日別アーカイブ: 2023年12月9日

おはなし入門講座 第4回

12月5日、今年度のおはなし入門講座もついに最終回、受講生の皆さんの発表会が開かれ、お二人が語り手としてデビューされました。

プログラムは以下のようになりました。

「ありこのおつかい」(『ストーリーテリングについて』子ども文庫の会)

「舌きり雀」(『おはなしのろうそく13』東京子ども図書館)

「ヘンゼルとグレーテル」(『語るためのグリム童話1』小澤昔ばなし研究所)

「小僧さんとねこの絵」(『語りの森昔話集5 ももたろう』語りの森)

「きつねの恩返し」(『日本の昔話3 ももたろう』福音館書店)

「ありこのおつかい」を語られた受講者さんは、小学校での読み聞かせの活動をされていて、このおはなしも子どもたちに聞かせたいとのことでした。実は語りが手につかないような日々だったそうで、出席も迷われたそうなのですが、勇気を出して語ってくださいました。テキストを見ないで語られたところは、イメージがよく伝わってきて、決していい加減になさったわけではないとわかりました。思い出せない部分を「自分で作ってしまいそう」とおっしゃってテキストに目をやられたのですが、いっそ作ってもいいですよ!と声を掛けそうになりました。もちろん基本的にはダメです。が、それでも時々、本番の語りでどうしても言葉が出てこないとき…やってしまいますよね。もちろん、あてずっぽうに似た言葉を持ってくるのでは失敗しますが、しっかりとイメージ出来ていれば、そう大きくそれてしまうようなことはないと思います。おはなしの世界を大事に語ろうとされていたので、いずれ落ち着いたときに、ぜひ子どもたちに聴かせてあげてほしいです。

「舌きり雀」も受講者さんの語りです。有名な昔話で、たくさんの類話もあるおはなしですが、語り手さんそれぞれで違った味わいのある、良いおはなしだと改めて感じました。覚え始めてから、すっかりおはなしの世界に没入していたという語り手さんは、幼い頃に見ていた情景をイメージして語られたそうです。怖かった馬、かわいい牛、村はずれの尼寺…初めての語りとは思えないほどしっかりした語りの土台には、実際の体験からくる確かなイメージがあったのですね。

「ヘンゼルとグレーテル」、「小僧さんとねこの絵」、「きつねの恩返し」は、ききみみずきんメンバーの語り。「ヘンゼルとグレーテル」、お菓子の家ばかりクローズアップされがちですが、絵本などでは省かれている場面もとても魅力的に語ってくださいました。「小僧さんとねこの絵」の語り手さんは、新聞でこのおはなしの主人公とよく似た、絵の大好きな小僧さんの逸話を知り、東寺で開かれていた展覧会を鑑賞してイメージを広げられたそう。好きなことに打ち込む大切さを伝えられたら、とおっしゃっていました。そして日常語での語り「きつねの恩返し」は、当初予定になかったのですが、時間に余裕があったため、急遽語ってくださることに。「語れるかしら」と心配されていましたが、ご自身で日常語に直したテキストは、語り手さんの優しい佇まいにもぴったりで、聴き手全員が温かい気持ちになりました。

語りの発表の後、それぞれ感想を述べ、自分にとっておはなしを語ることとはどんなことかという話をしました。現実の世界…日常生活では誰でも仕事が忙しかったり、育児に悩んだり、大切な人との別れがあったり、気持ちに余裕が持てなくなることが幾度となく訪れます。そんなとき、問題が解決するまで休むことも非常に大切ですが、おはなしが安らぎや癒しを与えてくれることもあります。おはなしを読んだり、語りの練習をしているときは、おはなしの世界にぐっと集中できる自分ひとりの大切な時間。子どもたちにより良い語りを届けるための努力はしなければなりませんが、ときには自分のためにおはなしと向き合う時間があっても良いのです。

お休みされた方もあり、予定していたプログラムどおりにはいかない発表会でしたが、どの語りも誠実で心がこもっていて、良いおはなし会になりました。それに考えてみると、それぞれがおはなしについて思うことを、膝を突き合わせて語り合える機会は滅多にないことです。入門講座の運営に携わり、初心に返って謙虚に語りに向き合いたいと思わせてくださって、本当にありがたいと、ききみみずきん一同感謝しています。

受講者の皆さん、お疲れ様でした。またどこかで語りを聴けるのを楽しみにしています。