マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第7章昔話に登場する人と物 つづき
昔話の主人公は美しい、ということでしたね。覚えていますか?
魔法昔話で有名なのが竜退治の話ですが、竜にさらわれるお姫さまは最高に美しいんですね。
竜とお姫さまの組み合わせは、昔話だけでなく、神話でもなじみ深いものです。
ギリシャ神話のペルセウスとアンドロメダがあげられています。
ギリシャの英雄ペルセウスは、メドゥーサ(見る物を石にする怪物)の首を切って帰る途中、怪物のいけにえに定められていたアンドロメダを助けて結婚します。
この怪物は、海獣ティアマトで、竜ではありませんけれどね。
さて、その美しさについてですが、もっとも美しいもの、もっとも高いもの、もっとも貴いものは、偶然おびやかされるのではなくて、本来おびやかされる運命にあると、リュティさんは言います。
しかも、外からだけでなく、内からもおびやかされるんだというのです。たとえば、お姫さまの体中に蛇がすんでいたりするのですね。
例として、ロシアの昔話「皇帝の息子シーラとその不思議な援助者白いシャツのイワシカ」が紹介されています。
王さまの娘が、頭が六つある竜とねんごろになっているんだけど、王子シーラはそのお姫さまと結婚します。白いシャツのイワシカは、シーラに、お姫さまをむちで打つように助言します。このむち打ちが最初の清めです。
つぎに、イワシカが竜と戦って六つの頭を切り落としてやっつける。
それでもまだお姫さまは完全にのろいを解かれていないのです。
結婚して一年たつと、イワシカは、お姫さまを剣でまっぷたつにします。すると、お姫さまのお腹の中からありとあらゆるへびがはい出して来ます。それを焼き殺し、命の水でお姫さまを生き返らせます。やっとお姫さまは救われます。
「旅の仲間」(こちら⇒)のお姫さまも、トロルとねんごろになっていて、いじわるですよね。そののろいを解くためには、トロルをやっつけるだけではだめで、お姫さまをむちで打ち、ミルクのお風呂でごしごし洗ってトロルの皮をぬぐい落さなければなりません。
竜は、私たちの外部にいるばかりでなく、内部にもいる。
ほんとうに救われるためには、自分自身から解放されなくてはならないのです。
昔話はくっきりした印象を与える事物によって内面の出来事を描いているのである。昔話の聞き手は、目に見える事物を通して心の真実のすがたを理解する。昔話は、外面的な意味においてではなく、内面的な意味において真実なのである。
昔話はうそ話、ファンタジーですよね。現実そのものは伝えていません。現実は伝えていないけれども、真実は伝えているのです。
*****************
ところで、《外国の昔話》にUPした「牛の子イワン」こちら⇒は、お姫さまの出てこない竜退治の話ですよ~
*****************
今日のおはなしひろばは、インドネシアの昔話「山とヤマアラシ」
ねずみの婿探しのインドネシア版です。
お姫さまは、本来脅かされる運命にあったなんて、何とも悲劇的ですけれども納得できますね。
美しくて心も清いなんて完璧な状態で、完璧な幸せが続くと考えると、「ずっと続くのだろうか」と不安になるような気がします。
何か不幸が起こる予感が当たるような思いが昔話に届いているような…。
でも、最後には幸せになれるところが安心できていいです。
ヨーロッパの昔話で竜が悪者だということに長い事怒りを覚えていました。
龍は神さまだと思っていたし、映画『ラストエンペラー』の影響で龍=皇帝というイメージも持っていましたから。
今はもう、「頭がいくつあっても切り落としてやるわい!」という主人公目線で楽しめるようになりました(笑)
ジミーさん、コメントありがとうございます。
お姫さまって、主人公、聞き手のことですからね~
だから、おびやかされるんですよ~
とことん、恐い目にあって、最後は救われて幸せになる。
まあいうたら、人生の先取りね~
竜が悪者っていうのは、わたしもしっくりこなかったです。
エルマーと竜とか、かわいい竜もいるしねえ。