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『うしかたとやまうば』私見

瀬田貞二子どもの本評論集児童文学論上』報告

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第4章昔話
《昔話ノート》
「『うしかたとやまうば』私見」1972年発表

『うしかたとやまうば』瀬田貞二再話・ 関野凖一郎画/福音館書店
こどものとも1972年2月号
こどものとも絵本シリーズ2016年3月
昔話「牛方山姥」の瀬田先生による再話絵本です。

瀬田先生は数ある口承資料から、何をえらび、どのように再話したのか、興味のあるところです。

引用
私の再話は、おもに新潟各地のものを軸として、東北一帯、さらに岡山方面の伝承を参考に、ある代表的な型と思われるものに近づける試み

なんと!
前回の報告に引用したように、「千種万様のお国ぶりがあざやかに咲ききそう昔話の花園は、やはりそのいちばんよいすがたで移植され」るのがよいという瀬田先生自身の主張と、食い違っているではありませんか!
外国の昔話だけでなく、日本の昔話も、「日本の」とひとくくりにはできないと思います。地方によって色合いが違っています。そこには人々の生活がある。だからあちらの地域とこちらの地域の話を合体してはいけないのです。私は、そのように小澤俊夫先生から学びました。その通りだと思うのです。だから、語りの森HPでも《日本の昔話》には原話の出身県を明記しているのです。
「さるかに合戦」なんて全国にあるけれど、岡山鳥取では違うし、どれを選ぶこともできないし、合体させてもいけない。

と、先に批判を書いてしまうと、つづき、読みたくなくなった?
いやいや、たくさんの類話から何をどのようにくっつけていったかを見てみようではありませんか。お勉強になりますよ。
瀬田先生は、9項目に分けて説明しています。

1、牛方
東日本で牛方、西日本では馬方が多い。
牛はのろいので、山姥に出会ってスリルのあるのは馬より牛ということで、牛方にする。
(あ、瀬田先生の考えですよ。私は、実際は牛も速いし、牛であれ馬であれ、猛スピードで走っていくのが面白いと思う。しかも山姥は牛や馬よりもっと速いのが面白い)

2、山姥
敵対者は、ほとんどが山姥。たまに猿、猫、クモ、おに。

3、積み荷のサバ
どの類話でも、海岸から山地へ魚を運ぶ。

4、峠
柳田国男は峠で事件が起こるのは山神信仰の痕跡というが、それだけでなく、昔話の筋として、二つの地点の中継地は劇的な条件でもある。

5、ねだり食い
どの類話でも、山姥は魚をねだる。
たいていは、牛方は、牛の足を一本ずつ投げ与えて時間稼ぎをする。二本足や一本足で走るのをナンセンスに語る。
瀬田先生は、「そこが長すぎるし、やや残酷に目にうったえすぎるので省」いたということです。
(え~~!、ここは、子どもが大好きなところやのに~!切り紙細工のように語っているのよ。ちっとも残酷なことないのに)

6逃げる道
山姥が池に飛び込んで自滅する自滅型と、牛方が復讐する復讐型がある。
瀬田先生は、復讐型が古い形ではないかとして、こちらをとっています。援助者の出てくる類話から「炭焼き」を登場させています。

7、一軒家
牛方が逃げ込んだところが、山姥の家。「すてきです。」
そこに美しい娘がいて、牛方を助け、一緒に逃げて結婚する話もあるが、できすぎているのでとらなかった。牛方の力に焦点を当てた。

8、餅と甘酒
どの類話もこのアイテムだそうです。

9、木の櫃、長持ち
木の櫃の場合は熱湯で、釜の場合は下から火を焚いて、山姥をやっつける。
どちらも熱で殺す。
最後に財宝を見つけるものもある。瀬田先生は、「かれの大胆な後半の活躍に財宝を与えるのに、意義はありませんでした」と書いています。

みなさん、どう思われます?

引用
以上の人物、背景、道具立てからして、いかにも日本の土地柄が感ぜられます。・・・山地農民のつむいだ丈夫で暖かい布地を連想させるといえましょうが、この一篇の組み立ては、地味ながら堅牢で、ゆるみがありません。

最後に、「さんびきのこぶた」と構造が似ていると書かれていました。

ちなみに、絵本は絶版。でも、文章だけなら、本になっています。
『さてさて、きょうのおはなしは・・・・・・』瀬田貞二再話・訳/野見山響子画/福音館書店2017年
日本と世界の昔話が28話はいっています。

昔話の文学性👸🤴

『瀬田貞二 子どもの本評論集 児童文学論 上』報告

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第4章昔話
《昔話ノート》「昔話の文学性」1960年発表

