「昔話の本質と解釈」カテゴリーアーカイブ

昔話の解釈ー昔話に登場する人と物4🦄

マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第7章 昔話に登場する人と物 つづき

前回は昔話に出てくる竜についてでしたね。
悪者の竜は、美しいお姫さまの内部にも存在する。
この竜は、悪の原型で、戦うよりほかに仕方がない存在です。竜は討たれ、ほろぼされます。
創作ファンタジーに登場する竜とはちょっと違いますね。

きょうは、昔話に登場する「野獣」についてです。
野獣は、竜のように悪の権化ではありません。救いようがないほど悪いわけでもないし、全ての野獣がほろぼされるわけではありません。野獣は変わるかもしれないからです。

どんな時に変わるかというと、人間が撃ち殺さずに命を助けた時です。そんなときは、野獣は、人間を脅かすどころか、人間を助ける者になります。

例)グリム童話「ふたりの兄弟」
主人公の双子の兄弟が、深い森の中で食べる物が無くなってしまいます。そこで、ふたりは、狩りをしようとします。
まず、うさぎが跳ねてきます。
ふたりが、うさぎを打ち殺そうとすると、うさぎは言います。

狩人さん、命を助けてくださいな
子どもを二羽さしあげますから。

ふたりは、2羽のうさぎを連れて旅を続けます。すると、今度はきつねがあらわれて、同じことが起こります。このあと、狩人は、おおかみ、くま、ライオンを助けてその子をそれぞれ2頭ずつもらいます。そののち、この動物の子どもたちが、手となり足となって、ふたりの運命をささえるのです。

また、主人公は、野獣の命を取らないだけでなく、野獣を助けてやります。

例)「まほうの鏡」こちら⇒《外国の昔話》・「心臓がからだの中にない巨人」おはなしのろうそく

ワシのひなをヘビから救った狩人は、わしの羽を一本もらう。
こまったときにその羽を燃やせば、すぐにワシが飛んできて狩人を助ける。

これらの話から、リュティさんはこう言います。
悪の変身、つまり、正しく振る舞えば敵が味方になる。破壊的な力は滅ぼされるには及ばない。人を助ける力に作り変えられることがある。そういう知恵も昔話の登場人物の中に生きている。

これって、人生を生き抜くうえで大事なことですね。
しかも、昔話はそれを、机上の空論っていうか抽象的な概念で表現するのでなくて、野獣やら猟師やら羽やらを使って物語るのです。
だから、大切な知恵が、具体的な形をとって初めて子供たちに届くのです。
リュティさんは、次のようにも言います。

そういう本質直観は具体的な事物を通してはじめて子どもの感情と体験の中へしみとおっていくことができる。

でね、変わる野獣だけじゃなくて、最後まで悪者の野獣の場合でも、昔話の中でそんな危険なものと出会ったら、子どもは、そういう危険な暴力との対決を避けてはならないことを、はっきり感じ取っていると、いいます。

リュティは、ここで、心理学者の話を紹介します。赤ずきんの話を聞いた2歳半の女の子の話です。
あまりに恐がるものだから、親が、おおかみの絵を燃やして、悪いおおかみは死んじゃったって慰めます。そして、おおかみなんて遠いロシアにしかいないって教えます。しばらくして、女の子は、父親と公園に出かけることになります。母親が、気を使って、「これから森のうさちゃんの所へ行くのよ」といいます。女の子は、とちゅうで、出会った人にこういいます。「これから、森のロシアのおおかみさんの所に行くの」

父親といっしょなら、単純で危険のない野兎に会うより、心をゆるがすような体験を求めるだけの心の準備がこの子にはできている。

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きょうは、十五夜ですよ~中秋の名月!
昨日も一昨日もきれいなお月さまでしたね。
お月さまの右のほうに明るく光っているのは木星だよん。
今夜も晴れるかな?

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きのうの更新は《外国の昔話》「食いほうだいに食ったねこ」
語ってくださいね~

 

 

昔話の解釈ー昔話に登場する人と物3🦄

マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第7章昔話に登場する人と物 つづき

昔話の主人公は美しい、ということでしたね。覚えていますか?
魔法昔話で有名なのが竜退治の話ですが、竜にさらわれるお姫さまは最高に美しいんですね。

竜とお姫さまの組み合わせは、昔話だけでなく、神話でもなじみ深いものです。
ギリシャ神話のペルセウスとアンドロメダがあげられています。
ギリシャの英雄ペルセウスは、メドゥーサ(見る物を石にする怪物)の首を切って帰る途中、怪物のいけにえに定められていたアンドロメダを助けて結婚します。
この怪物は、海獣ティアマトで、竜ではありませんけれどね。

さて、その美しさについてですが、もっとも美しいもの、もっとも高いもの、もっとも貴いものは、偶然おびやかされるのではなくて、本来おびやかされる運命にあると、リュティさんは言います。
しかも、外からだけでなく、内からもおびやかされるんだというのです。たとえば、お姫さまの体中に蛇がすんでいたりするのですね。

