「昔話の本質と解釈」カテゴリーアーカイブ

昔話の解釈ー死人の恩返し4💀

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第4章死人の恩返し

「死人の恩返し」(ノルウェーの昔話「旅の仲間」)の類話、スイスで記録された類話をみます。

金持ちの夫婦に息子がひとりいて、あるとき父親が息子に、利子の取り立てに行かせます。ところが、その帰り道、息子は、借金を払わずに死んだ男がむちで打たれているところに出くわします。息子は、死人の代わりに、取り立ててきた利子で借金をはらってやります。帰宅すると、利子をそんなことに使ったと言って、父親はどなりつけて叱ります。
一年後、父親はまた息子に利子の取り立てに行かせます。その帰り道、息子は、誘拐されて牢屋に閉じこめられている娘を助けます。そして、娘のために宿を探してやり、宿賃をはらいます。帰宅すると、また、父親は、そんなことにお金を使ったと言って、息子を追い出してしまいました。
結局主人公は、娘と再会するのですが、その娘は実はある王国のお姫さま。船で王国に向かうとちゅう、お姫さまに横恋慕した船長に、息子は海に落とされてしまいます。無人島に流れ着いた息子の前にうさぎが現れて、背中に乗せてもらって海を渡り、・・・なんやかんやして・・・お姫さまと結婚、めでたしめでたし。

この息子を助けたうさぎが、死人の生まれ変わりなんです。

もうひとつ、イタリアの16世紀に記録されている類話をみます。その冒頭。
フランチェスコ・ストラパローラの『愉しき夜』に入ってるそうです。(未見)

トリノに賢い公証人がいて、たくさんの財産を残して死にます。息子がその遺産の一部を持って世の中へ旅に出ます。母親は、そのお金で儲けてくるようにといいます。息子は、追いはぎが商人を殺して、死んだ商人に暴行をくわえているところに行き会わせます。息子は、死んだ商人を買い取って葬式をしてやります。お金が無くなってしまった息子は家に帰ります。母親が、儲けてきたかとたずねると、息子は「お母さんと私の魂をもうけた」と答えます。事情を聴いた母親は激怒し、息子を追い出します・・・

ここで、スイスの話では父親が、イタリアの話では母親が、死人を買った息子に激怒しています。
どちらも、主人公と親との価値観の違いが分かりますね。

ところで、スイスの類話のように、借金の取り立てのとちゅうで死人を助けるという導入部は、旧約聖書外伝のトビト書(トビト記)に見られるというのです。
つまり、死人の恩返しの話は紀元前にさかのぼるということなのです。
すごい、古いですね~
残念ながら未見ですが。

はい、今日はここまで。
つぎは、救済のテーマについてと、トビト書の内容です。

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月曜のホームページ更新は《日本の昔話》
短いし、覚えられるでしょ???
節分に間に合ったやろか?

 

 

昔話の解釈ー死人の恩返し💀3

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む。

第4章「死人の恩返し」

ノルウェーの昔話「旅の仲間」の類話に、アンデルセンの「旅の道づれ」があるってとこまででしたね。
読みましたか?
どうだった?
まだ学生だったころ、アンデルセンが好きで岩波文庫の全集を何度も読み返していたんだけど、いま読み直してみると、昔話との違いがびっくりするほどよくわかる!

『昔話の解釈』のこの章では、アンデルセンの類話、かなり多くの引用があるのですが、省略して、リュティさんの説だけを紹介します。アンデルセンは自分で読んでおいてね。

はじめます。

アンデルセンの「旅の道連れ」の若い主人公は、借金を残して死んだために、棺から放り出されそうになる死人に出会います。
ノルウェーの昔話「旅の仲間」では、ワインを水増しした酒屋の氷漬けの死体ですね。
類話の多くは借金を返せない死人となっているので、アンデルセンはそっちの典型的な伝承に従っています。

つぎは両者の描写の違い。
リュティさんは、なんという違いがあることだろうと言っています。
昔話は、話の筋がぐんぐん進んでいくのに対して、アンデルセンは、気の向くままに立ち止まってこまかい描写にふけっています。

たとえば。
自然の扱い方。アンデルセンの例
主人公が、旅の冒頭で、野原で寝たときの描写です。
小川が流れ干し草の山がある広い野原と、その上に広がる青空は、これこそまさに美しい寝室であった。赤や白の小さい花が咲いている緑の草原がじゅうたんであった。にわとこの茂みと野ばらの垣が花束であった。透き通ったつめたい水の流れる小川がそっくり洗面器になったが、そこでは葦がおじぎをして、「おはようございます」「おやすみなさい」を言った。月は青天井に高くかかる大きなランプだった。

