「グリム童話よもやま」カテゴリーアーカイブ

グリム童話「三本の金髪を持った悪魔」🧛‍♂️

KHM29「三本の金髪を持った悪魔」

この話は、5年生の1学期に語ることが多い話です。
「かも取り権兵衛」とセットにして、わくわくするいいプログラム。へへ、自画自賛(*^▽^*)

最初に占い師の予言が出てくる。
昔話では、予言は必ず実現されるって決まりがありましたね。こちら⇒
この長い話全体が、予言が実現するという目的に向かって、ひたすら進んでいく。
最終目的が明確で、その目的にとって障害になる出来事が次々に現れ、次々に解決していくため、聞く者の集中がとぎれないのです。

出来事は、状況の一致(こちら⇒)によって、鎖のようにつながっていきます。

例1
幸運の皮をかぶった男の子が生まれ、14歳になったら王の娘と結婚するだろうと予言される。
ちょうどそのとき、その村に、王本人がやってきて予言を聞く。
え~っ、ありえへんよね~という設定。

例2
男の子が助けられて暮らしている水車小屋に、王が訪れる。その時、男の子は14歳。
なんで、そんなうまいこと・・・?

あとの例は自分で見つけてください。めっちゃ簡単やからo(*^@^*)o

長いからと躊躇しているあなた、大丈夫です。覚えやすい。子どもも大変よく聞きます。

ところで、書誌的に言うと、初版から入っていて、そののち、例のフィーマンおばさんとの出会いがあって、2版では、フィーマンおばさんの語りに置き替えられています。
初版は、カッセルのアマーリエ・ハッセンプフルークさんから聞いた話。
こちらは、主人公が美しいきこりで、お城の前で木をきっていると、お姫さまに見そめられます。そこで王様が、悪魔から三本の金髪をとってきたら姫と結婚させようという。きこりは悪魔の所にでかける。後はだいたい同じ筋書きです。

予言、子捨て、水車小屋、ウリアの手紙(こちら⇒)という2版の前半がないのね。
予言で一本筋が通るっていう大事な要素が、初版にはない。
フィーマンおばさんに出会ってくれてよかったψ(`∇´)ψ
出会いってふしぎやね。

この主人公も、人や出来事と出会って行くわけだけど、みな状況の一致だから、聞いてると、主人公の意思とか性格とかとはまったく関係ない。偶然としか感じられない。
ところが、ラストだけは違うのね。
主人公は考えた。この状況の一致をうまく使おうって(笑)
王をだまして、厄介払いするのです。
ハッピーエンド、予言は完璧。スキっとします。

ちなみに、初版では、王がだまされて地獄の渡し守になるというモティーフはありません。
王は、悪魔の三本の金髪を持ち帰った主人公と姫を結婚させて、めでたしめでたしで終わります。
王は主人公の命をねらわなかったのですから、報復もないのです。

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「三本の金髪を持った悪魔」

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今日のレパートリーの解凍
「ボタンインコ」『天国を出ていく』ファージョン作/石井桃子訳/岩波少年文庫

グリム童話「三枚の鳥の羽」🐸

え~!また蛙と結婚する話~って?
ほんまやね。
ロシア、フランス、ときて、今日はドイツ(笑)

KHM63「三枚の鳥の羽」
第2版から、フィーマンおばさんの語りで収録されています。
前に書いたように、グリムさんは、彼女の語りが好きだったので、言葉を7版まで変えていません。
でも、おもしろかったのは、グリムさん、フィーマンおばさんのを聞く前に、集めていた話があったのです。
紹介しますね。

