月別アーカイブ: 2020年5月

グリム童話「かえるの王さま」👑

京都府南部は、朝からしとしと雨です。

きょうは、「かえるの王さま」について書きます。
この話は、なぜか、子どもだけでなく、学生さんやおはなしなんて聞いたことがないという大人の人たち、などなど、いろいろな場所で語りました。
おかげで、私自身のなかに深く入ってきてくれました。
それを全部書ききれないのが残念です。

KHM1「かえるの王さま あるいは鉄のハインリヒ」

エーレンベルク稿では25番ですが、初版から1番、7版までずっと冒頭を飾ります。
グリム自身、この話を、ドイツ最古のものだと、注に書いています。古くは、「鉄のハインリヒ」という題の口伝えだったそうです。

今、私たちの中には、最後のハインリヒの部分を語らないという考えの人がいます。でも、もともと「鉄のハインリヒ」として伝えられてきたのだから、ハインリヒの場面には意味があると思います。どんな意味があるのか、自分で考え、納得したうえで、省略しないで語りたいものです。

私は、この部分に私自身の思いを乗せています。
同時に、子どもたちは、最後のこの部分でぐっと集中して聞きます。
私の思いも、子どもたちのとらえたものも、その時その時で異なっているでしょうが、それでいいのです。それがお話。一期一会。
ただ、力のあるこの部分をぬきにして、「かえるの王さま」は語れないと思います。

さて、この話をずっと第1番に持ってきたグリムの思いは、ヨーロッパ近代国家の成立とかかわってきます。大きな話になるので、興味のある方は『グリム童話と近代メルヒェン』竹原威滋著/三弥井書店をどうぞ。

ここでは、細かいことを書きますね。
エーレンベルク稿から7版まで、文章が改訂されています。
「まだ人の願い事がかなったころ」とか「菩提樹の木の下には泉が」とか、版を重ねるにつれどんどん書き込まれていくのですが、私自身が気になったのは、王さまの言葉です。

かえるが近づこうとすると、お姫さまが拒否しますね。その時の王さまの言葉です。
会話文というのは、語りの中で強いインパクトを持つので、無視できません。

エーレンベルク稿では、王さまはお姫さまに、かえるの言うとおりにするように命令しますが、発語はありません。
初版と2版では、ドアを開けるように命じるところで、
「約束したことは守らなくてはならない」。
ベッドに連れて行くように命じるところでも、
「約束したことは守らなくてはならない」といいます。
7版では、ドアを開けるように命じるところで、
「約束したことは守らなくてはならない」。
ベッドに連れて行くように命じるところで、
「おまえが困ったときに助けてくれた者を後になって粗末にしてはいけない」といいます。

寝室で、エーレンベルク稿から2版までは、かえるはしゃべりません。
ところが、7版では、かえるは、お姫さまにベッドに上げてくれといいますね。そのときに、「お父さまに言いつけますよ」といいます。

この会話文に、父親の権威とか道徳心の養成とか、恣意的なものを感じてしまうのは、私だけでしょうか?
昔話ならばストーリーのみで語るのが本来ではないでしょうか?

でもね、正直なことを言うと、子どもはこの部分でハッとするんですよ。
ストーリーに集中するだけでなくて、自分の内面に入っていく感覚が、語り手としてわかるんです。
ならば、グリムさんのこの再話は成功といえるのではないか、と思います。今はね。

ATU440「カエルの王様、または鉄のハインリヒ」
ヨーロッパを中心に世界中に広がっています。
いつかこんど、イギリスの類話「世界の果ての井戸」を紹介しますね。

「かえるの王さま」を子どもがどんなふうに聞くかについては、『ノート式おはなし講座 語り この愉しき瞬間』にも書いてるので見てね。持ってない人は買ってね(あ、『おもちホイコラショ』も一緒にねーついでの宣伝  \(@^0^@)/)。

はい、おしまい。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「かえるの王さま」

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今日のレパートリーの解凍
「ついでにぺろり」『おはなしのろうそく6』東京子ども図書館

きょうはなんだかぼ~っと😉

おはなしひろばにUPした「イワンの夢」を気に入ってくださった方がいたので、《外国の昔話》に載せました。
解説とテキストが読めますよ~こちら⇒
私も、この話、好きなのです(^∀^●)ノシ
ありがと~~o(*^@^*)o
みなさま、リクエストしてくださいね~
リクエストいただくと、めっちゃうれしいです。

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新聞に載っていた音楽のサイト。
朝比奈隆のタクトが今だけ無料で聴ける。
CURTAIN CALL こちら⇒
大フィルの定期演奏会のところクリックしたら、小鳥の鳴き声と渡辺橋からフェスティバルホールに向かう動画。
いきなり泣けてきた。
席についてちゅんちゅん鳴き声を聞いてわくわくする。なんだか遠い昔のことに思える。
終息したら、すぐに行く!

