは母ヤギに)おおかみがきて、ほかの子ヤギをみんな食べてしまったことを話しました。
具体的でイメージしやすいのは7版。出来事が言葉で繰り返されていますね。


2版:お母さんヤギは、かしこくて、なかなかちえがありました。そして、いろいろ考えてみました。なんとかして、子どもたちを助け出せないかしら?
7版:お母さんヤギが、かわいそうな子どもたちのためにどんなに泣いたか、みなさんおわかりでしょう。
どっちもいやですね(私見だよ)。2版は説明がくどすぎ。7版は「みなさん」なんて呼び掛けて、いきなり現実にもどっています。


2版:なし
7版:ふくれあがったおなかの中で何かが動き、もがいているのがわかりました。
寝ているおおかみの描写です。7版、リアルですね。これは避けたい。


2版:すると、六匹の子ヤギは、ちっとも傷つかずにとびだしてきました。おおかみが空腹のあまり、丸のみにしてしまっていたからです。
7版:ひとはさみいれると、もう、一匹の子ヤギが頭を出しました。切り進んでいくにつれ、つぎつぎと六匹が全部飛び出しました。みんな、生きていたばかりか、傷ひとつ受けていませんでした。怪物おおかみは、がつがつして、まるのみにしてしまったからです。それは嬉しいことでした!
7版は言葉も多く、リアルですねえ。子ヤギが出てくるところ、残酷です。それと、両方とも、なぜ子ヤギが生きていたかを説明しています。これ、嫌ですね。昔話は切り紙細工のように語るのです。「え~~、生きてたん?」という聞き手の驚きは、驚きのままにしておきましょう。「噛まないで、丸のみにしててん」なんて語り手として言えない。リアルすぎ。


2版:無し
7版:「おおかみが死んだ!おおかみが死んだ!」とさけびました。
「喜んだ」というだけより、具体的に会話文で表現するほうが、よくイメージできます。

まあ、こんな感じです。
2版より7版の方がストーリーの矛盾がないように整理されているが、言葉数は多くてやや描写がリアルです。

子どもたちは、題名を言うと、「知ってる~!」っていいます。
わたしは、「お、よかった。これ、おもしろいよなあ」といって、共犯者に仕立て上げてから、おもむろに語り始めます。
スリルのある話なので、すぐに世界に入ってきます。
ラストの「おおかみ死んだ」では、大喜び。「やったー」っていう子も、躍り上がる子もいます。

いい再話が出版されてよかった。自分でも整理することができてよかったと思います。
先生に感謝しています。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社

 

みなさん、アンケート・・・
そんなにはずかしい?^0^