子どもは昔話が好きだけれど、なぜなのかということが書かれています。

答え
昔話が、単純率直な形で文学の骨格をがっしりそなえているから。つまり、昔話は、文学の美しさ、力強さ、わかりよさの典型である。

文学っていうのは、「テーマ」「構成」「表現」で成り立っていて、昔話は、そのどれをとっても必要十分で、しかも子どもにふさわしいと、瀬田先生は言います。

「テーマ」
多種多様。
人生の折り目折り目における禍福生死様々の問題が、庶民の知恵で織り込まれている。
題材は身近。
奇抜な空想の世界。

「構成」
骨太な組み立て。
つまらない個所や無駄なところが削り取られている。
発端:時と場所と人物と条件が、これ以上考えられないほど簡潔に明らかにされている。「むかし、あるところに、じいさんとばあさんが・・・」
事件:連続してスピーディに進む。事件のつながりが、「それからそれから」と好奇心を生む。三つの繰り返しは、テンポでありリズムであり、幼い子どもを肉体的にもつかむ。
クライマックス:驚くべき意外な局面の高まりとなだれかかる事件が、一挙に起こる。期待は完全に満たされる。
結末:静かに、願わしかるべき結末。
単純明快な構成が、子どもの集中力を一束にまとめ、空想の世界へと軽々と運んでいく。

「表現」
細かな描写や心理は描かず、事実そのまま、行動と事柄だけでストーリーを進める。くだくだしい説明は一切しない。

私たちが学んでいるリュティ理論との違いはありませんね。別の言葉で書かれていることによって、新鮮でわかりやすく感じます。

そして、瀬田先生は、あらたな再話集の必要性を説きます。

引用
(口承資料の)昔話の中には、やはり子どもにむかないような、野卑なものなどがまだまだたくさん詰まっているのですから、その土くささや芯の強さやねばりや活気を消さないようにして、簡潔率直に、昔話の生地をあらいだして、野卑と冗漫と不完全さとを取捨補足して子どもにむく珠玉選を作りださなければなりません。・・・・いっぽう諸外国の昔話ももっとどしどし紹介されたいものです。・・・千種万様のお国ぶりがあざやかに咲ききそう昔話の花園は、やはりそのいちばんよいすがたで移植され、子どもをそこに心ゆくまで遊ばせてやりたい

はい、がんばります^0^

外国の昔話🎪

HP《外国の昔話》をリニューアルしました。
スマホに対応しています。
ついでに、音声の雑音も削除しました。クリアになったぶん、アラもわかる(>人<;)

おはなしのリストをあらためてみると、笑い話と男の子の成長の話が多い。
呪的逃走も多いなあ。
なるべく偏りがないように、気を付けて原話を選んでるんだけど、好みが出てしまう。
私の再話は、私の聞き手の子どもたちに向けての再話だから。
おばちゃんは、これが好きやねん、でいいと思う。
子どもたちは、ほかの語り手たちの語りも聞くわけやからね。

ただ、このサイトからお話をえらんでくださる方々がいると思えば、そうはいかないか。
子どもたちにはできるだけ幅広くいろんな話を聞いてもらいたいし。

そうね。
私自身の心の幅を広げるためにも、もっと多様な原話に取り組んでみよう。
えらいなあ、わたし。ちゃんと反省してるやんヾ(•ω•`)o

『おだんごぱん』のテキスト🍪

『瀬田貞二 子どもの本評論集 児童文学論上』報告

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第4章昔話
《昔話ノート》
『おだんごぱん』のテキスト1968年発表

『おだんごぱん』ロシア民話/脇田和絵/瀬田貞二訳/福音館書店1966年刊

訳者ご本人の解説ですよ(^0^)

原典は『ロシア絵話』バレリー・キャリク著/オクスフォード版1922年
検索したらどこにもなかったので、『Picture Tales From The Russian』で検索したら、白百合女子大に1冊あるそうな。
これ以上さかのぼれませんね(笑)

さてさて、みなさんは『おだんごぱん』はご存じですよね。古典中の古典。
で、よく似たお話、ほかにも知ってますよね。
瀬田先生は、そのことについて書かれています。
私達は、類話という言葉で知ってるし、お勉強しています。
その同じことを瀬田先生の言葉で読んでみましょう。
引用
ストーリーがそっくり似ている話が、よく世界中にちらばっているわけは、今日でもよくわかっていません。同じひとつの話の種が、一本のタンポポからたくさんの種子が風にのって東西南北にとぶように、旅人たちの口に運ばれて、世界じゅうにとびちったのだろうという説もあり、昔の人々の考えはたがいによく似通っていたから、世界じゅうのあちこちで同じような物語が同じころに考えつかれたにちがいないという説もあって、どちらが正しいともいえないのです。