エーレンベルク稿 3話
13番「おろか者」
主人公ハンスは、まぬけだったので、父王から広い世間に追い出される。
海岸で醜いヒキガエルに出会って、「私を抱いて水の中に沈みなさい」と言われる。
2回拒否して3回目、ヒキガエルを抱いて水に飛び込むと、海の底の美しいお城につく。
ヒキガエルは「私と相撲を取りなさい」と言う。
相撲を取ると、ヒキガエルは美しい娘になって、お城は海から地上に出る。
ハンスは娘を連れて帰り、王国を継ぐ。
15番「おろか者」
王と三人の息子。リンゴを投げて、一番遠くまで飛んだ者に国を継がせると言う。
まぬけな末の息子のリンゴが一番遠くへ飛ぶ。が、王は約束を破って、「20かご分の亜麻布をクルミの殻に入れて持ってきた者に国を継がせる」と言う。
長男はマレーシアへ、次男はシュレージアへ、末の息子は森の中へ。末の息子が亜麻布の入ったクルミを持ち帰る。
王は、さらに課題を出す。王の結婚指輪をくぐって飛ぶことのできる犬を連れてくること。針の穴を通る、より糸を三本持ってくること。最も美しい王女を捜してくること。
(以下無し!途中で途切れているの。残念)
17番「三人の王子」
王と三人の息子。いちばん上等の麻布を持ち帰った者に国を継がせるといって、三枚の鳥の羽を吹いて飛ばす。
おろか者の末の王子の羽は、近くの石の上に落ちる。石の下に降りていくと美しい部屋があって、ひとりの娘が糸を紡いでいる。王子は娘から麻布をもらう。
兄たちが腹を立てて、二つ目の課題を迫る。最も美しいじゅうたんを持ち帰った者に国を譲ること。
末の王子は、石の下の娘からじゅうたんをもらう。
三つ目の課題。最も美しい妻を連れ帰ること。
末の王子は、石の下の娘の所に行く。娘は「金の小部屋に美しい女性がいる」と教えてくれる。行ってみると、それは女性ではなくて醜い蛙だった。蛙は自分を水の中に落とせという。王子は勇気を出して、蛙を抱き上げ水の中に落とす。そのとたん、この世で一番美しい女性に変身する。
四つ目の課題。大広間の真ん中の輪まで飛びあがることができた娘の夫を次の王にする。兄さんたちの妻は失敗し、末の王子の娘は成功する。

17番が、2版以降と一番似ているかな。

初版
64番「ぼけなすの話」
ここに以下の4話が入れてある。
1「白い鳩」2「蜜蜂の女王」3「三枚の鳥の羽」4「金のがちょう」(2版以降では、1は消えてしまいます。)
エーレンベルク稿のうちのおろかな王子の話を4話、ひとつのグループにしてあるわけです。
これは、テーマを考えるヒントになる。
ちなみに、3「三枚の鳥の羽」の内容は、エーレンベルク稿の17番とほとんど同じです。

愚か者

主人公の呼び名は、翻訳によって「愚か王子」とか「ばかさま」とか。
そのせいでこの話が語りづらいという苦情(?)をきいていました。差別的ではないかと。
「おろか」をとって「王子」としてもよいのではないか?という意見もありました。
でも、正直言って、よくわからなかったんです。
ところが自分が語ってみると、それほど気になりませんでした。
ストーリーからは、王子がおろかであることは分かりません。「おろか」と名付けてあるから、愚かなんだとわかるだけです。

ところで、幼い子どもは、多かれ少なかれ、自分が弱くて愚かな存在であると感じていると思います。
親や先生や兄姉から、日々感じさせられている。
それはだめなことではない。社会的な事実ですから。
愚か王子は、愚かなことをしているわけではないけれど兄さんたちから軽んじられていますね。子どもの生活感と同じだと思います。

けれども、ラストで、愚か王子は、兄を超えて父親に認められ、王位を約束されるのです。

主人公が、末っ子で愚か者であることは、昔話の孤立性の表れです。
孤立した主人公は、周りの環境から孤立しているがゆえに、孤立した彼岸の援助者と結びつくことができる。⇒普遍的結合の可能性
そして、昔話は、一番弱くて小さい者が様々な課題を乗り越えて成長する姿を描いています。そういう力学がある。

人は、だれでも、自分の問題を自分で解決しながら生きていかねばならない。
その勇気を、昔話は子どもに授けているのだと思います。
愚かかもしれないけど、きっとうまくいくよって。

