「グリム童話よもやま」カテゴリーアーカイブ

グリム童話「ルンペルシュティルツヒェン」😈

KHM55「ルンペルシュティルツヒェン」

あらすじ
1、冒頭:父親が見栄を張って、娘がわらを紡いで金にすることができると、王に言う。
2、王からの課題は、わらを紡いで金にすること。
3、小人が助けてくれる。最初に生まれた子どもと引き換えに。
4、娘が拒絶すると、小人は、名前を当てろという。
5、娘の使者が森の中で、小人が叫んでいるのを聞く。
6、名前は、ルンペルシュティルツヒェン。
7、ラスト:小人は、自分の体真っ二つに引き裂く。

エーレンベルク稿では、
1、糸を紡ぐと、みな金になってしまうので、娘は困り果てている。
2、なし。
3、4、6 同じ。
5、忠実な召使女。
7、玉杓子にのって、窓から飛んで出ていく。

初版では、
1~4、6 同じ。
5、王が森の中で聞く。
7、怒り狂って走って行って、二度と戻ってこない。

2版以降はほぼ同じ。
グリムさんは、この形にするまでに、いくつかの口承を足したり引いたりしたんですね。

興味深いのは、1と7。
1、父親が見栄を張って、娘が犠牲になるという設定。
7、自分の体を真っ二つにするところ。1からのシリアスな雰囲気を引きずると、7は残酷に聞こえる。だから、直前の名前あてのところで、お遊びの雰囲気を楽しんでおくことが重要。そうすれば、子どもは、おお~って、びっくりしておもしろがります。

ATU500話型名は、「超自然の援助者の名前」
古いところでは、1705年に記録があるそうです。
世界じゅうに類話があって、日本の「大工と鬼六」も、この話型ですね。
類話をすこし紹介します。

イギリス『イギリスとアイルランドの昔話』
これは皆さんご存じ。
1、娘がパイを5つも食べてしまう。母親が、一日5かせ糸を紡ぐと、王に見栄を張る。
2、一日5かせの糸紡ぎを一か月。
3、娘自身と引き換えに、黒い小鬼が助けてくれる。
5、王が森の中で聞く。
6、名前は、トム・ティット・トット
7、暗闇の中へさっと出ていく。
冒頭から、間抜けな娘の笑い話になっていて、グリムのような重さはありません。ラスト、お妃が指を突き付けて名前を言うところ、ちょっとかっこいい(笑)

スペイン『スペイン民話集』岩波文庫
1~5は、グリム7版とほとんど同じ。
6、名前は、名無しの悪魔。
7のラストは、地団駄踏んで地中に沈んでいき、二度と娘の前に現れなかった。となっています。

フランス『フランス民話集』岩波文庫
1、怠け者の娘。母親は見栄を張って、娘が何もかも紡いでしまうという。
2、王は、麻の詰まった部屋に入れてすべて紡ぐように言う。
3、4 一年と一日経ったら名前を当てるという約束で、糸を紡いでやる。
5、王の狩人が聞く。
6、名前は、リカベール・リカボン
7、おならをして出ていく。三日間というもの、ひどく臭かった。

ほかに、オーストリアの「シュピッツバルテレ」、デンマークの「トリレウィプ」、ロートリンゲンの「アントニウス・ホーレクニッペル」
どれもおもしろいけれど、活舌がネックかもq(≧▽≦q)

名前を言い当てることの意味を考えると、これって真面目な話かもしれない。
中国にはかつて本名は呼ばないという風習があったし、日本も、万葉の時代は、女性に名前を尋ねることは、結婚を申し込む意味があった。
ここで思い出すのは、ル・グウィンの『影との戦い』。
主人公ダニーは、オジオンから「ゲド」っていう「真の名」をもらいますね。
だから、ヨーロッパでも、名は体を表すのかもしれない。ごめんなさい、ちゃんと調べたいのですが。。。
情報をお持ちの方、教えてください。

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今日のレパートリーの解凍
「ボタンインコ」完成!

