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語りの森を作った魔女

昔話の解釈ー賢いグレーテル4👩‍🍳

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第5章 賢いグレーテル

グリムの笑い話の中でも最も人気のあるという「幸せハンス」
ハンスは、7年間働いて、母親のもとへ帰る途中です。
砥石を井戸に落っことして、無一文になり、重荷から解き放たれたハンスは、母親のもとへ帰って幸せになるでしょう。

あれれ、わたしたち、グリム童話を読んでいると、家や親の元から離れて旅に出て、成長して幸せなラストを迎えるって話が多くありませんか?
末っ子で兄さんたちにいじめられながら、命の水を父親のもとに持って帰り、お姫さまと結婚して父の後を継ぐ。
母親に追い出されて、なんども殺される羽目に会って、それでも王子さまと結婚して幸せになる。
そんな話に、魂が浄化されるというか、感動を覚えますよね?

こんなふうに、ふつう昔話は、主人公の出立、発展、成熟を示します。
けれども、「幸せハンス」は、帰還、後戻り、退行を示しています。
そういう意味で「幸せハンス」はアンチ・メルヘン(反昔話)のように思われると、リュティさんは言います。

昔話では、主人公に困難な課題を課します。
けれども、ハンスは、何ひとつ重要な課題に出会わず、不愉快なことにばかり煩わされます。

また、昔話は、主人公に、有能な援助者をあたえます。
けれども、ハンスが出会う援助者は、ハンスをだまします。

ハンスは、つぎつぎと貴重なものを手に入れる代わりに、一段また一段と手に入れたものを失っていきます。
ハンスは、持っているものを人に与えますが、親切心や人助けのためではありません。気楽に楽しくやりたいからなのです。いつも一番楽な抜け道を選ぶのです。

精神分析的にいえば、ハンスと自分を同一視する人は、不安のない子どもの状態に帰りたいと思っていて、そういう生き方は、困難を避けて自己を甘やかし、幻想に生きようとする傾向があると考えることができると、リュティさんは言います。

昔話の主人公は出会う人と真実な関係を結ぶが、幸せハンスは常に見せかけの関係しか結ばない。ハンスには世界への通路がない。

じゃあ、なぜ、そんな話が伝承されているのでしょう?
グリムの「幸せハンス」だけじゃなくって、同じような笑い話はいっぱいありますよね?
どうして、わたしたちは、「幸せハンス」を朗らかに笑って聞くことができるんでしょう?

はい、考えといてください。
次回はそのことについて、報告します。

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昨日のおはなしひろばはグリム童話の「かしこいエルゼ」
幸せハンスはほんとうに幸せなの?と同じく、かしこいエルゼは、ほんとうにかしこいの?
かしこいグレーテルは本当にかしこかったけどね~

 

 

 

昔話の解釈ー賢いグレーテル3👩‍🍳

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第4章「賢いグレーテル」つづき

笑い話について。
昔話を読んでいると、なんだか極端に愚かだったり、極端に残酷だったりして、いいのかなあと不思議に思うことありませんか?
「そんなことないやろ?」って思うこと、ありますよね。そういう場合、多くは笑い話なんですね。もしくは、笑うところ。

緊張からの解放、気楽さ、良心のやましさをちゃっかりごまかすこと、これが、笑話が私たちに提供するものである。

笑い話は、重荷を下ろしたような感じを抱かせてくれるし、高い理想とか難しい要求とかは何もないと、リュティさんはいいます。
落語とか漫才を聞いているときと同じですね。
笑いは、免疫力を高めるっていうけど、その秘密はここにあるんだ\( ̄︶ ̄*\))

昔話では、笑話は、素材がひとりでに展開していくような描きかたをする。もしくは、調子よく連鎖していくように語る。
そういう技法で作られているのね。
たしかに、『おはなしのろうそく』にのってるノルウェーの「ホットケーキ」や、イギリスの「おばあさんとぶた」などなど、そうですね。
連鎖譚とか累積譚ってよばれます。
累積譚については、こちら⇒《昔話雑学》

グリム童話83「幸せハンス」もそうです。
聞いてください。こちら⇒《おはなしひろば》
金のかたまり→馬→牛→ぶた→がちょう→砥石と、連鎖していきます。

「幸せハンス」は、グリム童話集の中で一番人気の高い笑い話だそうです。
終わり近く、ハンスとはさみとぎ屋の会話のなかで、連鎖をもう一度後ろから前へたどっていますね。語り手は、よっぽどこの連鎖を楽しみにしているらしいと、リュティさんは言います。
そうなんです。ここ、語るのとっても楽しいのです。子どもたちを巻き込んで、逆にたどる、その面白いこと!
で、語るときは、そのように語りましょうヾ(^▽^*)))
同じような構造は、「ありとこおろぎ」(こちら⇒)の終わり近く、「六匹のうさぎ」(こちら⇒)の動物たちがライオンに答えるところでも見られます。

