日別アーカイブ: 2015年2月2日

「七羽のからす」の洗礼   byヤン

「七羽のからす」は好きな話で、もう四半世紀も語っています。
これにはいろいろとエピソードがあるんですけどね。
いちばん面白かったのは、初めて文庫で語ったとき。
つぶし屋の3年のガキども4人がそのころ常連でね、その日は、その4人と妹が
1人だけ。
5人は寝っころがって聞いてたんですが、いつの間にかしーんとなって、終わっ
ても身動きしなかった。
この話の力を感じた瞬間でしたねえ。
で、つぎの週、その5人に3,4人加わっておはなし会が始まると、ガキども
が、「七羽のからす!」ってリクエストしたのです。
うれしくって、いそいそと語り始めたら、ガキども、私の先に、先にと、ストー
リーをいうのです。そのやりにくかったこと(笑)
子どもの耳の良さを知ったのもこの時でした。
もうひとつ面白かったのは、図書館で、たまたま常連の小学生女子ばかりのとき。
わたし「・・息子が7人おりましたが」
子ども「お風呂たいへんやなあ」……しみじみ
わたし「う……」
子ども「朝のトイレも」……しみじみ
わたし「昔は子どもがようけやったからなあ」……しみじみ
子ども「ふうん」
わたし「おばちゃんのおばあさんのいとこは11人兄弟やってんて」
子ども「うちのおばあちゃんは9人やってん」
まるで、おばさんの井戸端会議です。
で、気を取り直して、
わたし「ところが、おかみさんにまた子どもができることになり」
子ども「ええ〜〜〜っ!?」
ほんま、おばさんです。
それでもこの話の力はすごい。さいごまでこのムードで進んだのですが、クライ
マックスで、
わたし「バタバタと羽ばたきの音がして」
子ども「あ、最初と同じ!」
はっきりとイメージして聞いていたんですね。
先日は、キリスト教系の学校の3年生に語りました。
いつもはテキストに「洗礼というのは、お誕生の大切なお祝いのことです」って
一文を入れ込んで語っています。
不正確だけどしかたがない、こんなことろで引っかかっていては前に進めないので。
でも、この日は違った。
「洗礼」を説明する必要がなかったので、はじめから一文は入れませんでした。
彼女たちは、洗礼の厳粛さや大切さは体で知っています。だから、洗礼に使う水
を汲みに行くことの重要性をしっていて、そこからぐっと緊張感が生ま れました。
男の子たちがつぼを泉に落とした、その罪深さ。
父親の呪いの必然。
「頭の上でバタバタと羽ばたきの音が聞こえ」。これは、神に罰せられたのです。
そのようなことが、彼女たちのまなざしと息使いから、どっと押し寄せてきました。
これは初めての経験でした。わたしの「七羽のからす」にまた新たな意味が加わ
りました。
宗教的な土台は、話にとって、とても重要だと実感しました。
宗教といえば思い出すのが、中学2年のとき、担任の言ったこと。
社会科の先生だったのですが、キリスト教と仏教とイスラム教に共通することは
なにかって聞かれたんです。
そして、それは人間にとって最も大事なものでもあるって。
ばかな私は、(水かな?あ、命かな?)なんて考えたけど、分からなかった。
ひとりの男子が手を上げて答えた。
「愛です」
……ああ、先日またひとつ、大きな愛が土足で踏みにじられました……
ヤン