月別アーカイブ: 2021年9月

9月の中級クラス

前回の7月は、久しぶりに対面の勉強会でしたが、8月末から始まった緊急事態宣言のために9月はまたしてもオンラインでの勉強会になりました。
メニューは以下の通りです。

「パティルの水牛」 語りの森HP → こちら
「たにし息子」 語りの森HP → こちら
「ブレーメンの音楽隊」『語りの森昔話集4おもちホイコラショ』語りの森
「手なし娘」『子どもに語る日本の昔話3』こぐま社
ヤンさんの語り
「カメの笛」『ブラジルのむかしばなし1』カメの笛の会編 東京子ども図書館

今回の語りの中にあった「手なし娘」は、日本中に類話があり、世界中にも類話があります。
このように類話がたくさんある場合、初めて読んだテキストや、初めて聞いた語りが素敵で自分もやりたいと思ったとき、その最初の一つだけに注目せずに他の類話やテキストをあたってみるのが良いということでした。
比べる途中で、自分にとってもっと魅力的な「手なし娘」が見つかるかもしれませんし、より良いテキストに出会えるかもしれません。
そのためにいろんな類話を読むのはそれ自体も勉強になります。
「手なし娘」の重要なモチーフ〝ウリアの手紙〟についての説明はHPの昔話雑学にあります → こちら

それともう一つ印象的だったのは、素敵な語りを聞いたときに「自分もあの人のように語りたい」とお目々キラキラで感激したとしても「しばし待て!」と言われたことです。
しばし待って、ちょっと考えてみろというその理由は、「あの人のように語りたいと思った時点で、あの人の語りを超えることはできない」からです。
まったくもって、そのとおりかもしれません。
過去を振り返ってみると、わたしは心を打たれた語りを聞いたときは、決してその話に手を出せませんでした。
挫折することがわかっていたんでしょうね(笑)
ですから、「自分は自分の語りをしよう!!!」が正解だと今日教わって、「おおお~~~☆☆☆!」と思うとともに、これなら(目標低く自分なりに)できそうだと思ったのでした。
確かに、本日聞いた5話の中にひとつ、わたしはこの話は語れないと思う語りがありました。
それは、自分は主人公の素直さや素朴さがとうてい今日の語り手さんのようには出せないと分かってしまったからです。
魔女や山姥なら何とかなりそうですが、素直さなんてどうやって出せばいいのか全く分かりません。
もちろんどんな話も素直に語ってるつもりですが、話によってはそれとは別に、にじみ出る語り手さんの素直さが話の内容に絶妙にあらわれていて聞き手の心に直撃するものなんですね。
そういう語りを聞いてしまって、「ああ、無理無理、絶対ムリ~~」とあっさり諦めました(笑)
ということで、本日のだいじな言葉は、「自分は自分の語りをする!」です(`・ω・´)ゞ

来月は、対面で勉強会ができるかもしれませんね。
そうなることを願っています。

ふたりの兄弟🤴🤴

お彼岸ですね。
手作りおはぎをどうぞ~

きょうはグリム童話を取り上げます。
『昔話の本質と解釈』に、竜退治の話として、なんどもでてくる「ふたりの兄弟」
長いからあんまり読まれることも聞かれることもないと思うんですが、壮大なファンタジーです。とっても面白いし、たいじなモティーフがたくさん出てきます。

きょうのおはなしひろばにUPしたので、聞いてください。
50分かかりますので、覚悟して(笑)
これでも、ページ数にしたら半分に縮小したんですよ~
動物たちの言葉のやり取りなど、笑い話的なところは、涙を呑んでカットしました。ぜひ、元の物を読んでみてくださいね。
でも、大事なモティーフは欠かしていませんよ~o(*°▽°*)o
こちら⇒《おはなしひろば》「ふたりの兄弟」

グリム童話KHM60。「二人兄弟」とも表記されます。
第2版から童話集に入ったそうです。
類話が多く、世界じゅうに古くからあったそうです。伝説や神話にもあります。

発端の、金の鳥の心臓と肝臓を食べると、朝起きたとき、枕の下に金貨があるというモティーフ。好きなんですよ~。じつは朝鬱なので(笑)
これを中心にした、独立した話型にもなっています。
ATU567「魔法の鳥の心臓」。

ストーリーの中心になるのは、竜退治の部分。
ATU300「竜退治」として、たくさんの類話を持つ話型です。
日本でも神話「やまたのおろち」(こちら⇒)や昔話「猿神退治」(「しんぺいとうざ」)があります。

