『瀬田貞二子どもの本評論集 児童文学論上』の報告つづき
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第2章ファンタジー
〈夢みるひとびと〉ネズビット『砂の妖精』 1973年発表
イーディス・ネズビット(1858-1924)
幼いころから物語を語ったり詩を書いたりしていました。
結婚してから、生活のために、恋愛小説、怪奇小説、詩を書きに書きますが、成功しません。
1899年『宝さがしの子どもたち』出版。ここで児童文学作者として立つことになります。
1902年『砂の妖精』
このあと、砂の妖精の出てくる『火の鳥の魔法のじゅうたん』『魔除け物語』を書き、三部作が傑作となります。C・S・ルイスも少年時代に刺激を受けたそうです。
『宝さがしの子どもたち』は、ファンタジーではなく小説です。
ネズビットは、この小説の手法を使ってファンタジーを書くことで、それまでの昔話的なファンタジーから新しいファンタジーを創り出しました。
だから、登場する子どもたちは、リアリティにあふれています。
日常を生きる子どもたちが描かれ、読者の分身となって活気にあふれた行動を起こしていきます。
瀬田先生は、『砂の妖精』の最初の章、物語の始まりの持って行き方を絶賛しています。
何事かが起こるに違いないという期待。
サスペンス。
とうとう現れた妖精!の鮮明な描写によるリアリティの付けかた。
引用。
日常蝕知の外にある架空の事柄にいかに信をつなぎうるか。ファンタジーを読者にそれなりの世界として、「信じがたい世界の真実」として認めさせるには、非現実をどれほどリアリティに富むものにするかの力量にかかる。
彼女の作品の後、リアリティに裏打ちされたファンタジーが次々と生み出されていくのです。先述したケネス・グレアムやトールキンなどですね。
それだけでなく、砂の妖精の、願いをかなえてくれるが気難しいというキャラクターは、たとえばトラヴァースのメアリー・ポピンズに引き継がれていきます。
砂の妖精サミアドは、主に子どもの願いを聞いてくれるけれど、日没とともに願いは消えます。サミアドの魔法は、条件付きなのです。この条件付きの魔法も、ネズビットが発明したもので、後続に引き継がれます。
このように、ファンタジーの歴史上、大きな意義のある存在なのですが、瀬田先生は、その魔法のエピソード(ぜんぶで9つあります)自体は、面白くないと批判しています。
各エピソードへの導入はうまいけれど、「つばさ・つばさをなくして」「お城と敵兵・包囲攻撃」以外は面白くないと。
このふたつのエピソードは、教訓的な意図がなくて、子どもらしく自然な話になっています。
瀬田先生は、「ファンタジーの書き方を知りたければ、もう一度この本(『砂の妖精』)を丹念に読むことである。ことに、冒頭を、第1章を。」と言っています。
ストーリーの中身の面白さを堪能するには、次の時代の作家を待たなければならなかったのですね。
きょうは、ここまで。