和尚さんが檀家から梨をひとつもらって、それを3人の小僧さんに分けてやります。ひとつしかないから、一番上手に歌を詠んだ者にやるっていうんですね。ただ、歌に条件があって、下の句は「切りたくもあり切りたくもなし」。その上の句を作れっていうんです。
それで小僧さんたちが詠んだ上の句は、こんなのです。
小僧1 うぐいすが踏みちらしたる梅の枝 切りたくもあり切りたくもなし
小僧2 すずり箱長きにあまる筆の軸 切りたくもあり切りたくもなし
小僧3 梨ひとつくれぬ坊主の生首を 切りたくもあり切りたくもなし
和尚さんは腹を立てて、梨を投げつけます。小僧3はそれをキャッチして食べちゃったって話。
話型名は「切りたくもなし」。分布は全国に広がっているそうです。
笑い話の中の狂歌話のひとつです。
狂歌っていうのは、滑稽や社会風刺を詠んだ和歌のこと。
和歌をめぐって風刺したり笑いをとる小咄です。
優雅なのか、お下品なのか、よく分からないけど、おもしろいなあ。
「梨」だから、「切りたくもなし」って、しゃれね。
この小僧さんが詠んだ上の句、ほかの類話にどんなのがあるか調べてみました~
(ひまやね~)
小僧1 十五夜の月にかかりし松の枝
小僧2 寺入りの文庫にあまる筆の軸
小僧3 梨ひとつくれぬ坊主の細首を
山梨県の話
小僧1 月隠す庭の小松の細枝を
小僧2 すずり箱や入りかぬる筆の柄を
小僧3 梨ひとつ惜しむ和尚の生首を
大分県の話
豆腐屋の小僧 今朝とうに豆腐半丁買いにきて
筆屋の小僧 今朝とうに筆を一本買いに来て、筆の毛先が長すぎて
寺の小僧 梨ひとつ惜しむ坊さまの生首を
愛媛県の話
などなどなど。
小僧がふたりしかいない場合とか、和尚さんが小僧3をほめて梨をやるとか、いろんなバリエーションがあります。
ほぼ共通してるのは、松とか梅とか風流なもの⇒筆の軸⇒和尚さんの首、です。
なんで、こんなことを話題にしてるかというとね、先日の再話入門講座で、出雲の「切りたくもなし」が原話として出てね、その狂歌の意味が分かんない~
こんなのです。
小僧1 鶯に踏みにじられた梅の枝
小僧2 父親にけさでもろうた筆の軸
小僧3 梨一つ惜しむ和尚のそっ首を
小僧2が分からない~
けさでもろうた???
「けさで」の意味。
1案 和歌だから、古語を使っていると考えて「け(消)さで」⇒「消さないで」
う~ん、意味不明やね。それに、小僧1「踏みにじられた」は古語なら「踏みにじられし」となるはず。つまり、小僧たちは古語ではなく口語を使っている。
2案 口語なら、地の文を含めぜんぶが土地言葉で語られていることから、「けさで」も土地言葉、つまり方言かもしれない。だれか出雲の土地言葉を教えておくれ~
3案 類話的に見て、筆の軸が長くてじゃまになるって言っていますね。それって、ヒントにならないかな?????
4案 研究者が語り手から聞き取るときに、聞き間違えた。または、書き写すときに書き間違えた。~笑笑笑
と、ヤンの推理は、八方ふさがりです。
ホームズ君、教えておくれ!
さてさてこの原話を持って来てくださったFさんは、どない解決するのでしょうか~?
楽しみ~
再話って、けっこうこういうことがあるんですね。
それで時間がかかるし、しかも、結局は完成できなかったりもするのです。
でも、「切りたくもなし」、いい再話ができて語れたらいいのにな~
楽しみです\(@^0^@)/
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きょうのHP更新は外国の昔話。
ハンガリーの「ヤーノシュと天までとどく木」
高学年向きの長~いはなしです。
いろんな類話の色んなバージョンを調べてくださりありがとうございました。
とっても面白いですね。
句は違うけれどもパターンがあるというのは言われるまで気づきませんでした。
「生首、細首、そっ首、いろいろあるけど自分ならどれがいいかな~」とか、そっちに気を取られてました(笑)
和歌の入っている話は、原話の語り手さんがおかしそうに得意そうに謳いあげるんだろうなと思うと、それだけでもう可笑しくなってきますね。
日常語入門講座でヤンさんが持ってきてくださる伝承の語り手さんの西行法師の話を思い出しました。
あの話、笑えますよね~~
ジミーさん、コメントありがとうございます~
そうそう、西行のはねぐその話、あれも狂歌話ですね。
おじさんが、トクトク
狂歌話、『子どもと家庭のための奈良の民話3』にもちょこっと再話してます。この手の話、わたし、けっこう好きなんです。自分が語るより人が語るのを聞くのが。