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第2回、昔話の語法講読会レポート📖

今日から9月ですね。相変わらず暑いですが、そこはかとなく太陽の光は和らぎ、空は青く高く、肌を撫でる風はさらりと乾いてきたように感じます。秋ですね。

さて、本日は第2回目の昔話の語法講読会がありました。
今日勉強したのは、抽象的様式についてです。

西洋美術史に関する資料を見せていただき、写実的とは、抽象的とはなんぞやという頭の中にあった漠然としたイメージがはっきりしました。
(8月中、ヤンさんが美術品の写真をブログにアップしていたのともしや関係が?)

一般的な小説が写実的に書かれるのに対して、昔話は抽象的絵画と似た描き方をするそうです。
詳しい内容は本館「語りの森」の昔話の語法ページでヤンさんが詳しく説明してくださっていますし、講読会のテキスト、『昔話の語法』(小澤俊夫著 福音館書店)にも載っているので割愛しますが、これまで単発の語法の勉強会でたびたび出てきていた「昔話は固いものを好む(柔らかいものも固いように語る」や「昔話は原色を好む」「昔話は2、3、7、9、12の数字を好む」、条件の一致、時間の一致などがようやくここで出てきたなとニヤリ。
いかにもな昔話らしさを強調しているこれらと、細部を語らず輪郭をはっきりさせた登場人物や背景や道具が合わさって、一本の線に例えられたストーリー(話のすじ)をテンポよく語られる(主人公が旅をする)のが昔話なんだな、とこれまでの講読会の内容をふまえて感じました。
こういうことを分析、発見して、「美学にも通じるものがあるぞ」と論文にしたリュティ氏はすごいのですが、そんな語法に則っているとは知らずにあたりまえのように語り継いできた伝承の語り手さんはもっとすごいですよね。

次回はいよいよ孤立性と普遍的結合の可能性です。これまでの一次元性、平面性、抽象性を包括した孤立性。いままでのところも復習してきたほうが、より理解が深まるのではないでしょうか。え、そんな暇ないって?

7月 おはなし初級講座

毎日暑いですね。全国最高気温ランキングを見ると、ほぼ毎日、上位に北海道がランキングされています。
北国の夏は涼しいのだと思っていましたが意外でしたね…。
暑さもさることながら、地味に身体に堪えるのはこの高湿度。ムシムシしてやる気のエンジンがなかなかかかってくれません。
蒸されている豚まんは蒸篭の中でこんな気分なんでしょうか。ああ、食べたくなっちゃった。

さて、7月上旬、おはなし初級講座がありました。

「瓜こひめこ」『おはなしのろうそく12』(東京子ども図書館)
「だんごころころ」『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』(語りの森)
「三枚のお札」『おはなしのろうそく5』(東京子ども図書館)
「みじめおばさん」語りの森HP〈外国の昔話〉
「ねことねずみ」『おはなしのろうそく21』(東京子ども図書館)
「ホットケーキ」『おはなしのろうそく18』(東京子ども図書館)
「朝顔と朝ねぼう」『日本の昔話3』(福音館書店)
「くさった風」『日本の昔話3』(福音館書店)

来月の初級講座がお休みだからでしょうか。たくさんのエントリーがありました。

「瓜こひめこ」
この昔話にでてくる瓜ってどんな瓜だと思いますか。甘い瓜、甘くない瓜、色々な意見が出ました。
瓜を子どもに説明するのは難しいですね。普段、きゅうりなどの瓜系統の野菜を瓜という言い方しなくなりましたものね。
ちなみに講座ではマッカウリ(マクワウリ)のイメージが優勢でした。
説明といえば、「あまんじゃく(あまのじゃく)」も子どもたちに分かるのでしょうか。
その言葉を説明したいか、語り方で子どもたちに伝わるように語るか、判断は語り手に、そして聴き手との場の空気に委ねられるのではないでしょうか。