わかりやすいですね。
《昔話雑学》「昔話の起源」を参考にすると、もっとわかりやすい(。・∀・)ノ゙

ではその類話の中からどうして瀬田先生はロシアの伝承を選んだのか。
実はそれは書いていないのです。
かわりに3つの類話の説明をしています。

1、イギリス『イギリス昔話集』ジョセフ・ジェイコブズ編
最初:お父さん、お母さん、男の子
出会う:井戸掘り、みぞ掘り、くま、おおかみ
最後:きつね
だまし:耳が聞こえないから、もっと歌ってくれ。
評:簡潔で実際的

2、ロシア
最初:おじいさん、おばあさん
出会う:うさぎ、おおかみ、くま、
最後:きつね
だまし:鼻の先で歌ってくれ、舌の先で歌ってくれ。
評:初めに家庭事情が暗示され、あとは段取りのよい音楽のように流れていく

3、ノルウェー『ノルウェー昔話集』アスビョルンセンとモー編
最初:お父さん、お母さん、七人の子ども
出会う:男、めんどり、おんどり、あひる、がちょう、かも
最後:ぶた
だまし:川を渡してやる
評:かなり凝っている。最後はシャレた結末句。

3は、のちに東京子ども図書館が『おはなしのろうそく18』に松岡享子先生の訳で載せられているのと同じようです。ただ、『お話のリスト』(東京子ども図書館)によると、原著者は「ソーン・トムゼン」となっていて、アスビョルンセンとモーではないので、同じものかどうかは、ヤンには確認できません。

瀬田先生は、「同じ一つの話の種でも、これほどに変化させた人情風俗や風土のみごとなバリエーションに、たまげてしまいます」といっています。
ほんとうにそうですね。だから昔話は面白い。

ちなみに『おだんごぱん』はATU2025「逃げるパンケーキ」。累積譚です。興味のある人は調べてみてください。

『スマイラ―少年の旅』三部作

『瀬田貞二 子どもの本評論集 児童文学論上』報告

図書館がお休みで、うちにない本については報告できなくって残念。
で、ないものはとばして書いていきますね。

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第3章書評など
《『スマイラ―少年の旅』三部作》1976発表

おもしろかった~~~
ほんっとにおもしろかった!
図書館休館ギリギリセーフで借りられたの。
これは、いわゆる子どものときに読んでおけばよかった類の作品ではない。
大人が読んでもおもしろい。

『スマイラ―少年の旅』三部作
ヴィクター・カニング作/中村妙子訳/新潮社/1975年刊
1979年に偕成社文庫で出ています。
第1部チーターの草原

第2部灰色雁の城

第3部隼のゆくえ

ヴィクター・カニング(1911-1986)
彼については児童文学事典等にもあまり情報がないのですが、瀬田先生の説明だけで十分でしょう。

推理小説作家。60歳になって初めてこの少年小説を書いた。
北デヴォンシャー隠棲中に野鳥の観察にふける。この自然と生き物への関心がモティーフとなり、そのモティーフをアイデンティティとして取り込める成長期の少年の物語にした。

第1部
原題は「脱走者たち」
自然公園から逃げ出した雌のチーター、ヤラと、教護学校から逃げ出した15歳の少年、スマイラ―。脱走者たちの、野性的な自由を生きようとする懸命な努力ががっちりと描かれます。そして、両者とも、他者の手によってゆがめられたものを、自然の力によって回復していきます。その過程を、具体的で的確な叙述で、重ねていきます。情緒的でなく抽象的でもない表現方法です。

第2部
原題は「灰色雁とびたつ」
スマイラ―がさらに逃亡することで、舞台が変わります。
湖にある時代外れのお城。やはり、自然の中で野生動物とかかわることで成長する姿が描かれます。伝説の宝を発見したり、強盗と戦ったり、スリルのあるストーリー展開です。

第3部
原題は「色縞のテント」
完結編。無理押しの虚構があって、一番弱い巻だといいます。でも、1部から読んできた勢いで読めば、十分に楽しめます。檻から逃げ出したハヤブサが自然に帰っていくプロセスに実在感があり。

どの巻にも、スマイラ―の援助者となる人物たちが現れます。彼らは、「世の秩序から外れた人物群」で、「作品に味を添えてい」ます。
引用
彼らに共通するのは、少年と野生動物とを問わず、きずつける弱者に心からの同情をよせながら、ある距離を置いて自覚なり自立なりを見守るという、心棒強い包容力であろう。その基底には、いいふるされた言葉だが、生命と個性を尊重する態度がある。

スマイラ―の正義感と誠実さだけでなく、そういうわき役たちの魅力が、読者を物語にひきこんで夢中にさせるんだと思います。

多分もとの文章も、簡潔なんでしょうが、中村妙子さんの訳がさわやか。