彼岸者の扱い方。
主人公が旅に出る時、振り返って見た教会に、こびとがいました。
塔の上のほうの窓辺に教会のこびとの妖精が立っているのが見えた。こびとはいつものように赤い小さな先のとがった帽子をかぶっていた。こびとは胸に手を当て、何度もヨハンネスにキスを投げてよこしたが、それは「ごきげんよう。旅の無事を祈ります。」という気持ちをあらわしていた。
昔話では、彼岸者はストーリーに必要な時しか出現しませんね。だから「いつものように」なんてありえない。アンデルセンのこのこびとは、心を込めて描かれているけれど、ストーリー上の役割はありません。

ほかにも、昔話ではありえない描写としてあげているのは、父親が亡くなったときの部分。
ヨハンネスの目に涙が浮かんだ。ヨハンネスは泣いた。それが悲しみを和らげてくれた。太陽が緑の木々の上にきらきらと輝いていた。それはまるでこう言おうとしているようだった。「ヨハンネス、そんなに悲しむことはない。青々とした空を見てごらん。お前のお父さんは今あの上にいるんだよ。そして、お前がいつまでも仕合せでいるように、神さまに祈っている」「わたしはいつもよい人間でいたいと思います」とヨハンネスは言った。「そうすればわたしも天国のお父さんのところへ行けるでしょう・・省略・・・」
めっちゃ長い(_ _)。゜zzZ

もうひとつ、昔話では決して出てこない省察。死人に出会ったときのこと。
ヨハンネスはちっともこわくなかった。良心にやましいところがなかったからである。それにヨハンネスは、死人は誰にも害を加えないことをよく知っていた。ひどいことをするのは生きている悪い人間である。
え?笑ってしまう?
笑うたらあかん。
一部分だけ取り出してるから、昔話と比較してあまりの違いに笑ってしまうけどね。作品ぜんぶを読んだら感動する。

昔話と創作童話、これは異なった二つの世界である。

でね、アンデルセンというひとりの作家が、たとえ昔話をもとにしていても、アンデルセン独自の文体で表現をするのは当たり前です。川端康成は川端康成にしか書けない表現をするのと同じです。作家ひとりひとりが異なる。
作家はひとつの時代を生きた人です。時代の影響をもろに受けます。
私たちに多くの優れた物語を贈ってくれた大作家、アンデルセンは、その語り口がすっかり時代に制約されている。感傷化し、道徳化し、夢想的になっているのです
ところが、民衆は、16世紀においても、19世紀や20世紀と大して変わらない語りかたをしているのです。

はい、おしまい。
次回は、もう一つの類話を読みます。

 

 

昔話の解釈ー死人の恩返し💀2

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第4章「死人の恩返し」

ノルウェーの昔話「旅の仲間」について、リュティさんは、非現実的なことと日常的な事を混ぜ合わせる昔話の傾向をよく示していると言います。

たとえば、最初に主人公がやってきた国では、道という道がまっすぐ直線的にのびいて、曲がるということがない。
道があるのは日常なんだけど、この道が、鋭い直線性と無限定性を持っているという点においてメルヘンランドの原像とも言えます。

若者が夢に見たお姫さまは、ミルクのように白くて血のように赤くて、計り知れないほどのお金持ち。
お姫さまを夢に見ることは日常的にあっても、ここまで極端なお姫さまは、やはり、メルヘンの住人ですね。極端性と無限定性を持ちます。

氷の柱も、ガラスのように透き通った昔話の世界によく合います。

この話の類話に、アンデルセンの「旅の道づれ」があります。
アンデルセンは、フェーン島で語られている話を聞いて再話したそうです。
主人公はヨハネスといって、父親が亡くなった夜に「長いりっぱな髪の上に金の冠をのせた美しい娘」の夢を見ます。そして、その娘を探して旅に出るのです。
次回は、このアンデルセンの再話を読んで、ノルウェーの「旅の仲間」と比較していきます。

アンデルセンの類話は、『アンデルセン童話集1』大畑末吉訳/岩波文庫にあります。興味のある人は読んでみてね~

はい、おしまい。

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昨日の朝、起きたら雪が降ってた。
ほんとに久しぶりにちょこっと積もりました。
雪の少ない地方でずっと暮らしているので、ぱっと視界が明るくなってウキウキします。
雪国の人には申し訳ないのですが・・・

一昨日は日本の昔話「たからげた」をアップしました。
語ってくださいね~

 

 

昔話の解釈-死人の恩返し💀

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第4章「死人の恩返し」

なんだか物騒ですね。不気味ですね。
でも、死人だって恩返しをするのです。狐や鶴ばかりではありません。

ところで、クイズです。次のグリムの昔話に共通することは何でしょう?

「七羽のからす」「六羽の白鳥」「かえるの王さま」「兄と妹」「いばら姫」「白雪姫」

答えは・・・

じゃーん!