兄弟が分かれ道で木の幹に突き刺しておくナイフ、あのモティーフもおもしろいですね。主人公の安否を知らせるので、「生命の標識」といいます。
生命の標識は、刀だけでなく、鏡や水、木などがあります。古くはエジプトの「二人兄弟」の類話に出てきますよ。紀元前1200年ごろです(★‿★)

それから、「貞節をあらわす抜き身の剣」のモティーフも、古い。
兄が、夜にベッドで、弟のお妃との間に剣を置きますね。あれです。

うさぎが取って来る「命の水」も魅力的ですね。
どんな病気でも傷でもたちどころに治す命の水。
主人公を援助する5匹の動物のうちで、もっとも小さくて弱いうさぎが、決定的な力を持っています。

あれやこれやのモティーフが豊かに組み合わさって、「ふたりの兄弟」は、ATU303「双子または血を分けた兄弟」という話型になっています。

『オットー・ウベローデグリム童話全挿絵集』古今舎刊から、「ふたりの兄弟」の挿絵を貼っておきます。
どの場面か分かりますか~?

 

 

昔話の解釈ー昔話に登場する人と物4🦄

マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第7章 昔話に登場する人と物 つづき

前回は昔話に出てくる竜についてでしたね。
悪者の竜は、美しいお姫さまの内部にも存在する。
この竜は、悪の原型で、戦うよりほかに仕方がない存在です。竜は討たれ、ほろぼされます。
創作ファンタジーに登場する竜とはちょっと違いますね。

きょうは、昔話に登場する「野獣」についてです。
野獣は、竜のように悪の権化ではありません。救いようがないほど悪いわけでもないし、全ての野獣がほろぼされるわけではありません。野獣は変わるかもしれないからです。

どんな時に変わるかというと、人間が撃ち殺さずに命を助けた時です。そんなときは、野獣は、人間を脅かすどころか、人間を助ける者になります。

例)グリム童話「ふたりの兄弟」
主人公の双子の兄弟が、深い森の中で食べる物が無くなってしまいます。そこで、ふたりは、狩りをしようとします。
まず、うさぎが跳ねてきます。
ふたりが、うさぎを打ち殺そうとすると、うさぎは言います。

狩人さん、命を助けてくださいな
子どもを二羽さしあげますから。

ふたりは、2羽のうさぎを連れて旅を続けます。すると、今度はきつねがあらわれて、同じことが起こります。このあと、狩人は、おおかみ、くま、ライオンを助けてその子をそれぞれ2頭ずつもらいます。そののち、この動物の子どもたちが、手となり足となって、ふたりの運命をささえるのです。

また、主人公は、野獣の命を取らないだけでなく、野獣を助けてやります。

例)「まほうの鏡」こちら⇒《外国の昔話》・「心臓がからだの中にない巨人」おはなしのろうそく

ワシのひなをヘビから救った狩人は、わしの羽を一本もらう。
こまったときにその羽を燃やせば、すぐにワシが飛んできて狩人を助ける。

これらの話から、リュティさんはこう言います。
悪の変身、つまり、正しく振る舞えば敵が味方になる。破壊的な力は滅ぼされるには及ばない。人を助ける力に作り変えられることがある。そういう知恵も昔話の登場人物の中に生きている。

これって、人生を生き抜くうえで大事なことですね。
しかも、昔話はそれを、机上の空論っていうか抽象的な概念で表現するのでなくて、野獣やら猟師やら羽やらを使って物語るのです。
だから、大切な知恵が、具体的な形をとって初めて子供たちに届くのです。
リュティさんは、次のようにも言います。

そういう本質直観は具体的な事物を通してはじめて子どもの感情と体験の中へしみとおっていくことができる。

でね、変わる野獣だけじゃなくて、最後まで悪者の野獣の場合でも、昔話の中でそんな危険なものと出会ったら、子どもは、そういう危険な暴力との対決を避けてはならないことを、はっきり感じ取っていると、いいます。

リュティは、ここで、心理学者の話を紹介します。赤ずきんの話を聞いた2歳半の女の子の話です。
あまりに恐がるものだから、親が、おおかみの絵を燃やして、悪いおおかみは死んじゃったって慰めます。そして、おおかみなんて遠いロシアにしかいないって教えます。しばらくして、女の子は、父親と公園に出かけることになります。母親が、気を使って、「これから森のうさちゃんの所へ行くのよ」といいます。女の子は、とちゅうで、出会った人にこういいます。「これから、森のロシアのおおかみさんの所に行くの」

父親といっしょなら、単純で危険のない野兎に会うより、心をゆるがすような体験を求めるだけの心の準備がこの子にはできている。

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きょうは、十五夜ですよ~中秋の名月!
昨日も一昨日もきれいなお月さまでしたね。
お月さまの右のほうに明るく光っているのは木星だよん。
今夜も晴れるかな?

