松岡享子さんが旅立たれました。
かつて、おはなしの語り方に苦しんでいたときのことです。
グリム童話「かしこいグレーテル」を、ある先生に講評していただき、その結果、大きな悩みが生まれました。
悩んだ挙句、松岡先生にお手紙を差し上げて教えを乞いました。
すると、「こちらにいらっしゃる機会はありますか?」とのご返事を頂いたのです。
恐る恐る東京子ども図書館の門をたたきました。
松岡先生は、開口一番、「あの話は演じないと面白くないものねえ」とおっしゃったのです。
心のしこりがすうっと消えました。
それから〇十年。
今では、おはなしにはその姿にあった語り方があることを知っています。
そのきっかけが、松岡先生の言葉でした。
おはなしは寝てても語れるほど練習しなさいというのも、松岡先生からいただいた言葉です。
そう、いまみんなに言ってるのは、松岡先生からの受け売りです。
でも、この言葉は真実です。
松岡先生の語りを聞く貴重な機会は2回ありました。
そのなかでも、「美しいおとめ」「なまくらトック」「三匹のくま」は忘れられません。
物語の情景とともに、物語への愛情が豊かに伝わってきました。
先生の功績は数限りなく挙げることができますが、わたしの中では、最高の語り手として、生き生きと生きておられます。
上の子が2歳のときに、子育ての何かの雑誌で、ストーリーテリングというものの存在を知りました。
感銘を受けて、図書館のかたに入門講座を開いていただけないかとお願いして、翌年に実現しました。
のちに、その文章を書かれたのが松岡先生だったとわかりました。
私にとって、おはなしの先生といえるのは、松岡享子さんただひとりです。
深く感謝します。
たった一度だけでしたが、松岡先生のおはなしを聞く機会がありました。
あの時は、抽選で当たったのですが、本気で「日頃頑張っている(笑)わたしへのご褒美だ!」と思いました。
そして、忘れられない語りを聞かせていただきました。
大きな会場が松岡先生の語られるおはなしの世界に染まりました。
楽しいおはなしはスキップしている感じ、会場中が楽しくて明るい感じ。
しみわたるようなしっかりしたおはなしは、会場中が耳になって話に集中する感じ。
松岡先生が語ると部屋中のなにもかもがおはなしの世界になるんだと思いました。
松岡先生がどれほど努力なさって、そういう語りができるようになられたかと思うとただただ恐れ入るばかりです。
決して消えない思い出をいただき、感謝しています。
雲の上の目標ですが、ずっと追い続けていくと思います。