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オペラやバレーを観てみたい人には、新国立劇場が、サイトをつくっています。
その名も「巣ごもりシアター」こちら⇒
聴きごたえ、見ごたえあるよヽ(✿゚▽゚)ノ

 

 

 

グリム童話「ルンペルシュティルツヒェン」😈

KHM55「ルンペルシュティルツヒェン」

あらすじ
1、冒頭:父親が見栄を張って、娘がわらを紡いで金にすることができると、王に言う。
2、王からの課題は、わらを紡いで金にすること。
3、小人が助けてくれる。最初に生まれた子どもと引き換えに。
4、娘が拒絶すると、小人は、名前を当てろという。
5、娘の使者が森の中で、小人が叫んでいるのを聞く。
6、名前は、ルンペルシュティルツヒェン。
7、ラスト:小人は、自分の体真っ二つに引き裂く。

エーレンベルク稿では、
1、糸を紡ぐと、みな金になってしまうので、娘は困り果てている。
2、なし。
3、4、6 同じ。
5、忠実な召使女。
7、玉杓子にのって、窓から飛んで出ていく。

初版では、
1~4、6 同じ。
5、王が森の中で聞く。
7、怒り狂って走って行って、二度と戻ってこない。

2版以降はほぼ同じ。
グリムさんは、この形にするまでに、いくつかの口承を足したり引いたりしたんですね。

興味深いのは、1と7。
1、父親が見栄を張って、娘が犠牲になるという設定。
7、自分の体を真っ二つにするところ。1からのシリアスな雰囲気を引きずると、7は残酷に聞こえる。だから、直前の名前あてのところで、お遊びの雰囲気を楽しんでおくことが重要。そうすれば、子どもは、おお~って、びっくりしておもしろがります。

ATU500話型名は、「超自然の援助者の名前」
古いところでは、1705年に記録があるそうです。
世界じゅうに類話があって、日本の「大工と鬼六」も、この話型ですね。
類話をすこし紹介します。

イギリス『イギリスとアイルランドの昔話』
これは皆さんご存じ。
1、娘がパイを5つも食べてしまう。母親が、一日5かせ糸を紡ぐと、王に見栄を張る。
2、一日5かせの糸紡ぎを一か月。
3、娘自身と引き換えに、黒い小鬼が助けてくれる。
5、王が森の中で聞く。
6、名前は、トム・ティット・トット
7、暗闇の中へさっと出ていく。
冒頭から、間抜けな娘の笑い話になっていて、グリムのような重さはありません。ラスト、お妃が指を突き付けて名前を言うところ、ちょっとかっこいい(笑)

スペイン『スペイン民話集』岩波文庫
1~5は、グリム7版とほとんど同じ。
6、名前は、名無しの悪魔。
7のラストは、地団駄踏んで地中に沈んでいき、二度と娘の前に現れなかった。となっています。

フランス『フランス民話集』岩波文庫
1、怠け者の娘。母親は見栄を張って、娘が何もかも紡いでしまうという。
2、王は、麻の詰まった部屋に入れてすべて紡ぐように言う。
3、4 一年と一日経ったら名前を当てるという約束で、糸を紡いでやる。
5、王の狩人が聞く。
6、名前は、リカベール・リカボン
7、おならをして出ていく。三日間というもの、ひどく臭かった。

ほかに、オーストリアの「シュピッツバルテレ」、デンマークの「トリレウィプ」、ロートリンゲンの「アントニウス・ホーレクニッペル」
どれもおもしろいけれど、活舌がネックかもq(≧▽≦q)

名前を言い当てることの意味を考えると、これって真面目な話かもしれない。
中国にはかつて本名は呼ばないという風習があったし、日本も、万葉の時代は、女性に名前を尋ねることは、結婚を申し込む意味があった。
ここで思い出すのは、ル・グウィンの『影との戦い』。
主人公ダニーは、オジオンから「ゲド」っていう「真の名」をもらいますね。
だから、ヨーロッパでも、名は体を表すのかもしれない。ごめんなさい、ちゃんと調べたいのですが。。。
情報をお持ちの方、教えてください。

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今日のレパートリーの解凍
「ボタンインコ」完成!