それから、牛はミルクやバターチーズを提供してくれるし、豚はベーコンやソーセージがとれるし、がちょうは焼肉や脂が取れます。
つまり、「賢いグレーテル」でみたように、飲み食いの楽しみが原動力になっているのです。快適な生活一般への喜びが大きな役割を演じています。

さて、最後にハンスは無一文になりますね。
砥石を井戸の中に落としてしまいます。
失敗は無意識的な意図から起こる
ハンスは、砥石が重くて重くてたまらなかったんです。それでも、とっても慎重に井戸のへりに置きます。ところが、ちょっとすれただけで、石は井戸の中に落っこちるんですね。こんなうまいやり方でじゃまっけな石を始末してくれた神さまに、ハンスは感謝の祈りを捧げます。
無意識的な意図。昔話は、心理学より先に、このことを知っていたんですね。

ところで、かつて高学年この話を語ったとき、子どもたちが、「ハンスは本当に幸せだったのか」と議論し始めました(笑)
みなさんは、どう思われますか?
いっぽう、「幸せハンス」は、アンチメルヒェンだとも言われています。笑い話の多くがアンチメルヒェンだとも。
はい、次回はこのことについてお勉強します。

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いま、語りの森昔話集を編んでるところなんだけど、せっかくリュティさんから笑い話をお勉強しているんやから、それを意識して目次を組んでいます。
おはなし会のプログラムでも、これ、生かせますね。しっかりしたおはなしの後にばかばかしい笑い話をもってくる。集中の後には重荷を下ろしたような解放感が、必要なんですね。

私たちにとって理論は理論で終わらない。実践で確かめ、実践に生かす。
そのためのお勉強ですよ~

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きのうは、おはなしひろば、春らしく「佐渡のしろつばき」です。
聞いてくださいね~

 

 

春ですね~🌸

コロナ下でも花は咲きますね。
京都府南部にも春が来ました。
まだちょっと寒い日もあるけど。

写真は、近所の公園の大島桜です。
大島桜は、日本古来の自生の桜です。
ソメイヨシノよりちょっと白っぽい。

卒業、卒園の季節。
入学、入園、新生活の季節をひかえる3月。
コロナ下でも、うきうきと心さわぎます。

完全リタイアのおばあさんでも、幼稚園の黄色いカバンのにおいを思い出して、うきうきします。60年以上過ぎても匂いの記憶は残っている。幸せやな。

あたらしい出逢いがたのしみな人も、心配な人もいるやろね。
どんな思いも、大切に味わってほしいな。
その一足、一足が、生きてるしるしやからね。
ほんで、できれば、幸せなほうへ歩いて行こうね。

コロナ休暇も、ちょうど1年になった。
急激な環境の変化でも、慣れるもんですね。
ゆっくりじっくり考える時間があった。
で、これだけはやりたいってこと、三つ。
1,いっぱい再話したい。
2,図書館のおはなしの部屋を居場所にしている子どもたちと遊びたい。
3,第九歌いたい。

きのう、ききみみずきん主催のおはなし入門講座と、図書館主催の絵本の読み聞かせ講座の日程が決まりました。
募集が始まったら、ぜひ、ご応募を!
新しい出会いがありますよ~
あなたに逢いたい\(@^0^@)/

 

 

 

『飛ぶ教室』🧑

エーリヒ・ケストナーの作品で、なぜかこれだけが家になかった。
それで、図書館にリクエストした。
ネット予約だったし、よく確認しないで申し込んだ。
来たのは、ケストナー作/最上一平文/矢島眞澄絵/ポプラ社

え?
読んだ。
これって、ケストナー?
めっちゃがっかりしてあとがきを読んだら、「完訳も読んでほしい」と書いてあった。
つまり、抄訳だったんだ。

もし子どもが、抄訳から読んだら、ケストナーのおもしろさはわからないと思う。
気を付けて。
たしかに高橋健二訳は、今では言葉が古くて、楽しむには読書力が必要です。
それでも、抄訳はあかんやろ。

それに、挿絵はやっぱりヴァルター・トリアーでなくちゃ。
好みで言ってるんじゃないよ。ケストナーにとって、トリアーは相棒だったんだから、言ってるんですよ。ケストナー作品を最も理解した挿絵だってこと。読んでいて、挿絵から学ぶことも多い。

それで、リクエストしなおした。
こんどは、池田香代子訳/岩波少年文庫。
池田さんの文章は、高橋さんより読みやすい。

ごめん、長い前置き~
でも、『飛ぶ教室』にも長い前置きが二つもあるのよ(笑)

『飛ぶ教室』は、1933年刊。
ヒトラーの独裁が進み、ケストナーはじめ反ナチスの作家たちの本が燃やされた直後に書かれました。第二次世界大戦前夜です。
これまで報告してきたように、ケストナーは、子どもを子ども扱いしない大人です。そのケストナーが、この時代に何を書いたか。