だから、やはり「愚か王子」「ばかさま」でなければならないのです。

地下の世界

選ばれし愚か者は、地下の世界に導かれます。
地下は、海底や天上と同じく彼岸です。
心理学的に言えば無意識の世界ですね。
そこで宝を手に入れます。

蛙は彼岸者であり、二つの世界を結ぶものでもあります。
ドイツの民間信仰では、蛙は誕生や再生のシンボルでもあるそうです。
「いばらひめ」の冒頭で、お妃に王女が生まれるだろうと予言するのは、蛙ですね。(初版ではザリガニですが、グリムさんが象徴的な意味を考えて変えたんですね)
「三枚の鳥の羽」では、蛙は、でぶでぶに太った醜いものとして扱われています。「蛙の王さま」の蛙も水の中から醜い頭を突き出します。
どちらも極端で孤立的な語り方です。

話型は、ATU402「動物の花嫁」
ロシアの「蛙の王女」の前半、フランスの「プチ・ジャンとかえる」の類話です。


『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「三枚の鳥の羽」

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今日のレパートリーの解凍
「はんてんをなくしたヒョウ」『おおきいゾウとちいさいゾウ』アニタ・ヒューエット作/大日本図書

おもちホイコラショ📕

きのうの「いばらひめ」の語法、いかがでしたか?
勉強会に比べて、どの説明も短かったでしょ。
緑字とか太字のキーワードは、カリキュラムに戻れば、詳しい説明があります。分かりにくい時はそっちへ飛んでください。
カリキュラムでさがすのが面倒なら、「検索」をかけてください。内容がかなり広がるはずです。

そうね、ざっと読むんじゃなくて、机に座ってじっくり調べながら読むといいと思います。

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今日のレパートリーの解凍
「いぬとにわとり」石井桃子作
手書きで、出典が不明。いまは『おはなしのろうそく31』に入ってます。
1987年だから、おはなしを始めた年に覚えてるわ。当時は出典なんて意識なかったんやねえ。
調べたら、1968年に福音館から絵本で出ていました。でも、私が見たのは絵本ではなかった +_+
もうずいぶん長いこと語っていません。
創作なので、言葉をきっちり戻そうと思ったら、7回やって、まだ駄目でした。
おばあさんの「これ、おまえ、にわとりになにかしたのかね」と「おまえ、いったい、にわとりになにをしたのさ」と「こら、おまえ、なにをしたんだよ」が、言い分けられない~(笑)
あしたもがんばります。
図書館は6月2日開館予定だけど、おはなし会はまだ始まりません。始まったら、「いぬとにわとり」やろうっと!

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おっと、忘れてはいけない。
新刊『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』
でましたあ!
みなさま、読んでください、語ってください(/≧▽≦)/
子どもさんに読んでもらってください(/≧▽≦)/

書籍案内へどうぞ (o゚v゚)ノ

グリム童話「いばらひめ」🌹

いばらひめは大好きなお話。
《昔話の語法》に一話丸ごと解説したので、読んでみてください。
「各話による説明」のところです。こちら⇒

いつもは2時間ほど講義でやるのですが、耳で聞く場合はとちゅうで「?」って思って考えていると、先へ先へと行ってしまいますね。
書いたものを読むと、見直せるから、講義よりも効率がいいかもしれないなと思いました。
うん、この方法、いいかも。
あ、受講料をいただけないと困るか、ジミーさん q(≧▽≦q)
語りの森は火の車(笑)

今日のレパートリーの解凍
「ながいなのむすこ」『にほんご』福音館書店
これは、ずいぶん昔に覚えて、当初はガンガンやってた話。
それがいつのころからか語らなくなって、お蔵入りしてたのを、久々に出してきました。
これは歌のようなもんなので、3回でもどりました。

ラスト「息子を引き上げたが、その時にはもうおぼれて死んでしまっていたとさ」
自分が親世代だったときは気にならないで、子どもと一緒に笑ってたんだけど。
いま、おばあちゃん世代になってみると、なんだか切ないなあって思ってしまった。
せっかく解凍したけど、もう一度冷凍しよっかな(‾◡◝)

グリム童話「金の鳥」🦊

「鉄のハンス」が、し~んとして聞く話なら、「金の鳥」は、笑いやため息や悲鳴があがる話o(*^@^*)o

これも高学年に語ります。
高学年になると、だいたいどんな話でもあまり反応を見せない、静かに聞くんだけど、「金の鳥」はけっこう反応します。

KHM57「金の鳥」
再話比較勉強会やら昔話の語法勉強会で取り上げましたが、もういちど読んでみてください。
子どもを励まし、大人には子どもに対してどうあるべきか忠告してくれます。