「ねことねずみ」
このお話は累積譚です。ねこに尻尾を食いちぎられたねずみが、しっぽを返してもらうために奔走します。
累積譚の語り方は2パターンあるそうです。ひとつは、聴き手と一緒に楽しむやりかたです。聴き手を誘導しながら唱え言葉のようにリズムを楽しみながら一緒に言うもの。あまりクサリが長くなると小さい子どもたちは付いていけません。
そういうお話はもう一つのやり方です。早口言葉を楽しむやり方です。語り手が必死に語るのを子どもたちが楽しんでいる様子をぜひ〈外国の昔話)にアップしている「ありとこおろぎ」の♪マークで聴いてみてください。

同じ話を二度、三度、初級講座で語ってくださるのは大歓迎です。
次の講座まで二か月ありますし冷房のかかったお部屋でじっくり本格昔話に取り掛かってみるのもいいと思います。
熱中症、熱射病になりませんよう、ご自愛くださいませ。
また9月の勉強会で皆様の元気なお姿と再会できますよう、お待ちしております。

第6回 昔話の語法勉強会レポート

こんにちは、もっちです。

第6回昔話の語法勉強会に行ってきました。
今回、どんな語法が使われているのか勉強するのはグリムの昔話から『三本の金髪を持った悪魔』(KHM29)です。

テーマ📖
「主人公は死の危険に陥るが、まさにそのことが主人公をいっそう充実した高度な生へ導く。死の危険に陥った者だけが、死の現実を知った者だけが、人間として完成するのである。」(引用『昔話の解釈』マックス・リュティ著 野村泫訳 福音館書店)

『昔話の解釈』でマックス・リュティ氏は、『三本の金髪を持った悪魔』がもっているテーマをこう説明しているそうです。

え・・・死にかけなきゃ人間として完成されないの?(;´Д`)
と驚きましたが、この主人公、まさに何度も死にかけます。
何度もです! 本当に幸運の皮をかぶって生まれて来なかったら、最初の死の危機で死んでます。でも、何度も死にかける羽目になったのは、幸運の皮をかぶって生まれてきたからなのです。もうここから状況の一致が始まっているような気がします。

さて、今回も細かくどんな語法が使われているか確認しながらの講義でしたが、そのなかで今回テーマに沿ったかたちで注目したのは、主人公の死と生の対比でした。
前述しましたが、この主人公は本当に何度も死の危機に直面します。
生まれて数日経ったところに王様が村へやってきて(状況の一致)、自分の娘と結婚する運命にあることが予言(昔話では必ず予言通りになるのです)されている男の子を大金と引き換えにもらい受け、箱に入れて川に流します。こんなのもう、溺死するか、箱の中で餓死するかのどっちかしか想像できません。耳で物語を聴いているので、その時点で「死んだな…」と思いますよね。でも即座に昔話の主人公がこんなところで死ぬわけがないと期待します。すると、箱には一滴の水も入らず(完全性)、うまいぐあいに水車小屋の小僧さんに拾われます。そして、子どものいない水車小屋の夫婦に育てられるのです。やったぁ、生きてた!

それから十三年たったころ、水車小屋に王様がやってきます(状況の一致)。そして、王様は、その若者があの予言の子だと気付きます。そして、王妃に手紙を持ってきた若者を殺せという内容の手紙を書き、それをその男の子に配達させます。え~、そんなん殺されてしまうやん!

それからさらに、森で迷い、盗賊の家に辿り着きます。その家で留守番していたおばあさんに「盗賊たちが帰ってきたら殺されてしまうよ」と言われてしまいます。ここでも危ない!と死の危険が迫っています。
でも、盗賊の親玉は、若者が持っていた手紙を読んで、「姫と結婚させよ」と書き換えてしまいます。(手紙の書き替えのモチーフのことを『ウリヤの手紙のモチーフ』というそうです)さらに、城までの道を教えてくれます。良かった、死ななかった!