グリム童話「三本の金髪を持った悪魔」🧛‍♂️

KHM29「三本の金髪を持った悪魔」

この話は、5年生の1学期に語ることが多い話です。
「かも取り権兵衛」とセットにして、わくわくするいいプログラム。へへ、自画自賛(*^▽^*)

最初に占い師の予言が出てくる。
昔話では、予言は必ず実現されるって決まりがありましたね。こちら⇒
この長い話全体が、予言が実現するという目的に向かって、ひたすら進んでいく。
最終目的が明確で、その目的にとって障害になる出来事が次々に現れ、次々に解決していくため、聞く者の集中がとぎれないのです。

出来事は、状況の一致(こちら⇒)によって、鎖のようにつながっていきます。

例1
幸運の皮をかぶった男の子が生まれ、14歳になったら王の娘と結婚するだろうと予言される。
ちょうどそのとき、その村に、王本人がやってきて予言を聞く。
え~っ、ありえへんよね~という設定。

例2
男の子が助けられて暮らしている水車小屋に、王が訪れる。その時、男の子は14歳。
なんで、そんなうまいこと・・・?

あとの例は自分で見つけてください。めっちゃ簡単やからo(*^@^*)o

長いからと躊躇しているあなた、大丈夫です。覚えやすい。子どもも大変よく聞きます。

ところで、書誌的に言うと、初版から入っていて、そののち、例のフィーマンおばさんとの出会いがあって、2版では、フィーマンおばさんの語りに置き替えられています。
初版は、カッセルのアマーリエ・ハッセンプフルークさんから聞いた話。
こちらは、主人公が美しいきこりで、お城の前で木をきっていると、お姫さまに見そめられます。そこで王様が、悪魔から三本の金髪をとってきたら姫と結婚させようという。きこりは悪魔の所にでかける。後はだいたい同じ筋書きです。

予言、子捨て、水車小屋、ウリアの手紙(こちら⇒)という2版の前半がないのね。
予言で一本筋が通るっていう大事な要素が、初版にはない。
フィーマンおばさんに出会ってくれてよかったψ(`∇´)ψ
出会いってふしぎやね。

この主人公も、人や出来事と出会って行くわけだけど、みな状況の一致だから、聞いてると、主人公の意思とか性格とかとはまったく関係ない。偶然としか感じられない。
ところが、ラストだけは違うのね。
主人公は考えた。この状況の一致をうまく使おうって(笑)
王をだまして、厄介払いするのです。
ハッピーエンド、予言は完璧。スキっとします。

ちなみに、初版では、王がだまされて地獄の渡し守になるというモティーフはありません。
王は、悪魔の三本の金髪を持ち帰った主人公と姫を結婚させて、めでたしめでたしで終わります。
王は主人公の命をねらわなかったのですから、報復もないのです。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「三本の金髪を持った悪魔」

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今日のレパートリーの解凍
「ボタンインコ」『天国を出ていく』ファージョン作/石井桃子訳/岩波少年文庫

グリム童話「三枚の鳥の羽」🐸

え~!また蛙と結婚する話~って?
ほんまやね。
ロシア、フランス、ときて、今日はドイツ(笑)

KHM63「三枚の鳥の羽」
第2版から、フィーマンおばさんの語りで収録されています。
前に書いたように、グリムさんは、彼女の語りが好きだったので、言葉を7版まで変えていません。
でも、おもしろかったのは、グリムさん、フィーマンおばさんのを聞く前に、集めていた話があったのです。
紹介しますね。

