『昔話の本質ーむかしむかしあるところに』マックス・リュティ著 報告
「いばら姫」ー昔話の意味と外形 つづき
前々回はテーマ、前回は材料について考えましたね。
今日は、文章についてです。
グリム兄弟が、死と復活というテーマを、世界のあらゆるものを材料に使って、どのように表現したかを考えるのが今日の目標。
グリム兄弟は、口伝えの資料をそのまま本に載せたのではなく、再話して本にしました。彼らの文学的センスをもとに再話したのです。
リュティ氏は、「発端」と「眠りから目覚め」の2か所を例に挙げて説明しています。
「発端」
きのう見た所ですね。冒頭から15歳になるまでの部分。
リュティ氏は、この部分を予言のモチーフでみたされているといいます。
*蛙が娘の誕生を予言する。
*占い女たちが、この子に、徳、美しさ、富などを予言する。
*13番目の女が、姫は15歳になったら死ぬと予言する。
聞き手はここで、はっと息をのみます。
*12番目の女が死の予言を百年の眠りに変える。
聞き手の緊張は和らぐけれども、すぐに、この予言は果たして実現されるのだろうか、実現されるとすればどういう具合に行われるだろうかと疑問が生まれる。
まことに劇的な発端です。
「眠りから目覚め」
姫がつむを刺して百年の眠りに落ちるとき、城のあらゆるものが眠りに落ちます。とても印象的な場面です。
また、姫が目を覚ますとき、全てのものが目を覚まします。この愉快な場面はいつまでも心に残ります。
(子どもたちに語ると、必ず、小僧をひっぱたこうとして手を振り上げる動作をする子がいます。その子たちは、たいてい目をつむっています)
この部分をエーレンベルク稿と七版で比較してみましょう。
エーレンベルク稿は、グリムが口伝えを聞き取ったときのメモ書きです。
エーレンベルク稿
「その瞬間に、王さまと宮廷の人たちも、みなもどってきて、城の中では、あらゆるものが眠りはじめました。壁のハエも眠りはじめたのです。」
七版
「ちょうどその時帰ってきた王さまとお妃も、おつきの人たちとともに眠りました。庭の馬も眠ったし、ブチの猟犬も眠りました。屋根の上の鳩も、壁の蠅も眠りました。台所でメラメラ燃えていた火もしずまり眠りこみました。焼肉はじゅうじゅういうのをやめ、料理人は何か失敗をした小僧をひっぱたこうとして手を振り上げたまま眠りました。お手伝いさんは羽をむしっていた黒い鶏を前に置いたまま眠りました。風も止まり、城の前の木々の葉も眠りました。あたりは静まりかえりました。」
ね、こんなに長くなってるんですよ。
壁のハエが眠ったことを、グリム兄弟は面白いと思ったのでしょう。想像を膨らませたのです。おかげて私たちは、城の中のあらゆる場所を見ることができます。
王子が城に入っていくところはこんなふうです。
エーレンベルク稿
「王子さまは、お城の中へ入っていくと、(その眠っている王女にキスをしました。すると、みんな、眠りから目を覚ましました。)」
七版
「王子は城の中へ入っていきました。庭では馬が眠っており、ブチの猟犬も眠っていました。屋根の上では鳩が小さな頭を羽の下に突っ込んで眠っています。建物の中へ入っていくと、蠅が壁で眠っていました。台所では、料理人が手を振り上げたまま眠っています。お手伝いさんは、黒い鶏を前に置いたまま眠っていました。王子はどんどん奥へ入っていきました。見ると、おつきの人たちがみな横になって眠っています。玉座では、王さまとお妃が眠っていました。」
王子が姫を見つけてキスをするところも、七版ではたいへん劇的になっています。
つぎは目覚める場面。
エーレンベルク稿
「すると、みんな、眠りから目を覚ましました。」
七版
「王様とお妃も目を覚ましました。おつきの人たちもみな目を覚まし、びっくりしてお互いに顔を見合わせました。庭の馬は立ち上がって身震いをしました。ブチの猟犬はとびあがってしっぽを振りました。屋根の上の鳩は小さな頭を羽の下から持ち上げ、辺りを見回して野原へ飛んでいきました。壁の蠅はまた動き出しました。台所では火が燃え上がり食べ物を煮始めました。焼肉はじゅうじゅう言い始めました。料理人は手を振り下ろして、小僧のほっぺたに一発食らわせました。小僧は大声をあげて泣きました。お手伝いさんは黒い鶏の羽をむしり終えました。」
この目覚めの場面、おもしろいですよね。
昔話は、本来、描写はしないでストーリーのみで進行しますね。
エーレンベルク稿ではそうでした。
ところが、グリム兄弟は、「いばら姫」のこの「眠りから目覚め」の部分で情景描写を入れたのです。
この部分、リュティ氏は、こう説明しています。
生命が静止し突然また動き出す様を、いかにも面白おかしく描いて見せるが、まるで機械仕掛けのおもちゃが止まってしまったので、ぜんまいを巻いたらまたとことこ動き出したような感じがする。
そして、こう言います。
ふたりの愛はあたりの滑稽などたばた騒ぎにかくれて人知れず清らかに進行する。
まあ~、なんて素敵な解釈でしょヽ(✿゚▽゚)ノ
そして、この描写分は、グリム兄弟が思い切りふざけた部分で、あとは、またすぐに、口承本来の簡素な形に戻しているから、よしとしようとリュティ氏は、いっています。
はい、今日はここでおしまい。
次回はイタリアとフランスの「いばら姫」を読みます。
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今日は月曜、HP更新の日です。
《外国の昔話》を更新しました。
モンゴルの怪談話「知らない旅人」
子どもは恐い話が大好きですね。
でも、恐い話は、信頼する人から、安心できる環境で聞くから面白いんですね。
だから、おはなしひろばにはUPしません。
みなさん、覚えて語ってください(^∀^●)
来週からしばらく、HP更新は、夏に向けての恐い話特集をします。
お楽しみに~