日別アーカイブ: 2022年1月30日

追悼

松岡享子さんが旅立たれました。

かつて、おはなしの語り方に苦しんでいたときのことです。
グリム童話「かしこいグレーテル」を、ある先生に講評していただき、その結果、大きな悩みが生まれました。
悩んだ挙句、松岡先生にお手紙を差し上げて教えを乞いました。
すると、「こちらにいらっしゃる機会はありますか?」とのご返事を頂いたのです。
恐る恐る東京子ども図書館の門をたたきました。

松岡先生は、開口一番、「あの話は演じないと面白くないものねえ」とおっしゃったのです。
心のしこりがすうっと消えました。

それから〇十年。
今では、おはなしにはその姿にあった語り方があることを知っています。
そのきっかけが、松岡先生の言葉でした。

おはなしは寝てても語れるほど練習しなさいというのも、松岡先生からいただいた言葉です。
そう、いまみんなに言ってるのは、松岡先生からの受け売りです。
でも、この言葉は真実です。

松岡先生の語りを聞く貴重な機会は2回ありました。
そのなかでも、「美しいおとめ」「なまくらトック」「三匹のくま」は忘れられません。
物語の情景とともに、物語への愛情が豊かに伝わってきました。
先生の功績は数限りなく挙げることができますが、わたしの中では、最高の語り手として、生き生きと生きておられます。

上の子が2歳のときに、子育ての何かの雑誌で、ストーリーテリングというものの存在を知りました。
感銘を受けて、図書館のかたに入門講座を開いていただけないかとお願いして、翌年に実現しました。
のちに、その文章を書かれたのが松岡先生だったとわかりました。

私にとって、おはなしの先生といえるのは、松岡享子さんただひとりです。
深く感謝します。

 

 

 

 

日常語の語り入門講座

オンラインで開催された2021年度の日常語の語り入門講座の最終回の報告をします!(^^)!
最終回は、いよいよみなさんが覚えた話を発表する日です。
時間の関係で2回に分けて行われました。
今年度の受講者さんは5人。
お一人お一人が違った言葉を持っておられるわけですから、それぞれ味のある日常語の語りが5話できました。

「だんだん飲み」『日本の昔話5ねずみのもちつき』福音館書店
「千人力」 語りの森HP日本の昔話 → こちら
「ねずみのすもう」『日本の昔話5ねずみのもちつき』福音館書店
「しんぺいとうざ」『語りの森昔話集3しんぺいとうざ』語りの森
「仙人のおしえ」『日本の昔話5ネズミのもちつき』福音館書店

みなさん、しっかり覚えておられ、聞いているわたしとしてはとっても楽しかったし面白かったです。
しかしながら、語った側のみなさんにとってはいろいろ苦労があったようです。
日常語にしたテキストを覚える段階で「やはりこっちじゃないかな」と思って修正し、その修正がしっくりこずにまた修正する。
修正に修正を繰り返していくと、いったいどれが自分の言葉なのか分からなくなります。
そして、ひとつの言葉を言うときに、自分は複数の言い方をする。
両方使うときにどっちにするの?問題が浮上してきます。
練習しながら、覚えながら、これらの疑問が同時に頭を駆け巡り、いろいろ苦しまれたようです。
ヤンさんのアドヴァイスは、大事なのは自分の耳で聞くこと。
この場合は、録音して聞くのではなくて、語っている自分の言葉を耳で聞いて確かめる。
助詞をどうするか迷っているときには、耳で確認していたら分かる。
あとは、これは日常語による語りに限らないけれども、聞き手からどんな反応が返って来てもぶれないように、すぐ元に戻れるように寝ていても語れるようにひたすら練習すること。
子どもの反応があれば、その間に合わせること。
これは、その場にならないと分からないことなので、そのためにもしっかり覚えてどんな風にも(早いとか遅いとか、間の取り方の長短とか)語れるようにしておく必要がある。
それと、日常語のテキストを作るときに再話力も必要になってきますので、そのためには昔話の語法の勉強が重要だということです。
語法の勉強は、おはなしを語るときにはすべてにおいて関係してくると思いますが、日常語の語りを勉強するときにはぴったりとくっついてくる感じですね。

みなさんの感想を聞いて、わたしも同じだったので、戸惑いや迷いが分かります。
とにかくテキストが定まらない。
どこに定めたらいいのか分からない。
わたしは、だいたい定着点を決めるのに、語ってから2~3年かかったかなあと思います。
だからね、みなさん大丈夫!
語っていくうちに何回か蛇行していきながらも、「この辺かなぁ~」というところが見つかります。
マイルールや、あきらめも加わって、「ここでいい!」というところが見つかると思います。
だから、記念すべき第1話を大事にしながらも話数を増やして行って、語ってみて子どもたちの反応を見て修正するを繰り返し、これからも日常語の語りを続けていってほしいと思います(^o^)