マックスリュティ『昔話の解釈』を読む
第5章賢いグレーテル
まだつづきますよ~
グリムの笑い話の中でも「幸せハンス」はピカイチなんですが、類話を調べると興味深いことが見えてきます。
ロシアの類話「とりかえっこ」(『ロシアの民話下』岩波文庫)では、お百姓の夫婦の話になっていて、夫がハンス同様、値打ちのないものと次々取りかえっこして、最後はただの棒きれを持って帰るんですね。すると、おかみさんが、腹を立てて、その棒きれで夫を殴るという結末です。
ハンスは結末で精神的な幸せを手に入れますけど、この主人公は痛い目にあうだけです。
さて、このロシアの「とりかえっこ」のように、「幸せハンス」の類話は、多くが夫婦の話になっています。そして、つぎつぎに価値のないものと取りかえていくというモティーフが核になっていますが、結末が異なる。というか、くっきり二つに分かれます。
前回の終わりに、つぎはアンデルセンの「父さんのすることはいつもよし」ですよって、書きましたけど、読みましたか?
では、報告です。
愉快な交換の話には類話がたくさんあるけれども、「幸せハンス」とは違って、主人公が最後に文無しにならずに、また上へ押し上げられるような話もあります。アンデルセンによる再話「父さんのすることはいつもよし」がそれです。
連鎖はこうです。
馬→牛→ひつじ→がちょう→にわとり→一袋の腐ったリンゴ
で、お百姓が居酒屋でにわとりを腐ったリンゴと取りかえているときに、それを見ていたふたりのイギリス人が、お百姓に、
「おまえさん、家に帰ったら、おかみさんにとっちめられるぞ」と忠告します。すると、お百姓は、こういったのです。
「とんでもない、キスしてもらえるよ。ひどい目になんかあうものかね」
そこで、イギリス人は、賭けをもちかけます。
おかみさんがキスをしたら大枡いっぱいの金貨をやるというのです。
さて家に帰ると、お百姓は、連鎖を繰り返して話します。おかみさんは、値打がなくなるたびに、喜びます。そして、最後は、腐ったリンゴをケチな校長先生の奥さんにやれると言って喜びます。ちょうどその直前に、おかみさんが、ねぎを貸してもらいに行ったら、奥さんが、「うちの庭には腐ったリンゴだってありゃしません」と断っていたのです。
腐ったリンゴがちょうど間に合う。これ、昔話のパロディです。
昔話では主人公は、まさに必要とするものを手に入れるでしょ。
そして、おかみさんは、お百姓にキスをします。
賭けに勝ちました。
イギリス人は、
「どんどん落ち目になっていくのに、ちっとも朗らかさを失わない。これは確かにそれだけの金の値打ちがある」といって、笑って金を支払います。
このことを、リュティさんは、イギリス人は「仕合わせハンス」をちょっぴり自分の中に取り入れているといいます。
ところで、類話を調べてみると、先述のロシアの「とりかえっこ」には賭けのモティーフはありません。けれども、アンデルセンのように、賭けのモティーフのあるものが比較的多いようです。
たとえば。
スウェーデン「夫婦は一体」(『世界の民話・北欧』ぎょうせい)
アイスランド「いい女房を持ってるな」(『世界の民話・アイスランド』ぎょうせい)
アルバニア「やつのすること大当たり」(『世界の民話・アルバニア他』ぎょうせい)
ウクライナ「仲むつまじい夫婦生活」(『世界の民話・ウクライナ』ぎょうせい)
興味のあるかたは読んでみて下さい。
もう一話、インドの「水牛が雄鳥になる話」(『インドの民話』青土社)が、結末が少し違っていて、なんだかほっとする話なので、近々再話して《外国の昔話》で紹介しますね。語りたいです。
ここから寄り道ですが、いまインドの昔話を読んでてね、めっちゃ面白いの。
なんでインドかっていったらね、昔話の起源がインドにあるっていう仮説があるでしょ。グリムもそのことを考えてるのね。で、ほんまかどうか真偽のほどは定かでないらしいけど、じゃあ、インドにはどんな昔話が残ってるんだろうって、そこはかとなく思ったの。ヴェーダとかパンチャタントラとかの古典じゃなくて、現代の口承に興味を持った。
インドはイギリスの植民地だったし、ヨーロッパからの影響は強い。でも、え、こんな話聞いたことないぞというような珍しい話もある。
それに、同じ話の類話でも、他の民族に比べて哲学的な色合いが濃いように思います。
「水牛が雄鳥になる話」の結末も、他のインドの昔話に通底するものがあるようです。
で、戻ります(笑)
ブータンの「ヘレーじいさん」はグリム「幸せハンス」と同じ結末ですが、楽しい心のうちを歌いながら帰って行くところは、ハンスよりもっと幸せ感がありますね。
「ヘレーじいさん」は、『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』に入れています。おすすめのおはなし、読んでくださいね~
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昨日の更新は《日本の昔話》
笑い話で、「一把のわら」
語ってくださいね~