直接、戦争やナチズムについて書いていません。
ふつうの生活、ふつうの子どもたちの少年期を切り取っているだけです。
でも、いま、わたしたち、ふつうがどんなに難しいか、わかるでしょ。
登場人物たちも、そうなのです。ふつうが難しい。
そして、そのひとりひとりの生活と感情を丁寧に拾い上げています。
ひとりの感情は、もうひとりの思いにつながり、それはまたもうひとりにと、連鎖していきます。
人と人とが関わることの美しさと哀しさと力強さがあります。

わたし、子どもの時、この本読んでこんなに泣いたかなあ。
井戸端会議で報告しようと付箋つけながら読んだんだけど、付箋、多すぎ(笑)

そのたくさんの付箋の中から一か所だけ、抜粋します。
「まえがき」から。
生きることのきびしさは、お金をかせぐようになると始まるのではない。お金をかせぐことで始まって、それが何とかなれば終わるものでもない。こんなわかりきったことをむきになって言いはるのは、みんなに人生を深刻に考えてほしいと思っているからではない。そんなことは、ぜったいにない!みんなを不安がらせようと思っているのではないんだ。ちがうんだ。みんなには、きでるだけしあわせであってほしい。ちいさなおなかが痛くなるほど、笑ってほしい。
ただ、ごまかさないでほしい、そして、ごまかされないでほしいのだ。不運はしっかり目をひらいて見つめることを、学んでほしい。うまくいかないことがあっても、おたおたしないでほしい。しくじっても、しゅんとならないでほしい。へこたれないでくれ!くじけない心をもってくれ!
(略)
へこたれるな!くじけない心をもて!わかったかい?出だしさえしのげば、もう勝負は半分こっちのもんだ。なぜなら、一発おみまいされてもおちついていられれば、あのふたつの性質、つまり勇気とかしこさを発揮できるからだ。ぼくがこれから言うことを、よくよく心にとめておいてほしい。かしこさをともなわない勇気は乱暴でしかないし、勇気をともなわないかしこさは屁のようなものなんだよ!世界の歴史には、かしこくない人びとが勇気をもち、かしこい人びとが臆病だった時代がいくらもあった。これは正しいことではなかった。
勇気ある人びとがかしこく、かしこい人びとが勇気をもつようになってはじめて、人類も進歩したなと実感されるのだろう。なにを人類の進歩と言うか、これまではともすると誤解されてきたのだ。

うん、確かに、ケストナーは大人に向けても書いている。
あのヒトラーの時代を生き抜いたケストナーからのメッセージやね。

ケストナー作品には素敵な大人が登場するけれど、今回も、まるで主人公たちの未来の姿のような大人が出てきます。その大人たちの生き方や言葉にも感動しました。

うう、何でもいいから、とにかく、読んでおくれ~

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いのち。
せいいっぱいのことを。

 

 

昔話の解釈ー賢いグレーテル2👩‍🍳

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む。

第5章 賢いグレーテル

グリム童話、読みましたか?または、おはなしひろばの「かしこいグレーテル」聞きましたか?
はい、では、このお話について、リュティさんの説を読みましょう。

「賢いグレーテル」の話は、頭の働きと飲み食いの喜びが見事に組み合わされています。

特に前半。グレーテルは、飲み食いの喜び(動物的欲望)のために、つぎからつぎへと頭をフル回転させます。
これを今食べなかったら罰が当たるって、いいなあ。
手羽をひとつ食べる時の言い訳、焦げてる。
ひとつ食べたら、もう一方の手羽。足りないことに気付くかもしれない。
一羽を食べたらもう一羽。対になってるから。

グレーテルは、安らかな気持ちでごちそうを平らげるために、精いっぱい頭を働かせているのです。
口が命令を下し、頭が命令を受けている。

ところが、後半になると、今度は罰を逃れることが、知的な楽しみとなります。
頭が素晴らしい働きを見せる。

活発な頭の働きを読んだり聞いたりする喜びは、笑い話が読み手や聞き手に与えるもう一つの満足よりはるかに重要である。

だから、この話は、活発な頭の働きを存分に楽しめるように語らないといけないのね。もちろん、飲み食いの喜びとセットだけどね。
これはもう、スピード感と間(ま)にかかっているといっても過言ではない。
ちんたらやっている場合やない(失礼!)

と、ここで、リュティさんは「もう一つの満足」といっていますね。
それは何でしょう。
下の者が上の者を負かしたり、弱いものが強いものに勝つのを眺める楽しみです。
社会的に低い女中が、身分の高い旦那やお客に勝つ。
これは、女の男に対する勝利です。
だいたい、人間は、自身が欠如体として世の中を生きていかねばならぬ存在であるから、弱いものが強いものに勝つのをながめることは、心からの満足を与えると、リュティさんは言います。

なるほど。
でも、それにもかかわらず、機敏な頭の働きに対する喜びのほうが、主になっていて、重要なのです。

はい、ここまで(●’◡’●)

次回は、グリム童話の幸せハンスについて。
読んでおいてくださいね~

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金曜日のおはなしひろばは、日本の昔話「きつねとたぬき」。
笑い話です。
『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』に載ってますよ~