『瀬田貞二 子どもの本評論集 児童文学論上』の報告つづき
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第2章ファンタジー
〈夢見るひとびと〉グレアム『たのしい川べ』1974年発表
〈夢見るひとびと〉の章段は、8人の作家の代表作についての評論です。
今日は、『たのしい川べ』
作者ケネス・グレアム(1859-1932)
ヴィクトリア朝時代の作家
グレアムは、当時4歳の息子アリステアのご機嫌を直すために、アリステアの好きなモグラとネズミの登場する物語を語りました。それは、7歳でアリステアが合宿で家を離れてからも手紙の形で続きます。
瀬田先生は、この作品を二部に分けて考えています。
第一部1,3,4,5,7,9章
主人公はモグラとその友人のネズミです。
ケネスの幼児回想がもとになっているようです。
四歳のときケネスは父の作った新宅に移りますが、五歳のとき母が亡くなり、自分も大病して一家離散。母方の祖母に引き取られるも、祖母は子どもに無関心。ケネスはバークシャーの自然と生物に心慰められて二年間を過ごします。
いまアリステアがその自分の年になって、あふれるようにその頃の川や小動物への愛が流れ出したのではないかという仮説です。
第二部2,6,8,10,11,12章
副主人公のヒキガエルが活躍します。
ヒキガエルは息子アリステアの分身のような性格です。親子で笑い合って物語をつなげたそうです。
この二部に分かれるという瀬田先生の説、びっくりしました。
というのは、ヤンがこの本を読んだのは小学3年のとき。やっぱり二つに分かれてると感じたから。すごい???
ヒキガエルが活躍する後半より前半のほうが好きでした。
ここで瀬田先生は、問題の多い前半(え?わたしは好きやったけど?)に限って論を進めます(やったー!)。
まずテーマと展開。
第1章「川の岸」は生きる喜びと春のうれしさ、本能の目覚め。初めて見る川。がテーマなんだけど、これは全編を通じて流れているテーマです。
どの章も、小動物が登場して季節が描かれその営みが描かれ、川、道、森といった大きな自然を舞台に事件が展開し、命のことや友情が確認されて家に帰る。
次に描写。
第5章「なつかしのわが家」モグラが長く離れていた家に帰るところ。初雪に包まれた村里、家々の灯り。
第7章「あかつきのパン笛」モグラとネズミが川をボートでさかのぼるところ。月が昇り、川が銀色の世界に代わり、月は沈み、暁が訪れ、鳥が鳴きやんで風が起こり・・・ああ。読んでおくれ~~~
その描写に対して瀬田先生は「的確な散文の描写がテーマを完璧に運んで、散文のままで詩の領域に渉っている」
最後に悲しみ。
第9章「旅びとたち」ネズミが熱につかれたように旅に出ようとするのをモグラが必死で止める。このネズミの悲しみは、明るい未来へ旅立つことをゆるされなかったグレアムの悲しみと重なる。
グレアムは、成績優秀でオックスフォードに進学したかったのに、祖母によってその夢を断たれています。
さて今回このブログを書くにあたって『たのしい川べ』を読み返しました。
『クマのプーさん』同様これまで何度も読み返してきた、私にとってはバイブルのような本です。ほんま、読み返してよかった!!!
写真は亡き父に買ってもらったもの。調べたら初版だった!
おとうさん、ありがとう。