例として、ロシアの昔話「皇帝の息子シーラとその不思議な援助者白いシャツのイワシカ」が紹介されています。

王さまの娘が、頭が六つある竜とねんごろになっているんだけど、王子シーラはそのお姫さまと結婚します。白いシャツのイワシカは、シーラに、お姫さまをむちで打つように助言します。このむち打ちが最初の清めです。
つぎに、イワシカが竜と戦って六つの頭を切り落としてやっつける。
それでもまだお姫さまは完全にのろいを解かれていないのです。
結婚して一年たつと、イワシカは、お姫さまを剣でまっぷたつにします。すると、お姫さまのお腹の中からありとあらゆるへびがはい出して来ます。それを焼き殺し、命の水でお姫さまを生き返らせます。やっとお姫さまは救われます。

「旅の仲間」(こちら⇒)のお姫さまも、トロルとねんごろになっていて、いじわるですよね。そののろいを解くためには、トロルをやっつけるだけではだめで、お姫さまをむちで打ち、ミルクのお風呂でごしごし洗ってトロルの皮をぬぐい落さなければなりません。

竜は、私たちの外部にいるばかりでなく、内部にもいる。
ほんとうに救われるためには、自分自身から解放されなくてはならないのです。

昔話はくっきりした印象を与える事物によって内面の出来事を描いているのである。昔話の聞き手は、目に見える事物を通して心の真実のすがたを理解する。昔話は、外面的な意味においてではなく、内面的な意味において真実なのである。

昔話はうそ話、ファンタジーですよね。現実そのものは伝えていません。現実は伝えていないけれども、真実は伝えているのです。

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ところで、《外国の昔話》にUPした「牛の子イワン」こちら⇒は、お姫さまの出てこない竜退治の話ですよ~

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今日のおはなしひろばは、インドネシアの昔話「山とヤマアラシ」
ねずみの婿探しのインドネシア版です。

 

 

昔話の解釈ー昔話に登場する人と物2🦄

じゃあじゃあと、雨、降りすぎですo((>ω< ))o
ごてごてと、コロナ対策、遅すぎです(╬▔皿▔)╯

けど、勉強します。

マックスリュティ『昔話の解釈』報告です。

第7章昔話に登場する人と物

前回、昔話に登場する人物は、お姫さまとか王子さまとか、象徴的な意味で、高貴で光り輝く太陽のような人物が出てくる、ということでしたね。
その人物像は、人びとが、心の中で、自分もそうなりたいなあと思うような理想像でもあります。
人は、「わたしはこう生きたい」という思いがあって、それが昔話に反映されているということだと思います。それは、語り手自身の思いでもあるし、聞き手に対する思いでもあると思います。
わたしたち語り手は、おはなしの中にそれを見つけて、次に伝える役目があります。
だから、勉強しましょう。
いつかきっと、語りが生きる時が待っていると思います。
いえ、今でも、知恵を使って努力をすれば、語りは生きています。

はい、では、リュティさんですよ~(●’◡’●)

高貴なもの、美しいものこそ危険にさらされ、おびやかされ、保護を必要とし、助けが入用なのである。
たとえば、王さまが不治の病にかかるとか、お姫さまが竜にさらわれるとか、です。

リュティさんは、グリム童話のKHM60「二人兄弟」を例に挙げて説明しています。
グリムの「二人兄弟」は読んだことありますか?
おもしろいよ~
めちゃおもしろくって、もう何十年も語りたくて仕方がなくているんだけど、長いの。「恐さを習いに旅に出た男の話」の倍ほどの長さがある。
思い切っておはなしひろばにUPしようかなあ。

この「二人兄弟」のなかの、竜退治の部分について、言及しているのね。
竜退治は、ATU300として、ひとつの話型をなしている。
この話型、どんな筋なのか、リュティさんによる粗筋があるから、引用しますね。

若い主人公は、たいていの場合、クマだの獅子だのめっぽう強い犬だのの助けを借りて竜に勝ち、姫は竜のいけにえにならずにすむ。けれども、姫はまだ救われたわけではない。もう一度おびやかされることになる。不実な侍従長とか厚かましい炭焼きが、むりやり姫に「この人が私を救った」といわせる。そして、てがらを横取りしたやつと姫との結婚式が行われる当日になって、つまり最後の瞬間になってはじめて、ほんとうの竜殺しが現われ、姫をもう一度すくうことになる。

どこかで聞いたことのある話でしょう?
日本なら「しっぺいたろう」とか「しんぺいとうざ」。
『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に語れるテキストを掲載しています。

はい、きょうはここまで。

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月曜日の更新は、《日本の昔話》「命のろうそく」。
語ってくださいね~
今日は、《おはなしひろば》「いぬときつねの旅」を夕方にUPします。
聞いてくださいね~

昔話の解釈ー昔話に登場する人と物🦄

雨が降ってます。
おそろしいほどたくさん降ってます。
そろそろ日が暮れます。
早めに対策しましょう。

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マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む。
第7章 昔話に登場する人と物

「昔話」って聞くと、どんな人物を思い浮かべますか?

