昔話の解釈ー金の毛が三本ある悪魔4👿

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第3章「金の毛が三本ある悪魔」つづきだよ~

殺したつもりが元気に生きていた主人公。倒錯。
この倒錯が、ウリヤの手紙に始まるモティーフに明らかに見られます。

「ウリヤの手紙」のもとになった旧約聖書の文章(サムエル記下第11章)では、手紙を届けたウリヤは本当に殺されてしまいます。
けれども、「三本の金髪をもった悪魔」の主人公は、生き延びますね。
それは、こんな具合になっています。

男の子は、森で道に迷い、強盗の家に行きつきます。
おばあさんがひとりいて、「ここにいたら殺されるよ」といいます。
ほら、また、死の危険です。
それでも男の子は疲れて眠ってしまう。そこへ強盗どもが帰ってくる。
強盗は、手紙を盗み読みするんだけど、「この若者を殺せ」と書いてあるのを見て、「この若者と姫を結婚させよ」と書きかえてしまう。正反対に書きかえるんです。
内なる法則が事物を反対物に転化させるかのようだとリュティさんはいいます。内なる法則、昔話につらぬいている法則ですね。
男の子がほかの人間によって無慈悲におびやかされているのを見るからこそ、強盗に反抗の精神がめざめるのである。
なるほどね、強盗の反抗心なんだ。これ、気づいているのといないのとでは、語りかたが変わるよね。

森の中の強盗に助けられるって、「白雪姫」の類話でもあったよね。追放された白雪姫が行きついたのは、七人の小人の家だったり、強盗の家だったり。人食いの小人の家だったりしたよね。あれとおんなじ。

ここで、リュティさんは、シェークスピアの「ハムレット」を引き合いに出します。
ハムレットは自分の破滅を書いてある手紙を、自分で書きかえます。従者が、「ハムレットを殺せ」と書いた手紙を持っていたんだけど、ハムレットは、それを、「従者を殺せ、そして、ハムレットを姫と結婚させよ」と書きかえるのです。
これって、「金の毛が三本ある悪魔」の主人公が寝ているあいだに書きかえられているのとは、ずいぶん意味が違ってきますね。ハムレットのように自分で手を下すのではなくて、知らないうちに救いがもたらされるのです。
それが重要(っ´Ι`)っ

主人公は道に迷ったからこそ、正しい援助者を見出す。と、リュティさんは言います。そして強盗の血に飢えた心と王さまの殺人のたくらみという、二重の危険を逃れる。

このふたつはピタッと組み合わさってるのです。
王さまの殺人のたくらみが主人公を強盗から守るでしょ。で、主人公は、人殺しの強盗の手に落ちたがために、王さまの殺人計画が水泡に帰すのです。
まるで、知恵の輪みたいにがちっと組み合わさってる。

王さまの書いた殺人の手紙(悪)が、強盗の心を和らげる(善)。
王さまの殺人の命令(悪)が、お姫さまとの結婚の命令(善)に変わる。
「白雪姫」のテーマ倒錯と同じ。

苦悩や死との隣りあわせは高度な生への通路なのである。危険、暗やみ、害悪の役目は人間を光へ押し上げることである、と昔話は信じている。

ううう、なんか、泣きそうや。
コロナではっきりしたけれど、わたしらみんな死と隣り合わせに生きてる運命共同体なんや。
こんな時代、もっとひどい時代を生きてきた昔の人は、今の私らに、こんなメッセージを残してくれたんやね。
うん。ちゃんと生きようね。
そして、次に伝えよう。

 

 

 

昔話の解釈ー金の毛が三本ある悪魔3👿

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第3章 「金の毛が三本ある悪魔」つづき

「白雪姫」と「金の毛が三本ある悪魔」の共通テーマ、分かりましたか?
死の危険に陥った者だけが、死の現実を知った者だけが、人間として完成することができる。でしたね。
これは、「白雪姫」では、よいことが悪いことになる、逆に、悪いことがよいことになるという倒錯の連鎖によって描かれているのでした。では、「三本の金髪をもった悪魔」ではどうでしょうか?

主人公は、ウリヤの手紙をきっかけとするモティーフのみならず、もともとの最初から、死の手にゆだねられています。

王さまは、男の子を買い取ると箱に入れて川に流すのです。もちろん、殺すためです。
ところが、死の川は、箱を命の岸へと運びます。箱は、棺にはなりませんでした。箱が開かれたとき、男の子は、生きていたばかりか、元気だったのです。
はい、倒錯です。
悪い意図が善い結果を招いています。

この男の子発見の場面を類話比較します。
グリム童話:元気いっぱいだった。
ホルシュタイン地方の類話1:みんなが箱を開けると、中に男の子がいて、笑っていた。
ホルシュタイン地方の類話2:箱の中には生きた男の赤ん坊が入っていて、顔じゅうで笑っていた。そして手足をばたばたやっていた。
ロシアの類話:(男の子を雪の原に捨てます。)子どもの回りには草が生え、花が咲いていた。それなのにほかは雪がひざまであった。ふたりは不思議に思って行った。「これは尊い子どもだ」

ね、グリム童話では、子どもは川に流されたけど死ななかった、元気だったというだけだけれど、ほかの類話を見ると、箱が明けられたとき復活したんですね。復活、再生のイメージです。

ここんとこ、けっこうさらっと語ってたんだけど、そうだったんだ!
奇跡の子だった!