ストーリーをまわすのは、きつね。
トリックスター(こちら⇒)です。同時に彼岸からの援助者ですね。
普通、昔話の中で、援助者は一回きりしか出てこない。用事がすめば即消えるんだけど、このきつねは、何度も援助に現れる。それが、聞き手の子どもの笑いを誘うのね。

主人公の末の王子は、とっても好感を持てる心優しい子なんだけど、とにかくつぎつぎ失敗するの。そのたびにきつねが現れて、「あなたは、いくら私が言ってもだめですねえ」とかいいながら、今度はこうしなさいってアドヴァイスしてくれます。
聞き手は、「あ、またしっぱいするぞ」「ほらやっぱり」「あ、またきつねや」の繰り返しを愉しむ。語っていても楽しいです。

なぜ失敗するのか、この話では、その原因が大事なのです。
価値観の問題。

最初にきつねに出会ったとき、二人の兄のように鉄砲で撃とうとはしなかった。
優しさ。
人間にとって、最も大切な基本的なものを彼は持っていました。

1回目の失敗
きつねは、金の鳥を粗末な鳥かごから金の鳥かごに移し替えてはいけないと助言する。
ところが王子は、金の鳥には金の鳥かごこそふさわしいと考える。
自分の価値観をもとに考えるのね。それで、失敗する。

2回目の失敗
きつねは、金の馬には金の鞍を載せてはいけないと助言する。
ところが王子は、金の馬には金の鞍こそふさわしいと考える。
失敗。

3回目の失敗
きつねは、王女が両親に別れを告げることを許してはならないと助言します。
王子は、王女がかわいそうになって、許してしまう。
失敗。
子どもたちは、ここでまた失敗するぞと予想します。ふつう、昔話なら3回目は成功するはずなんだけど、王子が優しいことを知っているので、失敗するだろうと。予想しててもやっぱり、あ~あとがっかりします。
それでも、きつねが何とかしてくれると思っているので、一夜のうちに山をどけたときには、おお~っと、感動します。
子どもたち、もうすっかり主人公になっていますねq(≧▽≦q)

4回目の失敗
首吊り台の肉を買うなと助言されていたのに、買っちゃった。めっちゃがっかりです。
王子が二人の兄さんを助けるからです。
たとえぐうたら兄さんでも、王子の優しさが、ふたりを放っておけなかったのです。
案の定、兄さんたちに陥れられて、井戸の底に落ちます。井戸のへりに腰を下ろしてはいけないと助言されていたのに。がっかりです。
でも、きつねが現れる。もう笑うしかありません。

大成功
王女は、王子が汚い服を着ていても、すぐに王子だと気が付いて抱きしめます。
これは、1回目2回目の失敗の原因となった価値観の転換です。
見た目ではなく中身が本物であればいいのです。

自立
王になった主人公は、きつねに懇願されて、きつねを殺します。
3回目4回目の失敗の原因となった価値観の転換です。
人間、本当の優しさは、情にほだされることではない。

わくわくしながら聞いていた子どもたちは、主人公とともに、この二つの価値観の転換を経験します。
いや、あとになって気づくのかもしれないけど。
ね、すごい話でしょ。

去年5年生に語り終えたとき、担任の先生がみんなの前で「私も、あんなきつねが欲しい」とおっしゃった。子どもたちも、うんうんとうなずいていました。
でも、ヤンは、思わず笑ってしまいました。
いやいや、先生。あなたが子どもたちのためにきつねにならなくっちゃ。

子どもが自分で考えて行動するとき、アドヴァイスはしても強制せずに一人でやらせる。
それで失敗しても、あきらめない。
これ、子育ての極意です。

1810年に、ヴィルヘルムがマールブルクの養老院のおばあさんから聞いた話。初版から入っています。
2版で、フィーマンおばさんの語りと混交しています。

ATU550「鳥と馬と姫」
類話は多いんだけど、ATU551「命の水」ととってもよく似ていて、両者を分けることができないんだって。
ヤンは何年か前、「金の鳥」と「命の水」を一日おきに語らされてまいった(笑)

『オットーウベローデグリム童話全挿絵集』古今社より「金の鳥」

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今日のレパートリーの解凍「かきねの戸」『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』