そして城に手紙を届けた若者は予言通りに姫とスピード結婚します。昔話は展開が早いのです。手紙の内容を疑ったり、結納を交わしたり、平民の子と?と眉を顰められたりしません。姫も若者が美しいからという表面的な理由だけで結婚します。内面を語らないのは昔話の平面性なのです。またしても若者は死の危機を乗り越えましたよ。

そこへ王様が帰ってきて、殺したとばかり思っていた若者が、娘と結婚していたことに驚き、怒ります。
そして、姫との結婚を認めて欲しければ地獄へ行って悪魔の金の髪を三本持ち帰れと言われます。若者はその言葉によって旅に出ます。そう、昔話の主人公は内面を言葉で表現されないので、外的刺激によって旅にでるのです。

と、こんな風に死の危機と、それを乗り越える生が一対のエピソードとして組み込まれて語られます。白雪姫も同じですね。
主人公の若者は、何度も死の危機に直面して高度な生へ到達したのでしょうか。人間として完成されたのでしょうか。
少なくとも若者は、賢く生き抜く力と知恵を得、昔話のハッピーエンドの要素(富の獲得、結婚、身の安全)を全て手に入れましたよ。

どの場面とどの場面が対比になっているか、お手元のテキストで確かめてみてくださいね。

6月 おはなし初級講座

報告が遅くなりました。
6月もおはなし初級講座ありましたよ~。

語りは7つ。
「手なし娘」『子どもに語る日本の昔話③』(こぐま社)
「かも取り権兵衛」『日本の昔話②』(福音館書店)
「ツバメとアブ」『子どもに語るモンゴルの昔話』(こぐま社)
「足折れつばめ」『子どもに語る日本の昔話③(こぐま社)
「おんちょろちょろあなのぞき」『語りの森昔話集①おんちょろちょろ』(語りの森)
「ホットケーキ」『おはなしのろうそく18』(東京子ども図書館)
「かきねの戸」『語りの森昔話集①おんちょろちょろ』(語りの森)

『手なし娘』
こちらは日本の手なし娘です。
作中、「もがれた」(本当は切られた)や「問わず語り」など文学的な表現も多く、少し大きい子でなければ意味が通じないかもしれないという話題が出ました。
娘の手が生えるきっかけをくれた守り本尊はお坊さんの姿で登場するのですが、援助者は人間の姿で現れるものなのだそうです。

『かも取り権兵衛』
これは奇想天外な場面が次々と展開される笑い話ですね。空へ、屋根の上へ、地下世界へ、雲の上へと場面転換も多く、間でできているような話です。
その『間』ですが、二種類あって、場面転換でつくる間と、子どもたちとのやりとりでできる間とがあるそうです。前者は家で練習できますが、後者は子どもの前で語って初めてできる間なのだそうですよ。3年生くらいがいちばん面白がる年齢かもしれません。

『ツバメとアブ』
低学年ではメインに、高学年でもおまけにつかえる由来話のひとつです。
ツバメとアブの関係は少しアリとキリギリスのようでもありますが、考えすぎずにすんなり語った方がいいようです。

『足折れツバメ』
いわゆる隣のじい型のお話です。最初の優しいおじいさんは軽く丁寧に。強欲じいさんは、「優しいおじいさんはこうだったけど、こっちはこう」と違いを一語一語イメージできるように押さえて語るのを意識したほうがいいようです。

『おんちょろちょろあなのぞき』
これも笑い話です。子どもと遊んで間を作っていくお話なので、お経もどき部分をお経っぽく演じてもいいようです。

『ホットケーキ』
低年齢~低学年向きのお話なのにわりと長めのお話ですよね。このお話の主人公は誰ですか?
そう、ホットケーキです。ホットケーキが元気にコロコロ転がっていくように、繰り返しを歌うように楽しんで語ればいいようです。

『かきねの戸』
子どもはうんちとかおしっこが好きですね。でもこのお話の中の一番大切なところはなんでしょうか。それは、かきねの戸を外して家を出、落として幸せを掴むこと。
お母さんの思惑とは正反対、かきねの戸をはずして持っていくナンセンスがおかしく思えるのは何年生からでしょうか。

もっちは図書館でかきねの戸をやって、笑ってもらえなかったことがあって、逃げたくなりました。笑い話って本当に難しい…。

初級講座は8月はお休みです。7月、皆様の出席をお待ちしておりますよ~。

5月 おはなし初級講座

もっちです。ゴールデンウイークはいかがお過ごしでしたか?
さて、ゴールデンウイークが明けて早速、初級講座がありました。

語りは
「おいしいおかゆ」『愛蔵版おはなしのろうそく1』(東京子ども図書館)
「六ぴきのうさぎ」『語りの森昔話集1おんちょろちょろ』(語りの森)
「なぞ問答」『日本の昔話1はなさかじい』(小澤俊夫再話、福音館書店)
「旅人馬」『子どもに語る日本の昔話2』(こぐま社)
「三枚のお札」『おはなしのろうそく5』(東京子ども図書館)