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きのうの更新は《外国の昔話》「食いほうだいに食ったねこ」
語ってくださいね~

 

 

オンライン日常語入門講座

9月から全5回でオンラインで「日常語による語り入門講座」が始まりました。
5回のカリキュラムは以下の通りです。

第1回目は、初めて顔を合わせる方もおられるので簡単な自己紹介から始まりました。
今回の参加者は5人で、まず伝承の語りについて勉強しました。
事前にヤンさんから送ってもらって伝承の語りを宿題でみんな聞いていました
いろいろな地方の言葉で語られる昔話を聞いたうえで、現在わたしたちが昔話を語るという行為をするのに至った歴史を勉強しました
その二つのあいだで何が起こって何が違うのか、言葉が違う以外に何がどう違うのかを勉強し、そのうえでこれからやろうとしている日常語による語りとは何か、日常語とはどう定義したらいいのかを勉強しました。

宿題は、『ノート式おはなし講座』の語りノートの☆13自分のことばの履歴をやってくること。
次回はその発表をみなさんにやってもらいます。
最初の関門と言いますか結構悩むところですね。
ふだんなにげなく言葉をしゃべっているから、宿題だからと「あなたはいつ誰に影響を受けて今のことばになったのか?」と聞かれましても、そんなこと考えていませんからね、普通は(笑)
そして、その今しゃべっている言葉を自分が昔話を語るときの言葉と決めるのか、それとは違う思い入れのある言葉(例えば親が使っていた言葉とか)に決めるのか、日常語のテキストを作るために決めないといけません。
一か月のあいだにみなさんどんなふうに考えてこられるのかなあ。
どうかがんばってください。
楽しみにしています(^_^)

昔話の解釈ー昔話に登場する人と物3🦄

マックス・リュティ『昔話の本質』報告
第7章昔話に登場する人と物 つづき

昔話の主人公は美しい、ということでしたね。覚えていますか?
魔法昔話で有名なのが竜退治の話ですが、竜にさらわれるお姫さまは最高に美しいんですね。

竜とお姫さまの組み合わせは、昔話だけでなく、神話でもなじみ深いものです。
ギリシャ神話のペルセウスとアンドロメダがあげられています。
ギリシャの英雄ペルセウスは、メドゥーサ(見る物を石にする怪物)の首を切って帰る途中、怪物のいけにえに定められていたアンドロメダを助けて結婚します。
この怪物は、海獣ティアマトで、竜ではありませんけれどね。

さて、その美しさについてですが、もっとも美しいもの、もっとも高いもの、もっとも貴いものは、偶然おびやかされるのではなくて、本来おびやかされる運命にあると、リュティさんは言います。
しかも、外からだけでなく、内からもおびやかされるんだというのです。たとえば、お姫さまの体中に蛇がすんでいたりするのですね。

例として、ロシアの昔話「皇帝の息子シーラとその不思議な援助者白いシャツのイワシカ」が紹介されています。

王さまの娘が、頭が六つある竜とねんごろになっているんだけど、王子シーラはそのお姫さまと結婚します。白いシャツのイワシカは、シーラに、お姫さまをむちで打つように助言します。このむち打ちが最初の清めです。
つぎに、イワシカが竜と戦って六つの頭を切り落としてやっつける。
それでもまだお姫さまは完全にのろいを解かれていないのです。
結婚して一年たつと、イワシカは、お姫さまを剣でまっぷたつにします。すると、お姫さまのお腹の中からありとあらゆるへびがはい出して来ます。それを焼き殺し、命の水でお姫さまを生き返らせます。やっとお姫さまは救われます。

「旅の仲間」(こちら⇒)のお姫さまも、トロルとねんごろになっていて、いじわるですよね。そののろいを解くためには、トロルをやっつけるだけではだめで、お姫さまをむちで打ち、ミルクのお風呂でごしごし洗ってトロルの皮をぬぐい落さなければなりません。

竜は、私たちの外部にいるばかりでなく、内部にもいる。
ほんとうに救われるためには、自分自身から解放されなくてはならないのです。

昔話はくっきりした印象を与える事物によって内面の出来事を描いているのである。昔話の聞き手は、目に見える事物を通して心の真実のすがたを理解する。昔話は、外面的な意味においてではなく、内面的な意味において真実なのである。

昔話はうそ話、ファンタジーですよね。現実そのものは伝えていません。現実は伝えていないけれども、真実は伝えているのです。

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ところで、《外国の昔話》にUPした「牛の子イワン」こちら⇒は、お姫さまの出てこない竜退治の話ですよ~

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今日のおはなしひろばは、インドネシアの昔話「山とヤマアラシ」
ねずみの婿探しのインドネシア版です。