エーレンベルク稿 3話
13番「おろか者」
主人公ハンスは、まぬけだったので、父王から広い世間に追い出される。
海岸で醜いヒキガエルに出会って、「私を抱いて水の中に沈みなさい」と言われる。
2回拒否して3回目、ヒキガエルを抱いて水に飛び込むと、海の底の美しいお城につく。
ヒキガエルは「私と相撲を取りなさい」と言う。
相撲を取ると、ヒキガエルは美しい娘になって、お城は海から地上に出る。
ハンスは娘を連れて帰り、王国を継ぐ。
15番「おろか者」
王と三人の息子。リンゴを投げて、一番遠くまで飛んだ者に国を継がせると言う。
まぬけな末の息子のリンゴが一番遠くへ飛ぶ。が、王は約束を破って、「20かご分の亜麻布をクルミの殻に入れて持ってきた者に国を継がせる」と言う。
長男はマレーシアへ、次男はシュレージアへ、末の息子は森の中へ。末の息子が亜麻布の入ったクルミを持ち帰る。
王は、さらに課題を出す。王の結婚指輪をくぐって飛ぶことのできる犬を連れてくること。針の穴を通る、より糸を三本持ってくること。最も美しい王女を捜してくること。
(以下無し!途中で途切れているの。残念)
17番「三人の王子」
王と三人の息子。いちばん上等の麻布を持ち帰った者に国を継がせるといって、三枚の鳥の羽を吹いて飛ばす。
おろか者の末の王子の羽は、近くの石の上に落ちる。石の下に降りていくと美しい部屋があって、ひとりの娘が糸を紡いでいる。王子は娘から麻布をもらう。
兄たちが腹を立てて、二つ目の課題を迫る。最も美しいじゅうたんを持ち帰った者に国を譲ること。
末の王子は、石の下の娘からじゅうたんをもらう。
三つ目の課題。最も美しい妻を連れ帰ること。
末の王子は、石の下の娘の所に行く。娘は「金の小部屋に美しい女性がいる」と教えてくれる。行ってみると、それは女性ではなくて醜い蛙だった。蛙は自分を水の中に落とせという。王子は勇気を出して、蛙を抱き上げ水の中に落とす。そのとたん、この世で一番美しい女性に変身する。
四つ目の課題。大広間の真ん中の輪まで飛びあがることができた娘の夫を次の王にする。兄さんたちの妻は失敗し、末の王子の娘は成功する。

17番が、2版以降と一番似ているかな。

初版
64番「ぼけなすの話」
ここに以下の4話が入れてある。
1「白い鳩」2「蜜蜂の女王」3「三枚の鳥の羽」4「金のがちょう」(2版以降では、1は消えてしまいます。)
エーレンベルク稿のうちのおろかな王子の話を4話、ひとつのグループにしてあるわけです。
これは、テーマを考えるヒントになる。
ちなみに、3「三枚の鳥の羽」の内容は、エーレンベルク稿の17番とほとんど同じです。

愚か者

主人公の呼び名は、翻訳によって「愚か王子」とか「ばかさま」とか。
そのせいでこの話が語りづらいという苦情(?)をきいていました。差別的ではないかと。
「おろか」をとって「王子」としてもよいのではないか?という意見もありました。
でも、正直言って、よくわからなかったんです。
ところが自分が語ってみると、それほど気になりませんでした。
ストーリーからは、王子がおろかであることは分かりません。「おろか」と名付けてあるから、愚かなんだとわかるだけです。

ところで、幼い子どもは、多かれ少なかれ、自分が弱くて愚かな存在であると感じていると思います。
親や先生や兄姉から、日々感じさせられている。
それはだめなことではない。社会的な事実ですから。
愚か王子は、愚かなことをしているわけではないけれど兄さんたちから軽んじられていますね。子どもの生活感と同じだと思います。

けれども、ラストで、愚か王子は、兄を超えて父親に認められ、王位を約束されるのです。

主人公が、末っ子で愚か者であることは、昔話の孤立性の表れです。
孤立した主人公は、周りの環境から孤立しているがゆえに、孤立した彼岸の援助者と結びつくことができる。⇒普遍的結合の可能性
そして、昔話は、一番弱くて小さい者が様々な課題を乗り越えて成長する姿を描いています。そういう力学がある。

人は、だれでも、自分の問題を自分で解決しながら生きていかねばならない。
その勇気を、昔話は子どもに授けているのだと思います。
愚かかもしれないけど、きっとうまくいくよって。

