日別アーカイブ: 2020年4月26日

『うしかたとやまうば』私見

瀬田貞二子どもの本評論集児童文学論上』報告

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第4章昔話
《昔話ノート》
「『うしかたとやまうば』私見」1972年発表

『うしかたとやまうば』瀬田貞二再話・ 関野凖一郎画/福音館書店
こどものとも1972年2月号
こどものとも絵本シリーズ2016年3月
昔話「牛方山姥」の瀬田先生による再話絵本です。

瀬田先生は数ある口承資料から、何をえらび、どのように再話したのか、興味のあるところです。

引用
私の再話は、おもに新潟各地のものを軸として、東北一帯、さらに岡山方面の伝承を参考に、ある代表的な型と思われるものに近づける試み

なんと!
前回の報告に引用したように、「千種万様のお国ぶりがあざやかに咲ききそう昔話の花園は、やはりそのいちばんよいすがたで移植され」るのがよいという瀬田先生自身の主張と、食い違っているではありませんか!
外国の昔話だけでなく、日本の昔話も、「日本の」とひとくくりにはできないと思います。地方によって色合いが違っています。そこには人々の生活がある。だからあちらの地域とこちらの地域の話を合体してはいけないのです。私は、そのように小澤俊夫先生から学びました。その通りだと思うのです。だから、語りの森HPでも《日本の昔話》には原話の出身県を明記しているのです。
「さるかに合戦」なんて全国にあるけれど、岡山鳥取では違うし、どれを選ぶこともできないし、合体させてもいけない。

と、先に批判を書いてしまうと、つづき、読みたくなくなった?
いやいや、たくさんの類話から何をどのようにくっつけていったかを見てみようではありませんか。お勉強になりますよ。
瀬田先生は、9項目に分けて説明しています。

1、牛方
東日本で牛方、西日本では馬方が多い。
牛はのろいので、山姥に出会ってスリルのあるのは馬より牛ということで、牛方にする。
(あ、瀬田先生の考えですよ。私は、実際は牛も速いし、牛であれ馬であれ、猛スピードで走っていくのが面白いと思う。しかも山姥は牛や馬よりもっと速いのが面白い)

2、山姥
敵対者は、ほとんどが山姥。たまに猿、猫、クモ、おに。

3、積み荷のサバ
どの類話でも、海岸から山地へ魚を運ぶ。

4、峠
柳田国男は峠で事件が起こるのは山神信仰の痕跡というが、それだけでなく、昔話の筋として、二つの地点の中継地は劇的な条件でもある。

5、ねだり食い
どの類話でも、山姥は魚をねだる。
たいていは、牛方は、牛の足を一本ずつ投げ与えて時間稼ぎをする。二本足や一本足で走るのをナンセンスに語る。
瀬田先生は、「そこが長すぎるし、やや残酷に目にうったえすぎるので省」いたということです。
(え~~!、ここは、子どもが大好きなところやのに~!切り紙細工のように語っているのよ。ちっとも残酷なことないのに)

6逃げる道
山姥が池に飛び込んで自滅する自滅型と、牛方が復讐する復讐型がある。
瀬田先生は、復讐型が古い形ではないかとして、こちらをとっています。援助者の出てくる類話から「炭焼き」を登場させています。

7、一軒家
牛方が逃げ込んだところが、山姥の家。「すてきです。」
そこに美しい娘がいて、牛方を助け、一緒に逃げて結婚する話もあるが、できすぎているのでとらなかった。牛方の力に焦点を当てた。

8、餅と甘酒
どの類話もこのアイテムだそうです。

9、木の櫃、長持ち
木の櫃の場合は熱湯で、釜の場合は下から火を焚いて、山姥をやっつける。
どちらも熱で殺す。
最後に財宝を見つけるものもある。瀬田先生は、「かれの大胆な後半の活躍に財宝を与えるのに、意義はありませんでした」と書いています。

みなさん、どう思われます?

引用
以上の人物、背景、道具立てからして、いかにも日本の土地柄が感ぜられます。・・・山地農民のつむいだ丈夫で暖かい布地を連想させるといえましょうが、この一篇の組み立ては、地味ながら堅牢で、ゆるみがありません。

最後に、「さんびきのこぶた」と構造が似ていると書かれていました。

ちなみに、絵本は絶版。でも、文章だけなら、本になっています。
『さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・』瀬田貞二再話・訳/野見山響子画/福音館書店2017年
日本と世界の昔話が28話はいっています。