グリム童話「三本の金髪を持った悪魔」🧛‍♂️

KHM29「三本の金髪を持った悪魔」

この話は、5年生の1学期に語ることが多い話です。
「かも取り権兵衛」とセットにして、わくわくするいいプログラム。へへ、自画自賛(*^▽^*)

最初に占い師の予言が出てくる。
昔話では、予言は必ず実現されるって決まりがありましたね。こちら⇒
この長い話全体が、予言が実現するという目的に向かって、ひたすら進んでいく。
最終目的が明確で、その目的にとって障害になる出来事が次々に現れ、次々に解決していくため、聞く者の集中がとぎれないのです。

出来事は、状況の一致(こちら⇒)によって、鎖のようにつながっていきます。

例1
幸運の皮をかぶった男の子が生まれ、14歳になったら王の娘と結婚するだろうと予言される。
ちょうどそのとき、その村に、王本人がやってきて予言を聞く。
え~っ、ありえへんよね~という設定。

例2
男の子が助けられて暮らしている水車小屋に、王が訪れる。その時、男の子は14歳。
なんで、そんなうまいこと・・・?

あとの例は自分で見つけてください。めっちゃ簡単やからo(*^@^*)o

長いからと躊躇しているあなた、大丈夫です。覚えやすい。子どもも大変よく聞きます。

ところで、書誌的に言うと、初版から入っていて、そののち、例のフィーマンおばさんとの出会いがあって、2版では、フィーマンおばさんの語りに置き替えられています。
初版は、カッセルのアマーリエ・ハッセンプフルークさんから聞いた話。
こちらは、主人公が美しいきこりで、お城の前で木をきっていると、お姫さまに見そめられます。そこで王様が、悪魔から三本の金髪をとってきたら姫と結婚させようという。きこりは悪魔の所にでかける。後はだいたい同じ筋書きです。

予言、子捨て、水車小屋、ウリアの手紙(こちら⇒)という2版の前半がないのね。
予言で一本筋が通るっていう大事な要素が、初版にはない。
フィーマンおばさんに出会ってくれてよかったψ(`∇´)ψ
出会いってふしぎやね。

この主人公も、人や出来事と出会って行くわけだけど、みな状況の一致だから、聞いてると、主人公の意思とか性格とかとはまったく関係ない。偶然としか感じられない。
ところが、ラストだけは違うのね。
主人公は考えた。この状況の一致をうまく使おうって(笑)
王をだまして、厄介払いするのです。
ハッピーエンド、予言は完璧。スキっとします。

ちなみに、初版では、王がだまされて地獄の渡し守になるというモティーフはありません。
王は、悪魔の三本の金髪を持ち帰った主人公と姫を結婚させて、めでたしめでたしで終わります。
王は主人公の命をねらわなかったのですから、報復もないのです。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「三本の金髪を持った悪魔」

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今日のレパートリーの解凍
「ボタンインコ」『天国を出ていく』ファージョン作/石井桃子訳/岩波少年文庫

おはなし会雑感

そろそろ全国で学校が再開され、おそるおそる学校生活が始まっています。
去年度の学年末から積み残された学習内容をどのように消化していくか、先生方は必死の思いで対処されていることでしょう。
今年度から、英語とプログラミングの新しい学習も始まっています。
それに加えて、感染を予防するための具体的な作業と子どもたちへの生活指導があります。

今まで学習目標のひとつであった、ボランティアによるおはなし会は、優先順位としてはどのあたりにあるのでしょうか。
おそらく、今年度は授業のおはなし会のお声はかからないだろう、来年度も無理かもしれないと想像しています。

図書館は来月あたりから開館されます。
不特定多数の訪れる公共図書館では、感染予防の対策が徹底されなくてはなりません。
おはなしの部屋のおはなし会は、三密の典型です。
こちらのおはなし会も、長い目でかしこく再開の日を待たねばなりません。

これらの待つ日々は、語り手にとって長いのか短いのか。
個人にとってはどうであれ、人類が物語を紡ぎ始めてから、伝え続けてきた何万年の歳月を思うと、ほんの一瞬です。
わたしたち語り手は、口承の文化の最先端にいます。
この一瞬の休止ののち、復活させるのは、わたしたちです。

しかも、この休止は、公教育の場に限りです。
語りの本来の場、私的な場はいつまでも休むことなく続いています。
思わぬステイホームの時期に、見えてきたことがあると思います。
ただ待つのではなく、語りについて考え、学ぶ時間をもらったと、思います。
すでに一歩を踏み出している人もいるようです。

今はさかべっとうの浄土にいるのです。

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今日のレパートリーの解凍
「世界で一番やかましい音」『おはなしのろうそく10』東京子ども図書館