『スマイラ―少年の旅』三部作

『瀬田貞二 子どもの本評論集 児童文学論上』報告

図書館がお休みで、うちにない本については報告できなくって残念。
で、ないものはとばして書いていきますね。

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第3章書評など
《『スマイラ―少年の旅』三部作》1976発表

おもしろかった~~~
ほんっとにおもしろかった!
図書館休館ギリギリセーフで借りられたの。
これは、いわゆる子どものときに読んでおけばよかった類の作品ではない。
大人が読んでもおもしろい。

『スマイラ―少年の旅』三部作
ヴィクター・カニング作/中村妙子訳/新潮社/1975年刊
1979年に偕成社文庫で出ています。
第1部チーターの草原

第2部灰色雁の城

第3部隼のゆくえ

ヴィクター・カニング(1911-1986)
彼については児童文学事典等にもあまり情報がないのですが、瀬田先生の説明だけで十分でしょう。

推理小説作家。60歳になって初めてこの少年小説を書いた。
北デヴォンシャー隠棲中に野鳥の観察にふける。この自然と生き物への関心がモティーフとなり、そのモティーフをアイデンティティとして取り込める成長期の少年の物語にした。

第1部
原題は「脱走者たち」
自然公園から逃げ出した雌のチーター、ヤラと、教護学校から逃げ出した15歳の少年、スマイラ―。脱走者たちの、野性的な自由を生きようとする懸命な努力ががっちりと描かれます。そして、両者とも、他者の手によってゆがめられたものを、自然の力によって回復していきます。その過程を、具体的で的確な叙述で、重ねていきます。情緒的でなく抽象的でもない表現方法です。

第2部
原題は「灰色雁とびたつ」
スマイラ―がさらに逃亡することで、舞台が変わります。
湖にある時代外れのお城。やはり、自然の中で野生動物とかかわることで成長する姿が描かれます。伝説の宝を発見したり、強盗と戦ったり、スリルのあるストーリー展開です。

第3部
原題は「色縞のテント」
完結編。無理押しの虚構があって、一番弱い巻だといいます。でも、1部から読んできた勢いで読めば、十分に楽しめます。檻から逃げ出したハヤブサが自然に帰っていくプロセスに実在感があり。

どの巻にも、スマイラ―の援助者となる人物たちが現れます。彼らは、「世の秩序から外れた人物群」で、「作品に味を添えてい」ます。
引用
彼らに共通するのは、少年と野生動物とを問わず、きずつける弱者に心からの同情をよせながら、ある距離を置いて自覚なり自立なりを見守るという、心棒強い包容力であろう。その基底には、いいふるされた言葉だが、生命と個性を尊重する態度がある。

スマイラ―の正義感と誠実さだけでなく、そういうわき役たちの魅力が、読者を物語にひきこんで夢中にさせるんだと思います。

多分もとの文章も、簡潔なんでしょうが、中村妙子さんの訳がさわやか。

 

 

4 thoughts on “『スマイラ―少年の旅』三部作

  1. 若い頃、中村妙子さん訳の推理小説をよく読んでいたので、児童文学も手掛けられてるのかと驚きましたが、作者の方もミステリー作家なのですね。これは本当に面白そうです。しかも動物が出てくる!これは読みたい!図書館が閉まってるのが辛い…それにしても瀬田先生の視野の広さに驚きます。出版当時は話題になった本なのでしょうか。知らなかった。興味深い本を紹介していただきありがとうございます。

  2. たぬこさん
    ありがとうございます。
    ミステリ、アガサ・クリスティーですね~
    わたしもポアロはぜんぶよみましたよ(笑)
    今回調べたら、中村妙子さんって、児童文学もふくめ、ものすごくたくさん翻訳されているみたいです。図書館の蔵書検索かけてごらん~

    スマイラ―少年、自然観察が半端じゃない。
    早く図書館が開けばいいのに。
    コロナ、行っちまえ~

  3. この本!小学生の時に読みました。
    まさに大人が読んでも絶対に楽しいと思う本でした。
    今になって思えば読書の楽しみと、スコットランドの精緻な自然描写で未だ見ぬ外国への憧れというかけがえのない宝を私にくれた3部作です。
    もう絶版なんですよねえ。残念です。

  4. 野良さん、こんにちは。

    小学生の時に読まれたんですか!
    うらやましいです。
    感受性の鋭い時に見た光景は、たとえ想像の中であっても心に根付くでしょうね。
    まだ見ぬ外国へのあこがれ~わかる気がするq(≧▽≦q)

    再版してほしいですよね。今の子どもたちにも手渡したい。

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