次回はシェークスピアとの比較です。

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グリム童話のテキストについて。
昔話を知るために、グリム童話を読むことは重要です。
そのとき、こぐま社や小峰書店の語るためのテキストじゃなくて、全話の載っている完訳本を手元に置いておくといいと思います。
たとえば。
岩波文庫(金田鬼一訳)、角川文庫(関敬吾・川端豊彦訳)、偕成社文庫(矢崎・大畑・植田・山室・国松訳)、ちくま文庫(野村泫訳)、講談社文芸文庫(池田香代子訳)
これらはすべて七版(決定版)です。あと、初版と二版の翻訳もありますが、図書館で借りられたらいいでしょう。エーレンベルク稿(初版の前のメモ)も図書館に入れてもらいましょう~

幼稚園のおはなし会🎈

2か月分の報告です

子どもたちに語ると、めっちゃ生き返るわ(❤´艸`❤)

4歳児
11月2日(月)
「ひなどりとねこ」『子どもに聞かせる世界の民話』矢崎源九郎編/実業之日本社
12月7日(月)
「おおかみと七匹の子やぎ」『語るためのグリム童話集』小澤俊夫編著/小峰書店

5歳児
11月5日(木)
「アナンシと五」『子どもに聞かせる世界の民話』
12月1日(火)
「三びきの子ブタ」『イギリスとアイルランドの昔話』石井桃子訳/福音館書店

どちらの学年も、子どもたちがソーシャルディスタンスとってるので、距離が遠くって、う~~~むって感じだったのね。
なんで、「ひなどり」や「アナンシ」で、ぼーっとする?
特に4歳児は語りの経験が浅いので、聴ける子とそうでない子の差が大きい。
そして、離れて座ってるので、聴ける子のオーラが部屋全体に広がらない。

環境は大事やねo((⊙﹏⊙))o.

で、考えた。
とにかく目線を近づけよう。
声に力をつけよう。

12月は、立って語った。

前の列の子が「やったー。見える!」っていったら、後ろの列の子も、「ぼくも見える!」ってうれしそうに言っていた。

ひとりひとりをじっくり見て語れたよ。
あっち向いてる子がいたら、その子のほうに向いて語った。立ってるから、自由に体を向けられるのね。
立ってると、おなかに力が入るから声もしっかりするし。
プラスチックマスクが光っても、体で表情を伝えられるしね。

どうしてもっと早くに気付かなかったんやろ~

わたしのプラスチックのマスクを見て、
子ども「ヒーローのマスクや!」
わたし「シュワッチ!」(古いなあ)
ジェルで手をふいてたら、
子ども「なにしてるの?」
わたし「コロナやっつけてるねん。シュワッチ!」

ただ、いつの年もクラスにひとりは、聴けない子がいる。それでも、周りの子がじょうずに注意したり、先生が抱っこしたりして、少しずつ姿勢ができていくのね。
ところが、今年は、整然と椅子に座ってるもんだから、それができない。
二列目の真ん中で、A君が、孤立して遊んでいた。
少しずつ、少しずつ、根気よく、関わっていこう。

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今日のHP更新は《外国の昔話》
ノルウェーの「海の水はなぜからい」だよん。
けっこう気に入ってるの。
とくに、悪魔がありのようにむらがってくるとことか、ニシンとおかゆが追いかけてくるとことか、語ってて楽しい(❤ ω ❤)

 

 

 

研究クラスの報告(^_^)

今年初めての研究クラスがありましたので報告します(^_^)
なんかね、新型コロナの感染拡大防止のために勉強会がなくなって、元々研究クラスは年に3回でしたから、今年の3月が中止になり、1年ぶりに勉強会をしたんですよ。
広い部屋に少人数で、机やいすを消毒してね、それをやらないと始まらないから。
ほんとに、生活が一変してるから、勉強会も嬉しいやら、戸惑うやら。
そんな中で、一年ぶりに勉強するのは、グリムのKHM55番「ルンペルシュティルツヒェン」です。
レポートでは、主にテキストの比較類話集めをします。
今回は、エーレンベルク稿と初版の比較、7版と2版を基にしたテキストの比較の二つもされていました。
名前を言い当てる話といえば、日本の昔話の「大工と鬼六」が思いつきます。
それにくらべて「ルンペルシュティルツヒェン」は、主人公の娘の命がかかっているとか、子どもを取られるとか、「大工と鬼六」の、〝目玉をくれ〟とは違ってシリアスなような感じを受けます。
しかし、名前を当てる話の類話を見ていくと、名前当てを聞き手といっしょに楽しむ話だというのが分かります。
類話をあたれば、何が大事か話の核を見つけられるんだとお勉強しました(^_^) 類話の数が少ない話もありますので、絶対見つかるわけではないと思いますけどね。 わたしは、自分ひとりでは見つけられないと断言します(笑)
となれば、このおはなしの後半の、いろいろなドイツの名前が出て来る会話の掛け合いをシンプルにリズムよく語る、というのが語りの練習の時の気を付けるところかなと思いました。
わたしは、この話は絶対に覚えられないから、研究クラスでレポートを読ませてもらい、とてもうれしいです。
なぜ覚えないかというと、まず〝ルンペルシュテュルツヒェン〟が言えない(´;ω;`)
そこか!?
そして、リッペンビースト、ハンメルスバーデ、シュヌールバインを次々と言えない(´;ω;`)
またそこか!?
でも、そこなんです。
言えなかったら、どうしようもないですからね。
その努力をする時間で、他の話覚えるわ!という開き直りです<(`^´)>