おじいさん。おばあさん。庄屋の娘。貧しい若者。・・・・
って、これはとっても日本的ですね
民族によってさまざま、特徴が異なると思います。

リュティさんは、グリム童話をはじめ、ヨーロッパの昔話の研究者なので、あくまでもヨーロッパを対象にしています。すると...
王子、王女、王、妃、豚飼い男、がちょう番の女。・・・
が、真っ先にうかんでくると、リュティさんはいいます。

王子、王女、王、妃は、今では、日本の子どもたちも同じかもしれないですね。

この人物たちは理想像であり導きの星だと、リュティさんは言います。

人はだれでも、他人の中に「完璧な模範的人間」を求めているし、それどころか、自分自身の中に、それを求めているというのです。
「完璧な模範的人間」であることの証として、その人物は美しい姿をして現れます。
もちろん、「白雪姫」のおきさきのように、美しい人物が悪いことをすることはあるけれども、それは例外です。「美しい娘」というとき、その娘は心も美しいことが期待されています。

王子と王女、・・・といったような昔話を特徴づけている光り輝く人や物は、聞く人、読む人の心に「高貴なもの、王者のようなもの、太陽のようなものが誰の人生にも可能である」、それどころか、「人間は王者のような生き方を目指している」という期待を呼び覚ますものである。

たしかに、グリム童話や、ロシアやヨーロッパの昔話を読むとき、そういった高揚感はあります。
生き方を深く考えさせ、感じさせてくれます。

日本の昔話にも、同じことが言えるでしょうか?
これ、純粋な疑問です。
みなさんは、どう思いますか?

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今日のおはなしひろばは、インドネシアの昔話。
いたずら者の暴れん坊の話です。
悪いことをするんだけれど、笑い飛ばすエネルギーにあふれています。
いつもいつも良い人でなくてもいいのです。

 

 

昔話の解釈ー偽の花嫁と本当の花嫁、けもの息子とけもの婿10👸🤴

さてさて、きょうで第6章が終わります。
前回、ひとりぼっちで孤立しているからこそ、本質的なものに到達できる、それは、人生の真実であって、たんなる願望や希望ではない、ということでしたね。
それを信じていれば、たいていのことは乗り越えられる、その勇気を与えられると思います。
だから、わたしは、子どもたちに昔話を語りたいのです。子どもたちこそが昔話を必要としていると思うのです。
みなさん、お話を覚えるのって大変だけど、この暑さの中で練習するのも大変だけど、語りの場を見つけるのも大変だけど、かしこく、がんばろ~

はい、リュティさんです。
この章のまとめの部分。

偽の花嫁の話、けもの婿(息子)の話を見てきて、共通する大きなテーマは外見と実際です。
がちょう番の娘の外見の中に、お姫さまが隠れています。白クマの毛皮の中に王さまが隠れています。
象徴としてです。
この外見と実際っていうテーマは、ほかのあらゆる昔話を貫いていると、リュティさんは言います。

この大テーマに悪は善に至りうるという比較的小さなテーマが組み込まれてます。
苦しみは、幸せに至るための道の起伏にすぎません。

もうひとつの小テーマは、悪の自滅です。

もうひとつ小テーマがあります。人間は役の担い手であるということです。
王女が女中の役を演じる・女中は花嫁の役を横取りする・王子はけものの役を演じるなどなど。

この章で考察した話たちは、リュティさんの言葉によると、心を王者のように発展させ、高き存在に至らしめるよう呼びかけているのである。

わたしは、これを自分事としてとらえたいです。文字を持たない庶民が伝えてきたのは、ストーリーの背後にある自尊の心、人としての誇りなのです。
そして、それを、今を生きる子どもたちに伝えたいo(*°▽°*)o

ところで、マックス・リュティ『昔話の解釈』とは別に、異類との結婚の話、つまり異類婚姻譚(いるいこんいんたん)について、参考になる本を紹介します。
『昔話のコスモロジー~ひとと動物との婚姻譚』小澤俊夫著/講談社学術文庫

これは、小澤俊夫先生が、日本と世界の異類婚姻譚を比較研究された本です。考え方の基本はリュティさんと変わりません。ただ、ほんとにたくさんの昔話を比較して詳しく説明してあるので、とっても興味深いです。
ちょっと文明論のようでもあります。
ぜひ読んでみてくださいね。

え?ここで報告?
いやいや、自分で読んでおくれ(笑)

次回は第7章昔話に登場する人と物です。

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きのうのおはなしひろばはインドの昔話「村のおばあさん」
心があたたかくなるお話(o゜▽゜)o☆