第6回 昔話の語法勉強会レポート

こんにちは、もっちです。

第6回昔話の語法勉強会に行ってきました。
今回、どんな語法が使われているのか勉強するのはグリムの昔話から『三本の金髪を持った悪魔』(KHM29)です。

テーマ📖
「主人公は死の危険に陥るが、まさにそのことが主人公をいっそう充実した高度な生へ導く。死の危険に陥った者だけが、死の現実を知った者だけが、人間として完成するのである。」(引用『昔話の解釈』マックス・リュティ著 野村泫訳 福音館書店)

『昔話の解釈』でマックス・リュティ氏は、『三本の金髪を持った悪魔』がもっているテーマをこう説明しているそうです。

え・・・死にかけなきゃ人間として完成されないの?(;´Д`)
と驚きましたが、この主人公、まさに何度も死にかけます。
何度もです! 本当に幸運の皮をかぶって生まれて来なかったら、最初の死の危機で死んでます。でも、何度も死にかける羽目になったのは、幸運の皮をかぶって生まれてきたからなのです。もうここから状況の一致が始まっているような気がします。

さて、今回も細かくどんな語法が使われているか確認しながらの講義でしたが、そのなかで今回テーマに沿ったかたちで注目したのは、主人公の死と生の対比でした。
前述しましたが、この主人公は本当に何度も死の危機に直面します。
生まれて数日経ったところに王様が村へやってきて(状況の一致)、自分の娘と結婚する運命にあることが予言(昔話では必ず予言通りになるのです)されている男の子を大金と引き換えにもらい受け、箱に入れて川に流します。こんなのもう、溺死するか、箱の中で餓死するかのどっちかしか想像できません。耳で物語を聴いているので、その時点で「死んだな…」と思いますよね。でも即座に昔話の主人公がこんなところで死ぬわけがないと期待します。すると、箱には一滴の水も入らず(完全性)、うまいぐあいに水車小屋の小僧さんに拾われます。そして、子どものいない水車小屋の夫婦に育てられるのです。やったぁ、生きてた!

それから十三年たったころ、水車小屋に王様がやってきます(状況の一致)。そして、王様は、その若者があの予言の子だと気付きます。そして、王妃に手紙を持ってきた若者を殺せという内容の手紙を書き、それをその男の子に配達させます。え~、そんなん殺されてしまうやん!

それからさらに、森で迷い、盗賊の家に辿り着きます。その家で留守番していたおばあさんに「盗賊たちが帰ってきたら殺されてしまうよ」と言われてしまいます。ここでも危ない!と死の危険が迫っています。
でも、盗賊の親玉は、若者が持っていた手紙を読んで、「姫と結婚させよ」と書き換えてしまいます。(手紙の書き替えのモチーフのことを『ウリヤの手紙のモチーフ』というそうです)さらに、城までの道を教えてくれます。良かった、死ななかった!

そして城に手紙を届けた若者は予言通りに姫とスピード結婚します。昔話は展開が早いのです。手紙の内容を疑ったり、結納を交わしたり、平民の子と?と眉を顰められたりしません。姫も若者が美しいからという表面的な理由だけで結婚します。内面を語らないのは昔話の平面性なのです。またしても若者は死の危機を乗り越えましたよ。

そこへ王様が帰ってきて、殺したとばかり思っていた若者が、娘と結婚していたことに驚き、怒ります。
そして、姫との結婚を認めて欲しければ地獄へ行って悪魔の金の髪を三本持ち帰れと言われます。若者はその言葉によって旅に出ます。そう、昔話の主人公は内面を言葉で表現されないので、外的刺激によって旅にでるのです。

と、こんな風に死の危機と、それを乗り越える生が一対のエピソードとして組み込まれて語られます。白雪姫も同じですね。
主人公の若者は、何度も死の危機に直面して高度な生へ到達したのでしょうか。人間として完成されたのでしょうか。
少なくとも若者は、賢く生き抜く力と知恵を得、昔話のハッピーエンドの要素(富の獲得、結婚、身の安全)を全て手に入れましたよ。

どの場面とどの場面が対比になっているか、お手元のテキストで確かめてみてくださいね。

2 thoughts on “第6回 昔話の語法勉強会レポート

  1. 報告をありがとうございます。
    あれこれいっぱいあったのにうまくまとめてくださってありがと~

    死と生の極端な対比が、昔話の極端性であり、抽象性のあらわれといえるんですね。
    そのような表現方法で、死がより高度な生へ導いてくれるというテーマを伝えようとしている、ということね。
    昔話って、深いね。

    それから、ごめんなさい、ウリヤの手紙は旧約聖書からのエピソードです。ギリシャ神話って言ったかもしれない。
    このモティーフについては来週のホームページ更新で、雑学のとこで説明しますね。

  2. ヤンさま、コメントありがとうございます。

    ウリヤの手紙、ブログに書く前に調べましたよ。おっしゃる通り旧約聖書が元ネタだったんですね。

    そうか、極端性ですよね。まさに両極端ですよね、生か死か。深いですよね。
    でもそんな理屈抜きでも、白か黒か、天国か地獄か、生か死か、富か貧か、両極端なお話しは面白いですね!
    昔話雑学での説明ありがとうございました。

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