日別アーカイブ: 2017年3月8日

ケッテンメルヘン

昨年末、昔ばなし大学のヤンが所属している再話研究会でのこと。
あ、再話研究会ってね、いくつかのグループがあって各グループで再話してきて小澤先生に見ていただくっていう勉強会なの。
で、あるグループがインドネシアのむかしばなし「ありとこおろぎ」を再話してきてて、めっちゃうれしかった。
好きなんです、この話。

語りの森でも《外国の昔話》→こちらにヤンが再話して入れてますよね。ちっちをぽちっとすると、コメントが読めるでしょ。で、「類話はたくさんある」って書いたんだけど、これは学術的に知っていたんではなくって、資料をいっぱい読んでて気がついた、いわば感覚的に知っていただけなんですね。

小澤先生「これは、ケッテンメルヘンって言ってね」
わたし「ケ?」
小澤先生「ケッテン」
わたし「(しつこく)ケッテンメルヘン?」
小澤先生「(しんぼう強く)そう、ケッテンメルヘン。ケッテンは「鎖」。だから鎖話っていうのかなあ、次々鎖のようにつながっていく」

やった~
手がかりはつかんだ。
ところが帰ってから、辞典でもネットでも「ケッテンメルヘン」が見つからない。
うんうんうなって、はっと気がついた。
『国際昔話話型カタログ』ATUだ!
索引を引いた。「鎖」の項に「連鎖説話2000~2100」とあった。
同書p.950「累積譚2000-2100」。
これだこれだ!
つまりATU2000からATU2100の話型群が、ケッテンメルヘン。日本語では累積譚。

キーワードは「累積譚」
調べてごらん、みつかるから。

語りの森《昔話の雑学》のページ→こちらに、みつけたケッテンメルヘン52話をリストにして載せました。親切やね~

でね、再話するときの一番大事なことは、「語りたいな」とか「ほらこんな面白い話、聞いてよ」とか、っていう気持ち。
でもそれだけじゃだめで、なんでかっていうと、よく似た話(類話)が世界じゅうにいっぱいあるでしょ。だからひょっとしたらそれよりもっと素敵なバージョンの話があるかもしれないでしょ。
あとでそれを見つけたら、ああ、こっちのほうが好きって思うかもしれない。
再話作業ってエネルギーいるからね。いまさら別の類話でやり直す気にならない(ヤンはね。あかんたれやし)。

だから、いいたいことわかりますよね、すぐにその話に飛びつかないで類話を読もうってことなんです。
結果その話になっても、背後の世界が広がる。イメージがふくらんで、語るときの世界が豊かになるのですよ。

さて、「ありとこおろぎ」
52話のなかでもやっぱりいちばん好きだった。
ぶたもここやしもからすも・・・みんなとっても正直というか子どもらしいでしょ。
で、こおろぎは「川に落っこちたありを助けるんだ」って走りつづける。ながいながいながいことかかって。
聞いてる子どもたちは、もうありは死んじゃってるって思うんだけど、ちゃんと助かる。
最後の言葉がいかしてる。
「友達はお互いに助け合わなくっちゃね」って、笑っていうのよ。
友だちのために、わたし、ここまでできるかな?
子どもたち、ここまでできるかな?

昔話は未来への希望。

現実の世界は、大人が作っていて、決して子どものお手本になるようなものではない。
でも、こうありたいという思いは、大人も失ってはいけないと思う。
理想主義かもしれないけれど、こんな時代だからこそ、理想がほしい。
こうありたい心が語られている話を、再話し、語りたいと思うのです。