だから、やはり「愚か王子」「ばかさま」でなければならないのです。

地下の世界

選ばれし愚か者は、地下の世界に導かれます。
地下は、海底や天上と同じく彼岸です。
心理学的に言えば無意識の世界ですね。
そこで宝を手に入れます。

蛙は彼岸者であり、二つの世界を結ぶものでもあります。
ドイツの民間信仰では、蛙は誕生や再生のシンボルでもあるそうです。
「いばらひめ」の冒頭で、お妃に王女が生まれるだろうと予言するのは、蛙ですね。(初版ではザリガニですが、グリムさんが象徴的な意味を考えて変えたんですね)
「三枚の鳥の羽」では、蛙は、でぶでぶに太った醜いものとして扱われています。「蛙の王さま」の蛙も水の中から醜い頭を突き出します。
どちらも極端で孤立的な語り方です。

話型は、ATU402「動物の花嫁」
ロシアの「蛙の王女」の前半、フランスの「プチ・ジャンとかえる」の類話です。


『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「三枚の鳥の羽」

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今日のレパートリーの解凍
「はんてんをなくしたヒョウ」『おおきいゾウとちいさいゾウ』アニタ・ヒューエット作/大日本図書

おもちホイコラショ📕

きのうの「いばらひめ」の語法、いかがでしたか?
勉強会に比べて、どの説明も短かったでしょ。
緑字とか太字のキーワードは、カリキュラムに戻れば、詳しい説明があります。分かりにくい時はそっちへ飛んでください。
カリキュラムでさがすのが面倒なら、「検索」をかけてください。内容がかなり広がるはずです。

そうね、ざっと読むんじゃなくて、机に座ってじっくり調べながら読むといいと思います。

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今日のレパートリーの解凍
「いぬとにわとり」石井桃子作
手書きで、出典が不明。いまは『おはなしのろうそく31』に入ってます。
1987年だから、おはなしを始めた年に覚えてるわ。当時は出典なんて意識なかったんやねえ。
調べたら、1968年に福音館から絵本で出ていました。でも、私が見たのは絵本ではなかった +_+
もうずいぶん長いこと語っていません。
創作なので、言葉をきっちり戻そうと思ったら、7回やって、まだ駄目でした。
おばあさんの「これ、おまえ、にわとりになにかしたのかね」と「おまえ、いったい、にわとりになにをしたのさ」と「こら、おまえ、なにをしたんだよ」が、言い分けられない~(笑)
あしたもがんばります。
図書館は6月2日開館予定だけど、おはなし会はまだ始まりません。始まったら、「いぬとにわとり」やろうっと!

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おっと、忘れてはいけない。
新刊『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』
でましたあ!
みなさま、読んでください、語ってください(/≧▽≦)/
子どもさんに読んでもらってください(/≧▽≦)/

書籍案内へどうぞ (o゚v゚)ノ

グリム童話「いばらひめ」🌹

いばらひめは大好きなお話。
《昔話の語法》に一話丸ごと解説したので、読んでみてください。
「各話による説明」のところです。こちら⇒

いつもは2時間ほど講義でやるのですが、耳で聞く場合はとちゅうで「?」って思って考えていると、先へ先へと行ってしまいますね。
書いたものを読むと、見直せるから、講義よりも効率がいいかもしれないなと思いました。
うん、この方法、いいかも。
あ、受講料をいただけないと困るか、ジミーさん q(≧▽≦q)
語りの森は火の車(笑)

今日のレパートリーの解凍
「ながいなのむすこ」『にほんご』福音館書店
これは、ずいぶん昔に覚えて、当初はガンガンやってた話。
それがいつのころからか語らなくなって、お蔵入りしてたのを、久々に出してきました。
これは歌のようなもんなので、3回でもどりました。

ラスト「息子を引き上げたが、その時にはもうおぼれて死んでしまっていたとさ」
自分が親世代だったときは気にならないで、子どもと一緒に笑ってたんだけど。
いま、おばあちゃん世代になってみると、なんだか切ないなあって思ってしまった。
せっかく解凍したけど、もう一度冷凍しよっかな(‾◡◝)