そして、ヤンさんの語りは、「海の水はなぜからい」でした。
これはヤンさんの再話です。
明日、外国の昔話にアップされるそうなのでみなさんお楽しみに。
この話は知ってる人も多いと思いますが、再話でどんな文章・輪郭になっているのかを確かめましょう(^^)/

呪的逃走話の読み合わせは時間切れでできませんでした。
読みあわせていくのは楽しいけれど、1話が長~~い!
ということで、今後は各自読んできて結果を勉強会で合わせることになりました。
次回は、多分・恐らく・さすがにもう大丈夫だろうと来年の7月に行うことにしました。
レポートの当番はフレッシュ!ルーキーのUさんです!

どうか、早くワクチンができますように。
みなさんもどうぞお気をつけて、お元気で(^_^)

昔話の解釈ー金の毛が三本ある悪魔2👿

マックス・リュティ『昔話の解釈』を読む

第3章 金の毛が三本ある悪魔

グリム童話KHM29「金の毛が三本ある悪魔」の話型名。
ATU461「悪魔の三本の毛」+ATU930「予言」

「金の毛が三本ある悪魔」あるいは「三本の金髪をもった悪魔」読みましたか~?
ね、展開が面白いでしょ~

では、いきます!

14歳になったら王さまの娘と結婚すると予言された主人公。
それを知った王さまは、心の悪い人だったので、その予言をくつがえそうと画策します。生まれたばかりの主人公を買い取って、箱に入れて川に流してしまうのです。

これって、いやだね~
自分の手を汚すのが嫌だから、直接殺さないで、川に流す。
白雪姫の母親女王と同じだね。猟師に殺させようとしたり、死ぬとわかっていて森に捨てる。

さて、箱は流れ流れて水車小屋のせきに引っかかり、粉屋の主人夫婦が子どもを拾って育てる。

そのあと、かの有名なウリヤの手紙を含むエピソードが続きます。
ウリヤの手紙については、《昔話雑学》で確認してください。こちら⇒
14年ほどたって、王さまは、たまたま水車小屋を訪れて、りっぱに育った男の子を見つけます。またまた王さまは、男の子を殺そうと画策します。その方法が、ウリヤの手紙といわれるやりかたです。
男の子は、「この手紙を持ってきた若者を殺せ」と書いた手紙を持ってお妃のところへ向かう。
とちゅう、森の中で道に迷い、盗賊のすみかにたどり着き、泊めてもらう。
盗賊の親玉が手紙を盗み読む。
親玉は手紙を破り、「この手紙を持ってきた若者と姫を結婚させよ」と書き換える。
男の子は、翌日、城に行ってお妃に手紙を渡す。
お妃は、手紙の通り、男の子とお姫さまを結婚させる。

主人公は死の危険に陥る(王さまの手紙)が、まさにそのことが主人公を一層充実した高度な生(お姫さまとの結婚)へ導くとリュティさんは言います。
王さまが男の子に手紙を託さなければ、男の子はお姫さまと出会うことなんてなかったんですよ。

そこで、「白雪姫」を思い出してください。
女王が白雪姫を追放しなければ、また、毒りんごで殺そうとしなければ、白雪姫は王子さまと出会うことなんてなかったんですよ。

ほら、「三本の金髪をもった悪魔」は「白雪姫」と同じテーマを扱っているのです。
死の危険に陥った者だけが、死の現実を知った者だけが、人間として完成することができるのです。

リュティさんは、リルケの詩を引用して、昔話というのは、古い神話や儀式や思想を、遊びのような形に変えて、繰り返し違った人物を使って聞き手にわからせようとするのだといいます。

黄泉の国へ入って
竪琴をかなでた者だけが
限りないほめ歌を
うたうことができる。

死者たちといっしょに
けしの実を食べた者は
どんなに低い音色も
もはや聞きのがしはしない。

池に映る影は
消えてゆこうとも
消えぬ形象を知れ。

生と死を知ってはじめて
歌う声は
やさしく永遠となる。

ーリルケ「オウフォイスに寄せるソネット」

さてさて、ウリヤの手紙の部分だけでなく、主人公の男の子は、なんども死と生のあいだを転化していきます。
次回はそのことについて考えます。

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きのうは、おはなしひろばを更新しました。
「おにのつぼ」
どこかで聞いたことあるよ。当ててごらん~