救済がテーマになっていること~

救済っていうのは、魔法の害から救い出すこと、魔法によって変えられた姿をもとへ戻すこと、呪いを破ること。
先に上げたグリム童話のような、救済をテーマにしている昔話を救済話っていうそうです。
でも、広い意味でいえば、昔話はほとんどすべて救済話だとも、リュティさんは言っています。
そして、これらの話は、なぜ魔法にかけられたか、なぜ呪いを掛けられたかということよりも、どうやって救済されるのかということに、力点が置かれています。

このことは、昔話が人間をまさに救いを必要とする者と見なしていることを示していると言います。
この昔話の態度は、キリスト教に近いとも言っています。

人間は援助と救済を必要とする。
このテーマは、死人の恩返しの類話に、いろいろと形を変えて出てきます。
この話では、主人公だけでなく、援助者の死人自身も救済を必要としています。

ここで、アスビョルンセンとモーによるノルウェーの昔話にある「仲間(みちづれ)」を見ていきます。

読みましたかあ~
こちら⇒「旅の仲間」

 

これの冒頭~2ページ目10行目まで、リュティさんの解説。
行きますヾ(•ω•`)o

あとから追いかけてきた男=旅の仲間こそが、主人公が助けた死人なんですね。
この死人がいなければ、主人公は、夢に見たお姫さまと結婚できません。

テーマ1
主人公は無一文になることによって、それと知らずに、自分の目的を遂げさせてくれるただひとつのもの、つまり超自然的援助者を手に入れる。
これ、事物は反対物に転化するっていうあれです。
かしこい兄さんではなく愚か者の末っ子が命の水を手に入れるとか、灰かぶりのきたない娘こそが王さまと結婚するとか、昔話は好きですよね。

テーマ2
目下の義務に専念することから生ずる有効範囲の思いがけない広がり。
主人公は、お姫さまさがしをさしおいて、死人を助けますね。目の前のことに専念しています。そのおかげで、かえって目的(お姫様発見)に近づくことになりました。

テーマ3
自己を放棄することができる者のみが自己を獲得することができる。
主人公は、お姫さまさがしのために、家も畑も全部売り払います。そのお金を、ほとんどぜんぶ死人のために使いますね。ふつうなら、考えられませんね。
捨てることのできる者のみが天国を手に入れるという意味で、やはりキリスト教に近いと、リュティさんは言います。

はい、おしまい。

「旅の仲間」、最後まで読んでね。あ、夜に聞いたら寝てしまうよ。長いから(笑)

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きのうは、おはなしひろば。
「干支の由来」でした~
これは、あっという間に終わる(^∀^●)

 

昔話の解釈ー金の毛が三本ある悪魔9👿

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む。

第3章「金の毛が三本ある悪魔」おわり

年をまたいだ金の毛三本。今日でおしまいにするね。

この話のラスト、主人公を何度も死に追いやろうとした王さまが、渡し守になって永遠に船をこぐことになる場面についてです。
この場面、子どもに語ると、「やったー!」感がはじけます。

王さまは、自分の欲によって自滅します。
婿に押し付けようとしていた死の運命を、自ら受けることになる。
人間は自分のせいでしか滅びないというのが、昔話の中にさまざまな音色で鳴り響いているテーマだと、リュティさんは、言います。
白雪姫のお妃もそうでしたね。

そして、渡し守の質問の答えである「次に川を渡してくれといった人に櫂を渡せば、その人が替わって渡し守になる」の「その人」が、他の誰でもない、ドンピシャ主人公を苦しめた王さまだったということ。
これは、内容的にも意味深いけれども、芸術的にもよく考えられています。
「文学的節約」「美的節約」ということを思い出してね。

この第3章をはじめから読み返してみてください。
そこで気づく、繰り返される昔話のもう一つのテーマ「人間は、此岸の世界からも彼岸の世界からも流れ寄ってくる援助に導かれている
コロナで距離について、孤独について、考えさせられてるけれど、昔話のこのテーマ、ヒントにならないかな。

もうひとつ。
オイディプス神話は、不幸の予言が、あらゆる防止策にもかかわらず実現されて、悲劇に終わる。
金の毛が三本ある悪魔では、幸福の予言が、あらゆる対抗措置にもかかわらず実現されて、幸せな結末を迎える。
この対称について述べたあと、リュティさんは、この章をこう締めくくっています。
昔話は人間が危険にさらされることも知っているし、それを露骨に描いている。けれども、昔話は試練をすべて意義あるものとして認め、人間をその試練により強められ高められるものとして描いている。

はい、おしまい。

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次回は第4章。
そのまえに今週更新したノルウェーの昔話「旅の仲間」を読むか聞くかしておいてね。つぎはこの話についての考察です。
ヨーロッパでは有名なんだけど、日本語の翻訳が少なくて、知らない人が多いと思います。
こちら⇒旅の仲間