の5話でした。

「おいしいおかゆ」
グリムの昔話です。短いながらもしっかりとしたおはなしで、語られているのをよく聞きますし、大概の語り手さんはレパートリーとして持っているのではないでしょうか。

とうとうおかゆのながれこんでいない家は 町であと一軒、ということになったとき、女の子が帰ってきました。
そして、たった一言、

の後に子どもたちが一緒に「ちいさなおなべや やめとくれ」と言ってくれるのを期待する語り手さんも多いかなと思います。なにを隠そうもっちも期待してました。いままで連戦連敗ですけれども。
それよりも、どうやら今ドキの幼稚園児さんたちは「おかゆ」を知らない子もいるらしいという情報が出てきて、騒然となってしまいました。
もしかしたら「おかいさん」で通じるかも?なんて内心思っていました。(関西の一部で使われる方言です)
ポイントは緩急をつけて聴き手がイメージをする言葉は大事に伝える。
「ちいさなおなべや 煮ておくれ~」は呪文を唱えるように語る、でした。

「六ぴきのうさぎ」
語りの森昔話集1おんちょろちょろからの出典です。
湖のそばに住む六ぴきのうさぎがボトンという音を聴いて逃げ、森で会った動物たちに「どうしてそんなに慌てふためいて逃げているんだ?」と聞かれて、「ボトンって声がしたんだ」と答え、森じゅうの動物が逃げだす話です。
同じ言葉が続き、不確かな情報に踊らされる様が滑稽な面白いお話。累積譚のひとつです。
ラスト、ライオンに「誰から聞いたんだ?」と聞かれ、動物たちが口々に答える場面は、ちがう動物が答えているのを意識して語りましょうということでした。

「なぞ問答」
この話型はあちこちにあるそうです。『子どもと家庭のための奈良の民話1』に載っている「おふじ井戸」も同じ話型です。
しかしこちらは衝撃のラスト!
ハッピーエンドではない終わり方で、ちょっと子どもには語れなさそうという意見多数。
しかしこういう謎かけものは一緒になって考えてしまうので楽しいですね。

「旅人馬」
前月語られた「旅人馬」とは出典が違います。モチーフも違っていて、別のお話のようです。
もうひとつ、語りの森HPの≪日本の昔話≫にも「旅人馬」がアップされています。
ぜひ解説も一緒に読み比べしてみてくださいね。
この話の中では、囲炉裏の灰にもみがらを蒔いて、一晩で芽が出て、稲穂が実って、石臼で粉に挽いてだんごにする場面や、援助者と碁を打つ場面が出てきます。今の子どもたちには稲、臼、碁が分かるかな~?という意見も出ました。
案外、昔の暮らしのことは意識して学習されられているように思いますが、もし子どもたちの表情に「?」が浮かんでいたら、一言で説明できるように用意をしておいたほうがいいかもしれませんね。

「三枚のおふだ」

これは小僧さんと鬼ばばの追いかけっこを楽しむおはなし。

雨だれ、会話、逃走、どの場面も楽しく、語り手も聞き手も気持ちが乗ってしまいます。が、叫ぶ場面は声が大きくならないように自分を抑えて語りたいですね。

と、勉強会の中で飛び出した話題を紹介したわけですが、語るシチュエーション、語る相手、語り手によって変化してしまうものですよね。誰かの語りが素晴らしく面白いからといって、同じようには語れません。だから、勉強会中に出たアドバイスが誰にでも通用するかというとそうは言えないのです。でもついメモしてしまうのですが(*´艸`*)

主役は聞き手の子どもたち。おはなしの中の登場人物の気持ちをイメージして受け止めるのもまた聞き手なのだと、そういう語りができるよう成長していきたいですね。