マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第7章 昔話に登場する人と物 つづき
前回は昔話に出てくる竜についてでしたね。
悪者の竜は、美しいお姫さまの内部にも存在する。
この竜は、悪の原型で、戦うよりほかに仕方がない存在です。竜は討たれ、ほろぼされます。
創作ファンタジーに登場する竜とはちょっと違いますね。
きょうは、昔話に登場する「野獣」についてです。
野獣は、竜のように悪の権化ではありません。救いようがないほど悪いわけでもないし、全ての野獣がほろぼされるわけではありません。野獣は変わるかもしれないからです。
どんな時に変わるかというと、人間が撃ち殺さずに命を助けた時です。そんなときは、野獣は、人間を脅かすどころか、人間を助ける者になります。
例)グリム童話「ふたりの兄弟」
主人公の双子の兄弟が、深い森の中で食べる物が無くなってしまいます。そこで、ふたりは、狩りをしようとします。
まず、うさぎが跳ねてきます。
ふたりが、うさぎを打ち殺そうとすると、うさぎは言います。
狩人さん、命を助けてくださいな
子どもを二羽さしあげますから。
ふたりは、2羽のうさぎを連れて旅を続けます。すると、今度はきつねがあらわれて、同じことが起こります。このあと、狩人は、おおかみ、くま、ライオンを助けてその子をそれぞれ2頭ずつもらいます。そののち、この動物の子どもたちが、手となり足となって、ふたりの運命をささえるのです。
また、主人公は、野獣の命を取らないだけでなく、野獣を助けてやります。
例)「まほうの鏡」こちら⇒《外国の昔話》・「心臓がからだの中にない巨人」おはなしのろうそく
ワシのひなをヘビから救った狩人は、わしの羽を一本もらう。
こまったときにその羽を燃やせば、すぐにワシが飛んできて狩人を助ける。
これらの話から、リュティさんはこう言います。
悪の変身、つまり、正しく振る舞えば敵が味方になる。破壊的な力は滅ぼされるには及ばない。人を助ける力に作り変えられることがある。そういう知恵も昔話の登場人物の中に生きている。
これって、人生を生き抜くうえで大事なことですね。
しかも、昔話はそれを、机上の空論っていうか抽象的な概念で表現するのでなくて、野獣やら猟師やら羽やらを使って物語るのです。
だから、大切な知恵が、具体的な形をとって初めて子供たちに届くのです。
リュティさんは、次のようにも言います。
そういう本質直観は具体的な事物を通してはじめて子どもの感情と体験の中へしみとおっていくことができる。
でね、変わる野獣だけじゃなくて、最後まで悪者の野獣の場合でも、昔話の中でそんな危険なものと出会ったら、子どもは、そういう危険な暴力との対決を避けてはならないことを、はっきり感じ取っていると、いいます。
リュティは、ここで、心理学者の話を紹介します。赤ずきんの話を聞いた2歳半の女の子の話です。
あまりに恐がるものだから、親が、おおかみの絵を燃やして、悪いおおかみは死んじゃったって慰めます。そして、おおかみなんて遠いロシアにしかいないって教えます。しばらくして、女の子は、父親と公園に出かけることになります。母親が、気を使って、「これから森のうさちゃんの所へ行くのよ」といいます。女の子は、とちゅうで、出会った人にこういいます。「これから、森のロシアのおおかみさんの所に行くの」
父親といっしょなら、単純で危険のない野兎に会うより、心をゆるがすような体験を求めるだけの心の準備がこの子にはできている。
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きょうは、十五夜ですよ~中秋の名月!
昨日も一昨日もきれいなお月さまでしたね。
お月さまの右のほうに明るく光っているのは木星だよん。
今夜も晴れるかな?
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きのうの更新は《外国の昔話》「食いほうだいに食ったねこ」
語ってくださいね~